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公益事業情報

米谷・佐佐木基金

研究報告講演

山本俊行氏

山本 俊行
名古屋大学 エコトピア科学研究所 教授

【 研究題目 】
次世代型モビリティの導入による環境負荷削減効果の分析

はじめに

はじめに

 昨年度「次世代型モビリティの導入による環境負荷削減効果の分析」ということで、米谷・佐佐木賞をいただきました。その研究について進めているところを報告させていただきます。資料の上のほうに、次世代型モビリティとはどのようなものかということで示しています。左側はプリウスのプラグインハイブリッド車です。真ん中はバッテリーの電気自動車、i-MiEVです。右側は超小型車ということで、日産のニューモビリティコンセプトです。

報告内容

報告内容

 はじめにプラグインハイブリッド車のバッテリーの容量についてお話しします。2番目は自宅での充電タイミングについて、3番目が電気自動車の利用パターンについて、四つ目は超小型車が交通流に及ぼす影響についてお話しします。

 前半では、特にバッテリーに着目します。みなさん思い描かれると思いますが、電気自動車は電気で走るので、バッテリーは非常に大事な部品になっています。

プラグインハイブリッド車のバッテリー容量

プラグインハイブリッド車のバッテリー容量

 まず、なぜこういうことを考えたかということです。プラグインハイブリッド車というのは、一部充電したバッテリーの電気で走行します。走行距離が短い場合は、「EVモード」と呼ばれますが、電気自動車と同じような走り方をする。走行距離が長い場合は充電した電気を使い果たしまして、そのあとはガソリンで走ってハイブリッド車と同じような走り方をする。どれぐらいのバッテリー容量だとうまくいくのかということが、興味のあるところだと考えています。

GPSを使った自動車利用状況調査

GPSを使った自動車利用状況調査

 どれぐらいのバッテリー容量がいるのかを知るために、日々みなさんがどのようなクルマの使い方をしているのかを知りたい。ということで、これは2年ほど前にした実験ですが、紹介させていただきます。

 OBD(On-board diagnostics)アダプタというところでCAN(Control area network)データというものをとりました。燃料噴射量などをすべて記録しようということで、この時点ではSDカードにそれを保存してデータを収集しました。150台ぐらいにこの機械を付けて一般の方に乗っていただいて、半年ほどのデータを使った分析をしています。半年間で使った日もあれば使っていない日もあるということです。

観測された利用パターン

観測された利用パターン

 ここに示すのが、観測された利用パターンの一例です。上を車両Aとしますと、日ごとに違いますが、この車両はちょこちょこと長い距離を走っていますけれども、多くがかなり短い距離を走っています。右側のグラフを見ていただきますと、だいたい30q以下の日が多く、100q以上が少なくなっています。

 それに対して車両Bを見ますと、けっこう長い線がたくさん見られます。1日に長い距離を走っている日がけっこう多く、400q走っていることがけっこうあったりするという車の使い方をしています。分布を見ますと、100q以上走るのが40パーセントに近いぐらいあります。ただし、全く使わない日もけっこうあります。

 このように、人によって車の使い方は当然違いますので、プラグインハイブリッド車の場合、電池で走る部分とガソリンで走る部分とをどのように使い分けてバッテリー容量を決めたらいいかということになります。

最適なバッテリー容量は?

最適なバッテリー容量は?

 すなわち、バッテリー容量が小さい場合、EV走行距離は短くなるという欠点はありますが、その分バッテリーは重いので軽くなって燃費はよくなります。それに対して大きいと、当然EVの走行距離は長いのですが、あまり短い距離ばかり走っているのにそんなに重いものを積んでもしようがない。重くて燃費は悪くなるということです。

 そこで我々は、仮想的にバッテリー容量にこれぐらい幅をもたせて、電気自動車として走る距離を10qから50qぐらいまでの仮想的な車を設定して、どのくらいのバッテリー容量がいいかを検討しました。

二酸化炭素削減量推計値

二酸化炭素削減量推計値

 このグラフは、一番左は普通のハイブリッドを使った場合で、2番目以降はプラグインハイブリッドを使った場合の二酸化炭素の削減量です。我々が調査したときは、ハイブリッド・カーに乗っておられる方もいるのですが、多くがガソリン車を乗っておられたので、そのガソリン車の燃費と、仮想的なプラグインハイブリッドに転換した場合の二酸化炭素削減量です。

 見ていただきますと、ハイブリッドでも当然二酸化炭素は削減できますし、プラグインハイブリッドにしてもやはり削減は可能で、少し増えていますが、10とか20などのバッテリー容量は影響が少ないという結果が出ています。こういうことで言うと、そんなにバッテリー容量が大きくなくても、プラグインハイブリッド車の場合はいい。逆に言うと、ハイブリッドと少ししか変わらないのだったら、どっちがいいかというと、ハイブリッドでもいいのではないかという話も出てきます。

