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米谷・佐佐木基金

研究報告講演

赤松 隆氏

赤松 隆
東北大学大学院情報科学研究科交通制御学研究室 教授

【 研究題目 】
交通渋滞解消のための"優先的サービス権"配分システム

 ご紹介いただきました赤松です。昨年の授賞式で、「交通渋滞解消のための"優先的サービス権"配分システム」の研究をきちんとやります、とお約束しました。約束をしたことが私にとっては非常に励みになりまして、少しは報告できるような成果が出ましたので、今日はその話をさせていただきたいと思います。



研究課題

 「交通渋滞解消のための"優先的サービス権"配分システム」という研究課題は、「(1)不確実性下での動的な交通流入制御」と「(2)時間帯別ボトルネック通行権取引制度」の二つのテーマから構成されています。どちらも交通の数量をうまくコントロールすることで渋滞をなくすことを狙った研究です。今日は後半の「時間帯別ボトルネック通行権取引制度」に絞って話を進めさせていただきたいと思います。

1.ITSの活用で渋滞を解消できるか?
ITSの活用で渋滞を解消できるか?

■渋滞は"Coordination Failure"
 まず渋滞の原理から見直してみます。渋滞は、あるボトルネックとよばれるような地点に、ある特定の時間に容量を超えた需要が来るために起きる現象ですから、原理的には皆がコーディネーションして、例えば時間帯や経路を分散して利用すれば渋滞は発生しません。そのコーディネーションが見ず知らずの人のあいだではなかなかできないので、渋滞は"Coordination Failure(協調の失敗)"と見ることもできます。

 ITSを使って、例えば渋滞ピーク時刻の予想情報を出せばうまく需要分散できるのではないかと言われることがありますが、情報をもらっても、それに対応して他の人がどう行動するかというのがわからない限り、渋滞が起こらないように自分の行動を決定することはできません。個々人が他人の行動を完全に予測できなければ、"Coordination Failure(協調の失敗)"の解決は難しいことがわかります。

■混雑料金制は需要関数の把握を前提としている
 ITSを使った混雑料金制で渋滞が解消できる、という意見もあります。たしかに理論上は、各ドライバーが他人の行動を予測する必要なしに、コーディネートされた道路利用が実現すると言われています。しかしそれには前提条件があって、第一に効率的に料金を徴収できること。これはETCにより既に解決されつつありますが、問題は2番目の仮定で、道路管理者がいろいろな利用者の需要情報、少なくとも需要関数くらいは正確に把握していると仮定しているから理論上はうまくいくわけです。

2.価格規制と数量規制
「価格規制」vs「数量規制」(その1)

「価格規制」vs「数量規制」(その2)

「価格規制」vs「数量規制」(その3)

■混雑料金制は価格規制である
 経済学ではこのあたりのことを、混雑料金制とはある種の価格規制であると捉えます。教科書的に言えば、社会的限界費用と平均費用の差を料金として付加すれば、社会的に最適な状態が求まりますと、よく見かけるこういう絵で説明しているわけです。

 しかし、道路管理者(料金を設定する人)が需要関数を間違えて推計すると、結果的に「Dead Weight Loss」とよばれる損失が必ず発生します。ですから、需要情報が正確に把握できないとすると、価格規制(ここでは混雑料金制)は必ずしも最適な方策ではないことがわかります。

■道路交通問題と数量規制
 そこで、価格規制に変えて数量規制をしたらどうだろうか。道路交通では需要曲線の把握は必ずしも容易ではないのに対し、費用曲線はそれほどの誤差なく推計することができますから、理論上は最適な数量パターンがわかれば皆にそう割り当てたらいいわけです。実は数量規制は交通分野で既に導入されていて、信号制御やランプ流入制御がそれにあたります。過去に、高速道路の利用「予約制度」と呼ばれる方法が越正毅先生、赤羽弘和先生、桑原雅夫先生から提案されています。これは容量を超えるような需要を流さないようにあらかじめ道路を予約してもらおうというものですが、利用者の選択をかなり規制しているため、経済学的に言うと消費者の選択を制限することによるロスが発生してしまいます。この割り当て方を工夫すれば、その経済的ロスも解消できるのではないかというのが、これからお話しすることです。

