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米谷・佐佐木基金

受賞者(研究部門)の挨拶

宇野 伸宏氏

宇野 伸宏
京都大学大学院経営管理研究部 准教授

【 研究題目 】
画像データを用いた交通コンフリクトシミュレーションの構築と交通流の安全性評価に関する研究

 ただいまご紹介いただきました京都大学の宇野でございます。本日、日本の交通工学のパイオニアである米谷先生、佐佐木先生のお名前を冠した名誉ある賞を頂戴して、非常に光栄に思っておりますし、また本当に嬉しく感じております。

 私は学生時代佐佐木先生の研究室に所属しておりましたので、折につけ佐佐木先生にいろいろなお話を聞かせていただきましたが、そのなかで強く印象に残っておりますのが、「風を感じなさい」ということです。何かことを進める時に、慌ただしくばたばたしていると風を感じなくなる。向かい風の時にどれだけ逆らっても、それは無意味とは言わないまでもほとんど役に立たないのであって、いかに追い風をつかむか、それを感じるかが重要だということを盛んにおっしゃっておられました。今回の受賞は、私にとって非常に強い追い風をいただいたと考えて、これからも研究に邁進して参りたいと思います。

 それでは、現在私が取り組んでいる研究について手短にお話したいと思います。

研究の背景とテーマ
画像データを用いた交通コンフリクトシミュレーションの構築と交通流の安全性評価に関する研究

 まず研究の背景ですが、道路交通の安全性向上は、日本においても、あるいは世界各国においても非常に緊要な政策的課題、あるいは工学的な課題となっています。その一方で、どうやって交通のなかの危険性を評価したらいいのか。事故自体はたくさんあるとは言うものの、ある場所に着目すると、年に10も20も起こるものではない。どうやって科学的な方法をそのなかに持ち込んでいくかというのが一つの動機でした。

 もう一つは、ITS(インテリジェント・トランスポーテーション・システム)が徐々に実用化され、観測技術が進展してきた結果、交通工学の分野においても、実際のデータを用いてこれまでに確立されてきた諸々の理論を検証したり、あるいは新たな理論を作りなおしたりという、実験的なアプローチができるようになってきた。そのなかで、車と車のあいだの相互作用に着目すると、同じ交通流の画像のなかに入っている車のデータが同時にとれるので、画像というのは非常に有効ではないかと研究を始めました。

 これまでやってきた研究は、評価指標開発の部分と事故発生プロセスの分析、この二つの部分から成っています。

これまでの研究成果
これまでの研究成果

 これは奈良県にある名阪国道の「中畑カーブ」とよばれる非常に交通事故の多いところです。1キロメートルぐらいの区間に13台のカメラが設置され、連続的に観測できるようになりました。上流側から下流側の交通の流れを画像に撮って走行軌跡のデータを抽出し、それを基本データとして、危険度評価の指標を作ってみようということで取り組みました。

 この区間では、事故形態としては追突事故、それから路外逸脱と申しますが、いわゆるコントロールを失って側壁にぶつかっていくような事故が非常に多い。

 そこで、追突事故を評価するために、我々はPICUDと呼んでいますが、追従走行の状態で、前の車が急ブレーキをかけたとして後ろの車は果たして安全に止まれるかどうかというのを、実測データを元に簡単なシミュレーションを逐次やっていくという指標を考えてみました。

 それとともに、路外逸脱というのはスリップが非常に多いので、走行軌跡から速度を読んで、推定値ではあるけれども、それぞれの車に遠心加速度がどれぐらいかかっているのか評価してみようということをやってみました。

 このような指標をまず用意して、それぞれの計算をしたうえで、今度は、1日数千台とか万の単位で車が走っているので、そのなかから走行危険性の高い車両を抽出する。次にこのような指標だけではよくわからない部分があるので、画像からもろもろの質的な情報、たとえば車種とか車のパターンとかが考慮できるので、そういうものを併せ用いてこの危険事象がどうやって起こってきたかという事故発生プロセスの分析を主にやっています。

これまでの研究成果(2)
これまでの研究成果(2)

 ちょっと図が小さくて恐縮ですが、これも一つの分析事例で、上流側から下流側へ、こういうカーブで交通が流れています。

 青紫がかった棒グラフが、それぞれの地点において記録された車両単独事故の発生件数で、多いところで20数件というオーダーで出ています。なおかつ赤は車両相互事故の記録件数で、それぞれの地点の左側が雨天時のデータですから、車両単独でスリップするような事故は当然雨天時が多い。

 ということで、先ほど述べた走行軌跡データを用いて各地点毎の遠心加速度を推定して、基準値を超えたような遠心加速度を出したものを「危ない」と考えたところ、一番多いところでは全車両の6%とか、あるいは晴天時でも4%近くの車が非常に危険な状態で走行しているということがわかってきました。

 それと事故のデータとを重ね合わせていきますと、潜在的な危険度は常に実際に事故が記録されている場所の上流側に多数現れ、逆にそれが多数現れたところの下流にはやはり必ず事故の発生が多数記録されるような箇所があるということがわかってきました。

現在取り組んでいる研究課題
現在取り組んでいる研究課題

 いま、ミクロ・シミュレーションを使って、安全性の評価であるとか、あるいは安全性を評価することを通して、道路のデザインの評価にもっていけないかということを考えています。

 このような目標の実現に向けて、走行軌跡データを利用した車の挙動の分析、あるいはモデル化を現在やっています。追従理論としては、米谷先生・佐佐木先生の追従理論、あるいは、ほぼ同時期に提唱されたGMの理論は非常にすぐれた理論でありかつ有用なものですが、現実の大量の交通に対してどこまで追随できるのか、理論の有用性をこういうデータを通じて確認したいと思っています。同時に、新たな手法、ソフト・コンピューティングという手法も使いつつモデル開発をしていき、最終的にはこういう知見をシミュレーションに組み込むことで、安全性評価であるとかデザイン評価の工学的なツールとしてシミュレーションを使えないだろうか。現段階ではまだ使えるというようにはとても申しあげられませんが、できる限りそれを目標にこのような研究を進めていきたいと考えています。

 非常に雑駁な話となりましたが、これをもちまして受賞の御礼の言葉とさせていただきます。ありがとうございました。

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