10年保有時の経済性

10年保有時の経済性

 もっと言いますと、先ほどの資料は走行時の環境性能ですが、値段が違うのではないかということで、普通のプリウスとプリウスのプラグインハイブリッド車の価格差は、分析した当時はこれぐらいの差がありました。プラグインハイブリッド車には次世代自動車普及補助金というものがあって、価格差は43万円ぐらいでした。10年間乗るとしたらどっちがいいかということで、それぞれの車両の乗り方、6か月間のデータを用いて見てみますと、これ以上補助金がない場合ですと、普通のガソリン車かハイブリッドに乗ったほうがいい。プラグインハイブリッド車に乗っても、お金の面ではあまり安くならないという結果でした。

 それに対して、補助金を20万円、30万円と足していくと、プラグインハイブリッド車に乗ったほうがやはり得になるというケースも出てきました。プラグインハイブリッド車を普及させようとする場合だと、もう少し補助金の増加が必要だという結果になっています。

自宅での充電タイミング

自宅での充電タイミング

 もしもプラグインハイブリッドのほうが得だということでプラグインハイブリッド車を買いますと、次は充電をどうしようかという話になります。この資料の写真は、愛知県豊田市で実証実験をしまして、50世帯程度のオール電化の新しい家で、そこにスマート・メーター、電気の使用量をずっと監視できる機器とか、プラグインハイブリッド用の充電器を備えて、プラグインハイブリッドを使用してもらうというかたちで、実際に普通の人に住んでいただいています。これを使って、どのように人々がプラグインハイブリッド車の充電をするかを調べてみました。

電力需要パターン例

電力需要パターン例

 このグラフは電力需要パターンの例です。横軸が時刻です。0時から始まって、深夜の12時までになっています。縦軸が電力使用量です。上のグラフが夏、下のグラフが冬です。夏ですと、やはりエアコンを使います。緑の部分がエアコンです。エアコンがけっこう電力使用量としては大きくなっていることがおわかりだと思います。

 ただし、ぴょこんと水色で立ち上がっておりますのが、プラグインハイブリッド車の充電による電力使用量です。かなり需要が大きくなることがわかっています。ですからこれが重なると、電力負荷が大きくなることが危惧されます。

 冬の場合エアコンはだいたい朝方と夜にたくさん使われています。そして、この世帯ではエコキュートというものを使っています。これは、通常ですと深夜電力料金割引のときにお湯をためるということで、朝までにためるようなかたちで電気を使っています。それに対して、これも同じように深夜料金だということであれば、プラグインハイブリッド車を充電してしまうと、このぐらいの電力負荷が見られるということです。

プラグインハイブリッド車帰宅時刻分布

プラグインハイブリッド車帰宅時刻分布

 プラグインハイブリッド車の充電タイミングを計るのに、どれぐらいの時刻に車が家に帰ってくるかを調べました。当然ですが、みなさん夕方に家に帰ってきます。緑色の場合は充電をしない場合ですが、先ほど言いましたようにプラグインハイブリッド車というのは電池を使い果たすとハイブリッド車と同じように走りますので、特に充電しない場合でも走れるということですし、充電しないケースもある。あるいは走行距離が短すぎる場合は充電しないケースもあるのですが、それにしてもピークができてしまいます。居住地域では電力の需要は夕方に多くて、夕飯の支度とか、みなさん昼間よりも夕方に家にいるということがあって、電力の需要を押し上げるような要因になるかと思います。

充電時間帯分布

充電時間帯分布

 やはり実際に一定の電力料金ですと、50程度の世帯でたくさんの人が夕方あたりの時間帯に充電をしてしまいます。ここではコミュニティ・レベル、地域レベルのローカル・グリッドというのでしょうか、そのような電力需要マネジメントをしようとしているのですが、こうなってしまうとすごく電力需要が立ってしまって困るということで、この地域ではピーク料金という制度を導入しています。これは実験的にポイント制度を使ってしているのですが、そうしますと、夕方の充電が深夜のほうに移動していることがおわかりいただけるかと思います。また、じつは居住地域では昼間はみなさんがいないので、電力需要が低い。ですから、昼あたりにしていただくのも安くなっているということです。

 我々のほうでは、ドライバーの充電タイミングの選択モデルを作りました。たとえば「走行距離が短い場合は充電しない」とか「帰ってきたらすぐする」、あるいは「一番安いときまで待ってする」、「その他の時間にする」。これは前日にセットしたらそのまま使っていたりして、値段が変わっているのに気づかないというケースもあるのですが、そういうことで感度分析をしました。やはり夕方について割り増しをすると、帰宅直後からパンと安いときに移っているというモデルの推定結果も出ています。