3.ボトルネック通行権取引制度
ボトルネック通行権取引制度(1)

ボトルネック通行権取引制度(2)

ボトルネック通行権取引制度(3)

 本研究は、数量規制に価格メカニズムを使った割り当て調整法を導入した新たな渋滞解消策を提案しようというものです。具体的には、時刻別ボトルネック通行権とよばれるものを道路管理者が設定、発行し、その権利を利用者のあいだで売買取引できるような通行権取引制度(市場)を作ってしまいましょうというものです。

■ボトルネック通行権の配分方式
 ボトルネック通行権というのは、特定のボトルネック地点を特定の時間帯に通行できる権利です。道路管理者は、ある特定の時刻ごとに通行できる権利を表した証書を発行しますが、その発行された通行権をどのように配分するかについては、「通行権販売型」と「通行権配布型(無料)」の2種類あります。

 この配分された通行権、これは人によっては自分が希望するものとまったく違う時間帯に通れという通行権を配られることになります。それではぐあいが悪いので、市場取引を許せばいいのではないかという提案です。

 図はイメージで書いていますが、道路管理者は、販売スキームであればダイレクトに通行権市場で販売すればいいし、配布スキームの場合であれば、通勤者は自分の気にくわない通行権が配られた場合には、この通行権市場で自分の持っているものを売って、必要なものを買えばいいというわけです。
 この市場取引の導入によって、パレート最適状態がこの市場を通じた取引で達成されるのではないかと予想されますし、通行権の枚数を必ず時間帯ごとに容量以下にしておけば渋滞は原理的に起こるわけがないので、渋滞問題は自動的に解消するわけです。

4.ボトルネック通行権取引制度の理論分析
理念分析の対象とする交通条件

パレート改善の達成(1)

パレート改善の達成(2)

self-Financing原理の成立(1)

self-Financing原理の成立(2)

理念分析結果のまとめ

■パレート改善の達成
 本当にパレート最適状態が達成できるかどうか、住宅地、CBDが一つずつあって、住宅地に住んでいる人は皆1本の道路を通ってCBDに出かけるが、1か所ボトルネックがあって毎朝ここでいつも渋滞が起こっている、という非常に簡単な状況を想定して理論分析を行いました。

 結論を言うと、ボトルネック通行権の価格は、制度導入前の渋滞待ち時間費用と等しくなるように定まります。このため、通行権配布型の場合は、通勤者の効用レベルが必ず上がるのに対し、管理者の収入は何も変わらない。もう一つの販売型スキームの場合は、通勤者の効用レベルは不変ですが、管理者は交通権販売によって収入が増加します。結局どちらのスキームで見ても、誰も悪くはならないという意味で、パレート改善をすることがわかります。

■社会経済的に最適資源配分を達成
 次にこれ以上にスキームはあり得ないのかということですが、都市経済学の分野でのハーバート・スチーブンスン・モデルとよばれるモデルを使うと、通行権配分問題の均衡状態は社会的に最適である、もう少し正確に言いますと、パレート最適状態を達成できるということが証明できます。

■通行権販売収入とSelf-Financing原理の成立
 通行権販売型スキームの場合、通勤者の効用は変わらないのに対し、管理者の収入は通行権販売で増加するので、通勤者に対する還元策として通行権販売収入を道路容量の増強に使うことが考えられます。ここで問題にしたいのは、その均衡状態を実現する通行権販売収入のみを資金として容量増強投資をした場合、それは本当に社会的に最適な投資になっているのか、過大投資、あるいは過小投資になっていないかという問題です。総通勤費用と容量増強に必要な費用、その総和を最小にするような容量を求めるとき、容量増強に必要な費用関数は一次同次、すなわち平均費用と限界費用が等しいという仮定のもとでは、通行権販売収入だけでSelf-Financingできることが証明できます。

■分析結果のまとめ
 分析結果をまとめますと、第一に、提案制度を導入すれば、通勤者、道路管理者、両者がパレート改善できます。第二に、その制度の導入下の均衡状態で実現する資源の配分はパレート最適状態です。最後に、販売型スキームの場合には、通行権販売収入額に等しい容量増強投資をすれば最適なボトルネック容量が実現できるということがわかりました。

 拙い発表でしたが、以上で、私の話を終わりとさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

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