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米谷・佐佐木基金

受賞者(ISTTT功績部門)の挨拶と受賞講演

Carlos F. Daganzo氏

Carlos F. Daganzo
カリフォルニア大学バークレー校 教授

【 ISTTT功績賞 受賞講演 】

 皆様、本日は京都にまた来る機会を得られて、たいへんうれしく思っています。今回、この米谷・佐佐木賞ISTTT功績部門賞の第1回受賞者に選出されましたことを、たいへん光栄に感じております。

 ISTTTという著名な組織に関わる賞であることに加えて、日本の交通科学の二人の偉大な先生の名前を冠した賞をいただいたことを、たいへんうれしく、光栄に思っております。

はじめに

はじめに

 

 ISTTTは、私のキャリアをよい方向に導いてくれただけではなく、日本において多くの友人を作ることにもつながりました。本日は自分の背景と、米谷榮二先生、佐佐木綱先生に関しても述べたいと思います。まずはISTTTに関わる前の自分のキャリアから少し紹介させてください。

私は1975年に、ミシガン大学で博士号を取得しました。そしてISTTTのインターナショナル・コミッティのメンバーであるドナルド・クリーブランド教授の下で研究をしておりました。研究内容は「Steady-state traffic flow on two-lanes road through their rents of queueing theory」というものです。また、私は学生として、デマンド・レスポンス公共交通についてもクリーブランド先生のプロジェクトの一環として研究をしておりました。

 京都大学の北村隆一先生もこのISTTTのインターナショナル・コミッティのメンバーで、デマンド解析において著名な研究者です。クリーブランド先生の研究室の出身で、私のあとに卒業されたということで、私にとっては弟のような存在です。

 卒業してから私はMITの教員として仕事をして、私の学生の一人であるクリス・ヘンドリクソン君と、友人であり同僚でもあるナイジェル・ウィルソン教授と公共交通の研究を継続しました。そして彼らの協力もあって、ミシガンでのアイデアを論文として発表することができました。論文は、単純な公式で効率的な一対多のデマンド・レスポンス・バス・システムを説明したもので、最終的には学生のクリス君がこの研究を元に博士論文を発表し、現在はカーネギー・メロン大学の有名な先生となっています。

 このときの論文はトラフィック・フローに関するものではなく、ISTTTの中心的なテーマとは少し異なるかもしれないと思いつつ、1977年8月に京都で開かれた第7回ISTTTに提出をしました。著名な学会ということで論文が広く目に触れるだろうという期待があったことと、そのころのISTTTはトラフィック・フローから他の移送分野にスポットを拡げていたので、採用されるかもしれないという期待があったのです。

 私の論文がレビューされている期間に、私はカリフォルニア大学のバークレー校に移って、そちらでISTTTの設立者である偉大なゴードン・ニューウェル先生に懇意にしていただける機会を得ました。ニューウェル先生には先輩として、いろいろとお世話になりました。ニューウェル先生はISTTTの意義を私たちに説明し、そして私たちが提出した論文のアイデアについても、非常によい示唆をいただきました。

 また、京都のオーガナイザーである米谷先生、佐佐木先生に関しても、たいへんよくおっしゃっていました。お二人はISTTTの設立から関わっておられる交通科学と交通力学の専門家で、1959年にミシガン、デトロイトで開催された第1回ISTTTにすばらしい論文を発表されたということをうかがっておりました。

 そのころトラフィック・ダイナミクスは私の専門分野ではなかったのですが、そういった話を聞いて興味を持ったので、二人の先生方の研究について自分でも勉強し、ニューウェル先生のおっしゃっていた意味がよくわかりました。

 米谷先生、佐佐木先生がISTTTで発表した論文のタイトルは「Dynamic Behavior of Traffic with a Nonlinear Spacing-Speed Relationship」というものでした。私にとって、これは後続車のノンリニア・エフェクトを初めて勉強することになった、たいへん印象深い論文でした。実際の車を使った実証実験も含まれていて、そのなかでもっとも興味深かったのが、ショック・ウェーブを生み出すシンプルなノンリニア・カー・フォローイング・モデルの記述です。当時のリニアモデルでは説明できないけれども現実には観察されていた現象について興味を持ちました。

