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米谷・佐佐木基金

受賞者(功績部門)の挨拶と受賞講演

松尾 武氏

松尾 武
元 財団法人阪神高速道路管理技術センター 専務理事

【 講演題目 】
阪神高速道路の交通管制に携わって

 このたびは思いもよらなかった賞を頂戴いたしました。誠にありがとうございました。私の兄は米谷榮二先生のご指導で卒業論文を書きましたので、私は中学生の頃から先生のお名前を存じ上げておりました。阪神高速道路公団に入社して米谷先生に初めてお会いしたときには、交通工学を作られた神様のような方にお会いできたと非常に感激したことを憶えております。また、佐佐木綱先生には、いつも身近にいていただいて、あらゆることをご指導いただいたという気がいたします。

はじめに

はじめに

 

 公団から米国留学をさせてもらったとき、最初に与えられたアサインメントがOperations Research Journalにある米谷・佐佐木の追従理論で、両先生が世界的に高く評価されていることを改めて実感し、非常に感動したことも憶えております。そのような両先生の名前を冠した賞をいただきましたこと、身に余る光栄と思っております。

 それでは、私が阪神高速道路のために何をしてきて、いま、何をしているのかをご説明させていただきます。実務の話ですので、難しいことはなにもございません。気楽にお聞きいただければと思います。

 私は1965年に阪神高速道路公団に入社いたしました。その年の夏、先輩の坂本破魔雄さんがジョージア工科大学に留学され、翌年、帰国する前にシカゴの交通管制センターで実習し、デトロイトの交通管制センターも見学されます。両センターとも前年できたばかりではなかったかと思います。

 坂本さんは帰国すると交通管制の必要性を盛んに説かれました。そして1967年には、委員長を米谷先生、委員長代理を佐佐木先生にお願いして交通管制委員会が設立され、阪神高速道路の交通管制の研究が始まりました。初期システムが導入されたのは1969年でした。

 私は委員会での研究が始められた頃から、先ほど藤原先生からご紹介いただきました検知器の設置方法、渋滞の判定方法、情報の優先順位、所要時間の算定方法などの検討を行ってまいりました。

 新システムは1990年に運用を開始しました。もしも私の功績としていただけるものがあるとすれば、そのほとんどはこの新システムに集約されているのではないかと思っております。

阪神高速道路の管制室

阪神高速道路の管制室

 

 ご覧いただいているのは管制室です。建物が円柱形になっていて、管制室そのものはいくつもの楕円でデザインされています。佐佐木先生がよくお話しになられていた曼陀羅をモチーフにデザインされ、混沌とした交通社会に秩序をもたらすような場になってほしいとの願いが込められております。この管制室は、新建築社という雑誌社のインテリアデザイン賞を受賞しました。

 新システムが完成したのは国際花と緑の博覧会の時でした。ちょうどITSが注目され始めた頃で、海外から多くの視察団がこの管制室を訪れました。なかには、「もうここにITSがあるじゃないか」と言って、喜ばせてくれる方もおられました。

花博情報板とシステムのオンライン接続

花博情報板とシステムのオンライン接続

 

 次にご覧いただくのは、高速道路と一般道路の渋滞状況を表示する花博情報板です。今やこの大きさのパネルはどこにでもありますが、当時は珍しいものでした。

 このパネルは花博会場前で渋滞状況を表示したというだけではなく、もうひとつの大きな役割を果たしました。花博情報板がきっかけとなって道路管理者と交通管理者のシステムのオンライン接続が実現したのです。

 花博開催時には、道路情報ラジオと所要時間表示板も運用されていました。オンライン接続、道路情報ラジオ、所要時間表示板の三つは、まだどこの国でも実現されていませんでした。あの時点で、阪神高速道路のシステムは世界の最先端にいたといっても過言ではないと思っております。

米国経営科学会 Franz Edelman賞

米国経営科学会 Franz Edelman賞

 

 阪神高速道路の交通管制システムは、1992年に土木学会技術賞、土木学会関西支部技術賞、1994年には米国経営学会Franz Edelman賞を受賞いたしました。Franz Edelman賞の受賞には長谷川利治先生にたいへんご尽力をいただきました。

環状線工事通行止めの交通影響や立体道路式路面補修車「ミニウェイ」の交通影響を検討

環状線工事通行止めの交通影響や立体道路式路面補修車「ミニウェイ」の交通影響を検討

 

 システムづくりのほかには、1日40万台もの車が利用する環状線を11日間工事通行止めするための交通影響の検討や、立体道路式路面補修車「ミニウェイ」を開発するための交通影響の検討を行いました。高速道路上に置かれた仮設橋のようなミニウェイは、上に交通を通しながら、下でジョイント工事を行うものです。七つのモジュールに分かれ、各部分は工事現場までトレーラーで運搬されますが、組立時にはそれぞれが自走もします。1989年に運用が開始されましたが、騒音や振動の低減や走行性の向上のためにジョイントが減らされ、1999年に役割を終えました。

