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米谷・佐佐木基金

研究報告講演

加藤浩徳氏

加藤 浩徳
東京大学大学院 工学系研究科 教授

【 研究題目 】
交通インフラの経済生産性へ与える影響
〜中間報告〜

 昨年度、名誉ある賞をいただきましたが、その後どのような研究をしているかについて、簡単なご紹介をさせていただければと思います。

はじめに

はじめに

 

 タイトルは「交通インフラの経済生産性へ与える影響」というもので、学生と一緒に進めている研究の中間報告です。

世界都市ランキングと都市の競争力

世界都市ランキングと都市の競争力

 

 最近、成長戦略の話がよく出ますが、そのなかで国際競争力という言葉をよく耳にするようになりました。また、世界の都市ランキングというものもしばしば見かける気がします。東京が何位になったということが、よくニュースで流れています。

世界都市ランキングの例

 

 

 世界中でさまざまな機関が都市ランキングを発表していますが、日本でよく知られているものの一つが、一般財団法人森記念財団の出している世界ランキングなのではないでしょうか。

 つい先日出された最新のランキングによると、東京はロンドン、ニューヨーク、パリに続いて第4位になっています。ただし第5位にシンガポールがあって、追い上げているということが書かれていました。

 京都の方からは東京に「都をお貸ししているのだ」というお話を伺うこともありますが、少なくとも現時点の日本の首都は、世界の第4位らしいことが伺えます。東京は、京都の方にある程度の責任は果たしていると言えるでしょうか。

都市ランキングと交通インフラ

 

 

 ランキングの決め方に関しては、こんな方法でいいのかと思うこともありますが、東京の評価の中身を見ると、市場の規模や経済集積などの経済分野は比較的強いようです。それから研究開発分野、環境でも比較的よい順位になっていますが、交通に関して見ると、あまりよくないという評価を受けています。特に国際交通ネットワークや交通の利便性が弱いという、我々にとっては気になる評価がなされています。

国際競争力強化と空港アクセス交通

国際競争力強化と空港アクセス交通

 

 近頃、政府が言っている国際競争力の強化という観点と、先ほどのランキングで示されている課題とを照らし合わせますと、ここ最近注目を浴びている話題の一つは、空港へのアクセスだろうと思います。

 実際に新聞などを見ていますと、羽田や成田など、日本を代表する主要な国際空港によりよいアクセスができるように、鉄道を整備しようという話が出ています。

 ちなみにこの写真は空港アクセスの鉄道ですが、実はモスクワのものです。あとでもお話ししますが、世界の主要都市は、国際空港へのアクセスを改善するための努力をかなりしています。日本もそういった意味では負けられないところです。

空港アクセスと都市の生産性

空港アクセスと都市の生産性

 

 実際にここ数年、首都圏において空港へのアクセス鉄道を造ろうという提案が、次々とされています。いくつか例を申しあげますと、たとえば大深度地下鉄を造ることによって、成田と羽田とを直接つなぐ鉄道を造る計画が提案されています。また、羽田空港から東京の方向、新宿の方向、千葉の方向に向かって3本の新たな鉄道を造る提案があります。さらに、800メートルほどしか離れていない東急の蒲田駅と京急蒲田駅とをつなぐことによって、関東北部の人たちが羽田空港に1本で乗り換えずに行けるようになるという提案もなされています。

 このように数多くの空港のアクセス鉄道が提案されている理由は、国際競争力を高めたいという意思の表れだと私は理解しています。ところが、そもそもアクセス鉄道を造るとどれぐらい国際競争力が高まるのか、きちんと分析している方がいらっしゃらないように思われます。

 そこで今回は「都市の国際競争力≒都市の経済生産性」と理解したうえで、その効果を実際に調べる研究をしてみました。生産性向上というキーワードは、いわゆる「インフラのストック効果」ともリンクする話で、注目が集まっていると思います。

空港アクセス鉄道が都市の生産性に与える影響に関する分析

空港アクセス鉄道が都市の生産性に与える影響に関する分析

 

 この研究は、私の学生だった松井裕里香さんと、香港で活躍されている村上迅先生との共同研究の成果でもあります。「空港アクセス鉄道が都市の生産性に与える影響に関する分析」というものです。

国際空港へのアクセス鉄道

国際空港へのアクセス鉄道

 

 先ほど少し申しあげたとおり、世界中の主要都市では、国際空港へのアクセス鉄道の整備が盛んに行われています。ここにもいくつか例を挙げていますが、さまざまな都市において、新たな鉄道整備、もしくは既存線を延伸することによって、空港へのアクセス性を高めることが進められています。