 ライトヒルとワイサム、リチャード(M. J. Lighthill and G. B. Whitham, P. I. Richards)らのキネマティック・ウェーブ・フルード・モデルにおいて、ショック・ウェーブの概念は紹介されていましたが、このリニア・カー・フォローイング・モデルにおいては発生しない現象でした。そこで米谷先生、佐佐木先生の研究は、ミクロのカー・フォローイング理論のダイナミクスと、ノンリニアのモデルが、よりマクロかつ一般的なフルード理論によって結合できる可能性を示唆するものと思われました。

論文01

 

 その3年後、ニューウェル先生の記念すべき研究成果が「Nonlinear effects in the Dynamics of Car Following」というタイトルの論文として、1961年の『オペレーションズ・リサーチ・ジャーナル』に掲載されました。これは米谷先生、佐佐木先生のアイデアを完成させたものとも言えます。その意味で、お二人の先駆者の功績を記念する賞を設立されたことは、たいへん意義深いことだと考えます。

 お二人の先生の文献を読んで、交通科学には私が知らないことがまだたくさんあると感じましたので、ますます京都の会議に参加したいという思いを強くしました。参加することによって自分のアイデアを整理し、これから研究すべきテーマが明確になると考えました。

 MITからバークレーに移った直後に、論文が選考に通ったことを知らされて、「よし、日本に行けるぞ」ということになりました。

京都での思い出

論文02

 

 ゴードン・ニューウェル先生と学生のクリス・ヘンドリクソンくんと一緒に、3人で京都に行きました。こちらの資料は私たち3人が京都に来たときの写真です。日本に来られたこと、そしてISTTTに初めて参加したということで、これは私にとっては忘れられない思い出です。

 会議では、私はバークレーの教員としての立場と、それから実際に研究をしていたMITの教員としての二つの立場で参加しました。おかげで、バークレーの参加者向けのパーティとMIT参加者向けのパーティと、二つのパーティに行けることになりました。もちろんお腹がふくれたということもありますが、より多くの人たちと懇意に、お近づきになれたことが、たいへんよい思い出になりました。

 この京都の会議においては、ニューウェル先生からISTTTの創設者であるボブ・ハーマン氏やマーティン・ベックマンさんを含む交通科学の偉大な先生方に紹介していただいて、私としては感激して、このシンポジウムからできるだけたくさんのことを学んで帰ろうと感じました。

 そのなかでも私がよく覚えているのは、米谷先生がこのトピックのテーマの複雑さと重要性を強調しておられた言葉です。

 そしてこのシンポジウムは、さまざまな分野の方がオープンに議論される場だという印象を受けたことを覚えております。交通に関するあらゆるトピック、テーマが議論されたと記憶しています。トラフィック・フロー、コントロール、デマンド分析、公共交通、そしてトラフィック・アサインメントなどなど、さまざまな議論が交わされました。

TRAFFIC ASSIGNMENT TO FREEWAYS

TRAFFIC ASSIGNMENT TO FREEWAYS

 

 そのなかで、いくつか画期的な論文にも出合えました。とくにニューウェル先生の、高速道路と平行する幹線道路からなるコリドーへの定常状態トラフィックのアサインメントと出入り道路の設置場所という論文が、私にとっては非常に印象に残りました。トラフィック・アサインメント・モデルに初めて物理的な待ち行列を導入したものだということで、画期的だと感じました。論文からのこの図にあるように、複数の定常アサインメントが存在することを示す内容でした。

 この図からもおわかりいただけるかと思いますが、物理的な待ち行列を扱うことは、当時の標準的なアサインメント・モデルよりもずっと複雑で難しいものです。私はその当時の単純な標準的モデルには致命的な欠陥があると感じていたので、ぜひこれに取り組みたいと思うようになりました。単純なモデルやポイント待ち行列を含むモデルは、移動時間がフローとともに増加する、つまり速度が最低のときにフローが最大になると認定していました。これは完全な誤りで、実際に渋滞の車の中から外を見れば現実は反対で、フローは低くなるはずです。

 この気づきから、間違った前提に基づくモデルは、破棄・修正すべきだと私は感じて、これはとくに価値のある研究だと考えました。というのは、これを修正していくことに、他の研究者の方がたは関心がなさそうでしたので、これは私独自のテーマになるのではないかと感じたわけです。