 ちなみに私は「ミニウェイ」という名前の名付け親です。こういうことが好きで、道路情報ラジオの音声合成装置には「ミチコ」という愛称を付け、日に一度だけ「コンピューターのミチコがお知らせしました」と言わせています。阪神高速のキャラクターになった「もぐらのコージくん」の生みの親、名付け親でもあります。どれも、お客さんに愛されてほしいと願ったからです。

合流支援装置の導入

合流支援装置の導入

 

 7年ほど前に阪神高速道路技術センターのお手伝いを始めてからは、合流支援装置に取り組みました。走行実験やドライビング・シミュレーター実験を行い、2013年に淀川左岸線の2入路に導入されました。写真は「合流車有」という表示を見て車が車線変更をしているところです。

 合流車があることを知らせる機能はITSスポットサービスにすでに導入されていました。合流支援装置では、連続して設置されたランプの点灯を移動させて、合流車の動きがわかるようにしようとしました。しかし、移動する点灯の意味がわかりにくいこと、わかりやすい文字表示板は設置スペースも限られることなどから、導入された装置はITSスポットとあまりかわらないものになってしまいました。

京都大学交通情報工学研究室との共同研究 〜ドライビング・シミュレーター実験

京都大学交通情報工学研究室との共同研究〜ドライビング・シミュレーター実験

 

 宇野伸宏先生の京都大学交通情報工学研究室で、合流支援装置の安全性を調べるためにドライビング・シミュレーター実験をしていただきました。

ホームページ 「世界の高速道路ライブカメラ」

ホームページ「世界の高速道路ライブカメラ」

 

 いろいろな目的のためにインターネットも活用しました。

15年ほど前にはホームページ「世界の高速道路ライブカメラ」を作りました。海外では交通流監視カメラの画像が情報提供に利用されていることを知ってもらうため、各国の高速道路ライブカメラの画像を見ることができるようにしました。Yahoo!の「今日のオススメ」に紹介されてアクセスが集中し、ヒット数は56,000に達しました。

 この頃、飯田恭敬先生が座長を務められたトラフィック・インフォメーション・コンソーシアムの提言に基づいて、情報提供事業の民営化が実現しました。そのときの関連文書には「ライブカメラの活用は今後の課題」という記述もあったのですが、残念ながら日本ではいまだに実現していません。

ホームページ 「愛しのハイウェイ」 〜夢街道をゆく〜

ホームページ「愛しのハイウェイ」

 

 これは10年ほど前に作ったホームページ「愛しのハイウェイ」です。佐佐木先生の地縁文化を大切にするというお考えに沿い、交通機能に特化された高速道路と地域との結びつきを強めて、親しみの持てもる道路にしようとしました。そのため阪神高速道路沿線にある歴史上の人物ゆかりの地を紹介しました。写真は露天神社のお初の像です。

 NEXCOの市町村名標識のように、阪神高速道路に歴史看板を設置することを提案していたのですが、いちども「いいね」と言っていただいたことはありませんでした。

ツイッター 「阪神高速の渋滞情報」 〜災害時の情報収集・提供にSNSの活用を提案

ツイッター「阪神高速の渋滞情報」〜災害時の情報収集・提供にSNSの活用を提案

 

 「阪神高速の渋滞情報」という名前のツイッターも作りました。1時間ごとに渋滞状況を手入力しています。

 東日本大震災のとき、「高速道路情報収集bot」というツイッターが消えてしまいました。そこでドライバー同士が情報交換をするものでした。ちょうど津波が来襲した頃に消えたこのツイッターの最後には、ドライバーが発信した現地の生々しい被害状況が残されていました。

 このことから、災害時にはSNSを利用して情報の収集や提供をすることが必要だと考えるようになりました。また、交通管制システムが収集するデータから常に区間ごとの車両存在台数を計算しておけば、災害時の救助活動や避難誘導に役立つのではとも考えました。

 インターネットを利用しての提案では、この提案が初めて採用されました。すでにプロトタイプが稼働しており、まもなく阪神高速道路会社とグループ会社の社員が机上のPCですべての区間の車両存在台数を見ることができるようになります。

 また、SNSの活用についても東京都市大学、関西大学、大阪経済大学との共同研究が始まりました。欧州のITS推進組織ERTICOは、「VoiceInfo」というスマホアプリで音声による情報交換を普及させようとしているようですから、今後、ドライバーからの情報を活用することが進むのではないかと思います。

さいごに

 

 阪神高速の交通管制システムは、先生方のご指導と先輩や後輩のご尽力の賜物です。私は代表して賞を頂戴していると思っております。本日はありがとうございました。

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