 その目的の一つは、明らかに国際競争力の強化だと考えられます。特に国際競争力のなかで経済生産性は重要なファクターであると多くの研究者が指摘しているところです。

 ところが、冷静に考えると、アクセス交通はたしかに大事だと思いますが、長い旅行の時間からするとごくわずかにすぎません。六本木からニューヨークへの移動の例を挙げてみましょう。飛行機に乗ってニューヨークまで行くと、だいたい17時間半かかります。一方、東京で鉄道に乗る時間は60分程度ですから、全体の6%にすぎません。こうしたわずかな移動を支えるアクセス鉄道に大金を払うことは、本当に妥当なのでしょうか。

研究の目的と対象

研究の目的と対象

 

 このような問題意識のもとで、国際空港へのアクセス鉄道を改善することが都市の生産性にどのくらい寄与するかについて、実証的に研究を進めてみました。

 仮説は単純で、「国際空港へのアクセス性が上がると都市の経済生産性が改善する」というものです。ここでお示しする実証研究では、かなり粗っぽい分析をしています。第一に、世界中の主要国際空港を集めてきて、各空港のある都市の空港アクセス性と都市の生産性との間にどういった関係があるのかを調べます。第二に、東京圏内における各地域のアクセス性とその地域の生産性との関係を、特に空港アクセスに着目して調べてみました。

 生産性としては、ここでは特に労働生産性を簡便な指標として用いることにしました。

手法および使用したデータ

手法および使用したデータ

 

 一つ目の分析では、世界の国際空港のなかで利用者トップ100のものを上から順番に単純に集めまして、その空港がある90の都市のデータを分析しました。もう一つの分析では、東京圏にある267の地方自治体のデータを分析しました。推定の手法は、通常よく行われている回帰モデルを用いています。

分析結果:国際都市間比較分析

分析結果:国際都市間比較分析

 

 第一の分析からは、結論から申しあげますと、我々が期待したとおり、国際空港へのアクセス性が各都市の経済生産性にプラスの影響を与えることがわかりました。

 ただし、想定していたのと逆の因果もあることが推察されることがわかりました。つまり、経済生産性の高い都市に、高い空港アクセス性が見られるのです。これはよく考えると当たり前で、経済生産性の高い都市は商売としても儲かると考えられますから、鉄道事業者がそういう都市に鉄道を整備するという行動の現れと考えられます。

分析結果:東京圏空間分析

分析結果:東京圏空間分析

 

 同じように東京圏でも分析したところ、先と似たような結果を得ることができました。つまり、国際空港のアクセス性が高まると、生産性も上がります。一方で、生産性の高いエリアには、やはり鉄道事業者が利便性の高いアクセスサービスを提供しているのです。

ケース分析:東京圏の国際空港アクセス改善効果

ケース分析:東京圏の国際空港アクセス改善効果

 

 以上の結果をもとに簡単なシミュレーションもしてみました。まず、仮に東京圏において、金融産業の産出額シェアが一定程度増加するとします。ここ最近、東京圏において「アジアヘッドクォーター構想」という特区の構想が進められていますので、外国からグローバル企業を誘致して金融センターができるだろうというのが「仮定1」です。次に「仮定2」として、新たな鉄道が整備されることによって、都心部から羽田空港へのアクセス所要時間が10分短縮されると考えました。

 以上の仮定の下では、私どもの推定によればだいたい0.55%生産性が上がることがわかりました。しかも、金融産業を誘致するよりアクセス改善による寄与度のほうが大きいという結果が得られています。

 また、他の都市とも比較できますので、トップ100の空港のある90都市についても計算してみました。もともと東京はそれほど生産性の高い都市ではなく、我々の調べた90都市内では47位でしたが、以上のような改善が行われることによって、他の都市が何もしないという前提付きではありますが、41位に順位が上がることがわかりました。

 こう考えると、国際空港へのアクセス鉄道整備は、都市の生産性向上を通じて国際競争力強化に寄与する可能性が伺えます。

おわりに:今後の展開に向けて

おわりに:今後の展開に向けて

 

 日本は人口減少社会を迎えています。その一方で、近隣の国々はどんどん力をつけてきています。こういったなかで、近隣の国々と互角以上に存在感を発揮するにはどうしたらいいのでしょうか。

 私は、せめて日本は「小粒でもキラリと光る存在感のある国」を目指すべきだと思っています。量よりも質、それから総量を増やすよりも効率性を上げることを目指すべきだと思っています。

 交通インフラの生産性に対する貢献というのは、日本のみならず世界的に高い関心を集めているテーマです。特に2007年のリーマンショック以降、国の生産性をどうやって上げるのかということに、各国政府はエネルギーを割いています。そういった意味でも、地道な研究ではありますが、交通インフラの持つ役割を今後とも追求していくことを今後の研究の課題としたいと思っています。

 時間が参りましたので、これで私の発表とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

 

(著作権等の都合により一部のスライドを除外して掲載しています)

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