 また、このシンポジウムでは、ネットワークのモデリング作業のほとんどは、統計学やアルゴリズムに基づいていましたが、これらの体系の特性をあまり深く理解しようとしている感じがなかったので、この点でもよりよいデザインができるはずだという認識も得られました。

An approximate analytic model of many-to-one demand responsive

An approximate analytic model of many-to-one demand responsive

 

 我々の公共交通のトランジットに関する論文は、単純なコンティニュアム・アプロキシメーションに基づくもので、当時の潮流においては例外的なものでしたので、その意味でも独自なチャンスがあるのではないかと考えました。

 私が初めてISTTTに参加して気づいたことは、他の研究者の皆さんが目を向けていなかった二つの大きな空白領域があることです。その一つは、アプロキシメーションによるよりよいシステム設計と、もう一つはネットワークにおけるトラフィックのより現実的な扱いです。私たちの論文はISTTTの重鎮の先生方からも温かい評価をいただいて、さらにこの二つの分野に確信を持つようになりました。

 その後長年にわたっていろいろな研究を私も行なってきましたが、やはりいま述べた二つの分野の研究が、自分のなかではもっとも大きいと感じています。その過程で、ISTTTは私にとって常に重要な存在でした。  私は大きな会議は好きではなく、若いころはさまざまな会議に出たのですが、じつはほとんどの会議は時間の無駄だとすら感じていました。とくに狭い領域の専門家同士で同じ話題を繰り返し扱うような会議は、おもしろくないと感じていました。

 しかし、そういった会議があるなかで、このISTTTだけは例外です。頻度が少なく、何と言っても交通科学のあらゆる分野に開かれていて、真に国際的で、真に優秀な研究者が集まる会議だと感じました。他の研究者の先生と意見を交わし、自分の研究を発表するという意義だけではなく、関連分野のあらゆる最新の知見を得ることができたことも大きいと思っています。

 自分の研究を、誰も行なっていない方向に微調整するという道しるべとしてたいへん役に立ちました。また毎年ではないということも、研究的には効率的だったと感じています。

 ですから、この京都での会議に参加して以来、ほとんどのISTTTの会議に論文を提出し、参加をしてきました。じつは一度だけやむを得ない事情で参加できないことがありましたが、他はすべて参加して、行くたびにさまざまなアイデアとエネルギーを得られる会議になりました。

 今回、自分の功績について賞をいただいて振り返ってみると、ほとんどの自分の研究成果はこのISTTTが引き金になったものばかりであると感じています。しかし、そのなかでも最高の体験は、米谷先生と佐佐木先生がホストを務められたあの会議が、自分にとっては一番大きな示唆でした。それ以後、生涯を通じて、その会議で感じ、発見した二つの空白領域を埋めようと私は研究をしてきました。

 一つ目の空白は、フィジックスとアプロキシメーションに基づくシンプルな方法論によるデザインがないことです。ここから私はアルゴリズム以外の方法でのロジスティクス・システムの構築を試みるという動機を得ました。それを京都で発表したシンプル・コンティニュアム・モデルで模索しました。

 1980年代にGM社とバークレーのOB研究者と一緒に、トランジットとロジスティクス・システムを交差させるモデリング手法の開発を行ないました。パーシモニアス・モデルと、正確なアプロキシメーションに基づくものでした。その後、これらの概念を組み合わせて、UCBの二つのコース、ロジスティクスとパブリック・トランスポーテーションに取り入れました。

Lecture Notes in Economics and Mathematical Systems

Lecture Notes in Economics and Mathematical Systems

 

 現在では、そのときのコースのノートが二つの本として出版され、バークレー校やその他の大学でも活用されています。資料はロジスティクスの本の第1版で、ISTTT創設者のベックマン先生が、編集に加わっておられます。これもISTTTのおかげで、日本で開かれた他の二つの発表内容もこれに関連するものです。

Transportion Research

 

 そして、1990年に越正毅先生のオーガナイズによって開催された横浜会議、そして最近では2015年に桑原雅雄先生、朝倉康夫先生、喜多秀行先生のホストによる神戸会議においても、これに関する内容になりました。

 二つ目の私が感じた空白領域は、フィジカル・キューに関する研究があまりされていなかったことです。このテーマの重要性は、京都会議において、ポイント・キュー・モデルとニューウェル先生のフィジカル・キュー・モデルとの大きな違いを目の当たりにしたことで、ここにギャップがあると確信しました。前者は扱いやすいが非現実的であり、後者は現実的であるが非常に複雑です。