 さらに深夜で割り引きますと、またその分、深夜のほうに移動してくれるということが、モデルの結果、あるいは実験の結果からも出ています。電力需要、プラグインハイブリッド車の充電に関しては、かなり融通がききそうだということがわかります。

資料 電気自動車の利用パターン

資料 電気自動車の利用パターン

 次は電気自動車です。これは電欠になると動かない車です。ですから、バッテリー、電欠というのはかなりシビアな問題です。電気自動車については、これも全部で2年ぐらいのデータがあるのですが、多くは1年ぐらいのデータ収集期間で500台ぐらい、法人車両が250台ぐらいと個人の車両が250台ぐらいで日々の走行を記録したデータを入手しております。

 これを見ていただくとわかりますように、日々の走行距離としては100qまでいかない。ほとんど毎日30qとか40qぐらいまでしか走っていない車が多くて、朝に充電しますとそれで充分に1日走れることがわかるかと思います。

普通充電開始時の残充電量

普通充電開始時の残充電量

 普通充電というものは、だいたい家とか事務所でするのですが、このときにどれぐらい残充電量があるか、どれぐらいバッテリーの容量が減ってきたら充電しているのかを見ますと、このように、ぜんぜん減っていないのにみなさんが充電していることがわかります。

 特に法人などで見ますと、80〜90パーセント残っていてもしている。よく見てみますと、夕方5時ぐらいにしています。仕事が終わる時間です。帰ってきたらちょっとやるというようなことで、バッテリーの寿命から考えるとつらい使われ方をしていることもわかっています。

急速充電開始時の残充電量

急速充電開始時の残充電量

 それに対して急速充電というのは、旅行などに行った途中で充電がなくなってきて、どうしても充電をしないといけないようなときに、サービス・エリアなどにあって、10分ぐらいでパッと充電できるような施設です。その使われ方を見ますと、先ほどよりはいくぶん左側のほうに分布が寄っているかと思いますが、それにしても法人などは70パーセント残っていても急速充電をしたりしています。こんなことで、なかなかバッテリー容量というものは、みなさんシビアに思っているのですが、充分に使い切っていないのだなということがわかります。

フロンティアモデルによる主観的限界残充電量推定結果

フロンティアモデルによる主観的限界残充電量推定結果

 我々は、主観的にどれぐらいで「充電しないともうだめだ」と思うかについて、フロンティアモデルというモデルを使って推定を行っています。

 そうしますと、赤い線が主観的な限界ですが、残り3.8kwhぐらいになったら「もうやばいな」というところがある。ただし、そんなにタイミングよく急速充電器がありませんので、実際にはそれよりも手前ぐらい、1.5 kwhぐらい手前でみなさん充電している。ですから、急速充電器の密度を増やすと、もう少しみなさんバッテリーの容量を充分に使っていただけるようになるのではないかと思っています。

二酸化炭素排出削減量

二酸化炭素排出削減量

 このような使われ方なのですが、電気自動車の二酸化炭素排出削減量はどんなものかを示したのがこの資料です。月あたりの二酸化炭素排出削減量ですので、これは同等のガソリン車にくらべてどれぐらい減ったかということですが、ここを見ていただきますと、法人はそんなに減っていないところもけっこうあります。

 と言いますのは、先ほど走行距離でも出てきたかもしれませんが、使っていない日もけっこう多いので、あまり使っていなくてそういう車両だけあるというケースもけっこうあって、個人のほうが使っているので削減量が多いような結果になっています。

超小型車が交通流に及ぼす影響

超小型車が交通流に及ぼす影響

 4番目、最後のトピックですが、超小型車が交通流に及ぼす影響です。資料は超小型車の一例です。三つほど特徴を挙げていますが、一つは小さくて軽いので燃費がいい。電気などで走っていることが多くて、当然エネルギー効率もよいということが一つです。そして、車自体が超小型と言うぐらいですから、小さくて車長が短いという特徴があります。三つ目に、残念ながら安全性の問題もありますが、速度が遅いという不利な点もあります。

 これが一般道路を走り出しますと、普通車と混在してしまう。そういうところで、どのような現象が起こるのかを考えてみたいということです。つまり、速度が遅いので渋滞が悪化してしまうのではないか。それに対して、車長が短かったら面積を使うのが少なくなって、渋滞長が短くなるのではないかということも考えられます。

ミクロ交通シミュレータによる分析

ミクロ交通シミュレータによる分析(1)

 桑原雅夫先生のグループが調査してとっていただいた吉祥寺のデータを使わせていただいて、ミクロ交通シミュレーションをしています。白い車が普通車で、緑のものが超小型車です。今回はスマートフォーツーの車体を使っていますが、このようなかたちでシミュレーションを行っております。

