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公益事業情報

米谷・佐佐木基金

受賞者(学位論文部門)の挨拶と受賞講演

谷口 綾子氏

谷口 綾子
筑波大学大学院システム情報工学科リスク工学専攻 講師

【 研究題目 】
交通需要マネジメントにおける心理的方略
トラベル・フィードバック・プログラム導入可能性に関する研究

 このたびはたいへん栄誉ある第1回の米谷・佐佐木賞をいただきまして、誠にありがとうございました。選考委員会の方々と、こういう賞を開設していただいたシステム科学研究所の方々に、厚く御礼申し上げます。また、この賞をいただいた博士論文を北海道大学で書いていたときにご指導いただいた北海道大学の加賀屋誠一教授、高野伸栄助教授、そして当時京都大学に居られた藤井聡助教授に、この場をお借りしてお礼申し上げます。

1.研究の背景と目的

背景(1)

背景(2)

研究目的

 交通渋滞、中心市街地の活性化、地球環境問題、・・・これらに共通することは、人々が短期的、利己的にメリットのある行動をとると、社会的、長期的メリットが低下してしまうという状況です。たとえば短期的、利己的に考えると、車を使う方がいつでも出発できてどこへでも行けるという意味でメリットがあるが、社会的に考えると交通渋滞が起こってしまい、長期的に考えると環境問題が起こってしまうというデメリットが生じます。こういう状況が社会的ジレンマと呼ばれているものです。

 社会的ジレンマの解消方法には、システムや環境をなんらかの方法で変える"構造的方略"、と、啓発キャンペーンや教育、コミュニケーションによって個々人の自発的な行動変容を促す"心理的方略"があります。ジレンマ解決のためには、構造的方略も心理的方略も両方必要であることが知られていますが、本研究では社会心理学的アプローチに注目して、それによりジレンマ解決ができないか研究を行いました。

 学位論文での研究は、その心理的方略の一手法であるTFPの実践手法の開発をしました。具体的に言いますと、先ず自分の行動を客観的に振り返ってみる機会を提供する。次に、自分の行動が長期的に環境に与える影響を理解してもらう。その後、具体的に解消するにはどうすればいいのか、環境に配慮した自動車の使い方をアドバイスするという手順を考えました。

 このTFPを札幌都市圏の三つの地域−二つの町内会・自治会と一つの小学校−に適用し、効果の計測と分析を行うとともに、実験の1年後に効果が続いているかどうかという効果の継続性も検証しました。また、規範活性化理論という既存の社会心理学で用いられている理論による検証も行いました。

2.交通システムの予約制と駐車場問題の緩和
TFPの基本手順

診断カルテコメント例

教育課程型TFPの実践

 TFPの基本手順は、最初にパンフレットなどによって動機形成をした後、"ダイアリー1"で、1週間の交通行動のダイアリー調査を行いました。
手帳型の調査票を被験者の方に渡し、目的や移動時間などを書いてもらい、これを回収・集計し、"診断カルテ"を作りました。診断カルテは、まず月曜日から日曜日まで、どういう行動をしたのかということを振り返ってもらうもので、交通機関別の利用回数と利用時間を書いてもらいます。なおそれには、その地区の平均値が書いてあり、そして「あなたはもうちょっとこのようにできるんじゃないでしょうか」というアドバイスのコメントを書きます。アドバイスのコメントは、エキスパート・システムを作って、きちんとした判断基準で行われるようになっています。なお、コメントは、まずその人の行動を褒め、その次に「でも、ここはこのようにできるんじゃないでしょうか」というように提案しています。その診断カルテをフィードバックした後に、ダイアリー2ということで、ダイアリー1とまったく同じ交通行動の日記の調査を行い、ダイアリー1とダイアリー2の比較結果、「あなたはこのぐらい変わりましたよ」という比較結果を最終診断カルテとして被験者の方にフィードバックする、という手順で行いました。

 町内会は以上の手順で行いましたが、小学校はこのダイアリー1とダイアリー2の前後に3回の授業を挟み、担任の先生と共同で講義をするなどをして実施しました。

3.TFPの効果
自動者トリップ削減効果

 効果の分析結果は、まず自動車のトリップがどのくらい減ったか、教育としてどうだったのかということに着目して、話をさせていただきます。まず、自家用 車のトリップが5%減り、CO2排出量に換算すると、16.3%減ったという結果になりました。目的別に見ますと、私用の目的が減っているという結果になりましたが、通勤・通学はなかなか減らないという結果になりました。

 それから、小学校に対して行った結果より、「家族みんなで相談しましたか」、「家族の誰と相談しましたか」と聞いた答えに対し、世帯のCO2削減の効果をクロスしたものをみると、やはり家族全員でこのことについて相談したという世帯の方が減っているという結果を得ました。相談していないとか、お母さんにだけ相談という人はあまり減っていないということがわかりました。

4.TFPの効果は持続する
相談者別世帯CO2排出量変化

 このプログラムを実施して、まずみなさんに聞かれるのが、「実施直後は変わっていても、それって続くのでしょうか」ということです。そこで、それを検証するために、1年後にTFPの参加者と不参加者を抽出して、意識の比較を行うという検証調査を行いました。その結果は、環境負荷の低い交通行動実践への意欲という指標で参加者と不参加者で有意に差があったという結果を得ました。すなわち、TFPは1年後も実際の行動に有意に影響を与えているという結果が出てきました。

5.MM(モビリティ・マネジメント)への取組
TFPの施策展開

2005年12月現在の国内事例

 モビリティ・マネジメントは、自発的に行動を変えて社会的に望ましい方向に自発的に行動を変えていただくための公共政策の総称です。その中の一手法としてTFPがあります。現在、国土交通省の道路局や運輸局、環境省の地球温暖化対策室、それから地方自治体や都道府県の方などいろいろな人が興味を持たれて、さまざまな取り組みが実施されています。バス事業者や鉄道事業者の方も興味を持たれています。昨年12月現在の国内事例を、私が把握しているものだけを示したものが右図です。私が2000年当時に実施したときは唯一だったのですが、2003年ぐらいから飛躍的に事例の数が増えて、現在はかなり本格に展開がなされようとして状況になっていると言えます。

 名誉ある第1回の賞をいただいて、本当に光栄に思っております。これからも交通の計画と運用に関する工学的な研究を進めていく所存ですので、よろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

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