 そこで1990年代以降は、私はほぼこの分野の研究に費やしてきました。たとえばグリッドロックの研究、これは1996年にリヨンのISTTTで私が発表しました。ネットワークが力学的にゼロ・フローに崩壊しうることを証明したものです。また関連するセル・トランスミッション・モデル、こちらもISTTTの著者の先生にはよく引用していただいています。またバリエーショナル理論、一部は2002年のマリーランドの会議で発表させていただきました。さらにMFDの研究、低速ではフローが低いという概念などです。

 これらの研究の元となったものはすべて、この京都会議で私が得たフィジカル・キューに対する執着から始まって、その後のISTTTの会議のなかで強化されていったものです。

 このISTTTの会議は、研究という学問的なことを離れても、個人的にも楽しい時間をすごせました。常に会議はリラックスしたムードで開かれ、インフォーマルな懇親会もあって、新しい友人を作ったり、また古い友人と親交を温めることもできました。

エルサレムの会議でのディナー

エルサレムの会議でのディナー

 

 こちらはエルサレムで開かれた会議のときのディナーです。妻のバレリと一緒に参加しています。リラックスした雰囲気を見ていただけると思います。

 会議の最後の金曜日にバークレーの出身者の懇親会を企画しましたが、それを企画されたのは誰だとお考えでしょうか。

 じつは企画をしたのは喜多秀行先生です。先生はバークレーに何度も行かれて、「もはやOBの気分だ」とおっしゃるので、ではバークレーの一員としてということでパーティに参加していただいたのです。

横浜での思い出

横浜での思い出

 

 ISTTTの横浜での会議についても、たいへん楽しい思い出があります。30年ほども昔の話になりますが、越先生と桑原先生のすばらしいオーガナイズで開催された会議でした。個人的にもっとも印象に残っているのは、桑原先生が「東京の事務所に車で連れていってあげる」と言って、地図があるのに道に迷ったことです。(笑)

 桑原先生が説明されるのは、「日本は道にストリート名がない。番地しかないんですよ。」ということで、すぐ近くまで来ているはずなのに、たどり着けない。私は地図を渡されて、日本語も読めないのに「ナビゲーターをやれ」と言われて、仕方がないので、通りの向きとビルの影を頼りに、交通科学の知見を駆使して何とかたどり着いたしだいです。

 2008年には東京と京都に招聘していただいて、講演を行ないました。最近では2015年に神戸会議にも参加させていただきました。このどちらの会議も桑原先生、喜多先生、朝倉先生のご企画によるものです。その節もたいへんお世話になりました。

2012年のバンケット

2012年のバンケット

 

 こちらの写真は、朝倉先生が私と妻のバレリをバンケットにお迎えくださっている写真です。2012年です。

神戸会議での挨拶

神戸会議での挨拶

 

 神戸の会議では、喜多先生から挨拶を頼まれて話しました。そのときたしかオーガナイザーが自分の論文を発表することを控えておられたので、それを称賛するような話をしたかと思いますが、ちょっと酔っていて正確に何を言ったか覚えていません。もし変なことを言っていたとしたらいまお詫びを申し上げます。

桑原先生と訪れたパチンコ店

桑原先生と訪れたパチンコ店

 

  会議の他にも、忘れられない思い出がたくさんあります。これは桑原先生とのパチンコです。

ディナー・パーティ

ディナー・パーティ

 

 こちらは同伴でのディナー・パーティです。いつも最高のおもてなしで迎えていただいたことを感謝しております。

謝辞

 

 そしてあらためて、このたびの選考委員の先生方にも御礼を申し上げます。米谷先生、佐佐木先生の偉大なお名前とともに私の名前が一緒に話されるというのはたいへん恐縮で、光栄に感じております。

 私がISTTTの会議から多大な恩恵をいただいて、そのいただいた多大な恩恵に対してほんの少しばかりお返しができたことが、今回の表彰につながったのではないかと受け止めております。もしそうだとすれば、私も本当に心が温まりますし、今後もこのISTTTが、私にとってそうであったのと同様に、若い研究者の方がたのキャリアや成長の支えとなることを期待しています。ご清聴ありがとうございました。

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