 何ケースも何ケースもやって、20パーセント、30パーセントと超小型車の混入率を変えたり、最高速度を変えたりすることで、交通流に及ぼす影響を調べようとしています。

ミクロ交通シミュレータによる分析(2)

 上は普通車のみでシミュレーションした場合の渋滞長が出ています。これは同じ時刻ですが、超小型車を20パーセントとしますと、経路選択等も当然変わりますが、同じ時刻で少し渋滞が減っているケースが見られます。

 これは最高速度が同じぐらい走る、まちなかでは時速60q弱で走れるという設定の場合となっています。

効率性のシミュレーション結果

効率性のシミュレーション結果

 我々が集計した結果がこちらです。まずは交通量、交通流に対してどれぐらい効率性が上がったり下がったりするかを計算した結果です。左側は、平均速度がどのくらい変わるか。超小型車の最高速度が時速60q弱ぐらい出る場合とか、時速40〜45qぐらいしか出ない場合、時速25〜30qぐらいしか出ない場合──国土交通省も時速30q以下だと安全基準を簡素化するような緩和措置も考えられていますので、そこもシミュレーションをしてみました。

 時速30q以下になると、やはり全体に悪い影響を及ぼしていることがわかります。横軸は超小型車の割合ですが、10パーセント、20パーセント、30パーセントとなっていまして、時速40q以上、45とか60弱ぐらい出るようですと、全体として平均速度は上がる、効率性も上がるという結果になっています。

 当然のことながら、総走行時間で見ましても、やはり時速25〜30qですと総走行時間は増えてしまう、混雑が増えるのですが、それ以上の速度ですと効率性は向上していると言えるかと思います。

安全性のシミュレーション結果

安全性のシミュレーション結果

 当然、危険性もあるわけです。スピードが違うものがいっしょに走ると、ぶつかったりすると危ない。そこで、交通量の乱れがどのくらいかということで、左側では車線変更を考えています。普通車が追い抜こうとして車線変更をするときに事故などが起こりやすいので、車線変更について調べています。

 右側は減速回数です。1車線しかない場合ですと、前に遅い車がいるとグッとブレーキを踏んで追従しないといけない。この場合でも、超小型車の最高速度が遅い場合ですと、車線変更が増えたり減速回数が増えたりしますが、超小型車の最高速度が時速40〜45qとか時速60q弱となると、車線変更もそれほど増えず、逆に減っておりますし、減速回数もそれほど増えません。それぐらいのスピードであれば、ぶつかったときの安全性がどうかということはありますが、危険は増えないということが言えます。

環境性のシミュレーション結果

環境性のシミュレーション結果

 最後に環境性ですが、これについてはエネルギーの消費量という単位で計算をしています。超小型車の最高速度がいずれの場合も、当然のことながら、小さくて燃費がいいということで、エネルギー消費量は減っている。特に20パーセントとかになると、20パーセント減ぐらいまでエネルギー消費量も減らすことができる。ただし、時速25〜30qの場合だと効率性が落ちて問題があるということで、時速40q〜60q弱のあたりということになると思います。

 このように、渋滞が伸びるということはなくて、時速40q以上のあたりの速度ですと、渋滞も増えずに、環境負荷の低い交通状態が達成されることになったということです。

おわりに

おわりに

 最後になりますが、これまで説明をしてきましたように、車両技術はどんどん進化しておりまして、それに合わせて研究の対象も変わってくると思います。

 たとえば、自動運転というものが最近賑わせております。これはどのような影響をもたらすのか。自動運転になりますと、自動車共同利用などでも、乗り捨てたらそのまま駐車場に行ってくれるというものもできますし、運転できない人が一人で出かけることも可能になるでしょう。人々の活動がかなり変わってくるのではないかというところまで考えないといけない。

 二つ目は、燃料がガソリンから電気などに変わりますと、ガソリン税に代わる利用料金を徴収しないといけないので、全道路を対象とした料金賦課みたいなことを考える必要もあると思います。対距離性なども一つかと思います。

 三つ目に、そういうことをしようとすると、全車両の動きをリアルタイムにとれるのではないか。現在でも、たくさんの車の位置データが時々刻々ととられているということがありますので、税金まで考えると、全車両のデータをとって、その使い道があるか。これは鉄道などでICカードがほぼ実現しそうなことですが、車についても、航空管制センターで飛行機が飛んでいるのが全部見えているみたいに、そんな状態になれるような可能性もあるのではないかということで、そのような遠い将来のことも考えながら研究を進めていきたいと考えています。

 以上で報告を終わらせていただきます。

 

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