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米谷・佐佐木基金

受賞者(学位論文部門)の挨拶と受賞講演

嶋本 寛氏

嶋本 寛
広島大学大学院国際協力研究科 助教

【 研究題目 】
ネットワーク解析手法を用いた公共交通の運用管理及び評価に関する研究

 広島大学の嶋本と申します。このたびは第4回米谷・佐佐木賞を授賞いただき、誠にありがとうございました。私も飯田恭敬先生のもとで勉強したことがありまして、そのときに、たびたび米谷栄二先生、佐佐木綱先生は非常に偉大な研究を数々されている偉大な先輩であるとお聞きしておりまして、その意味でも、米谷先生、佐佐木先生のお名前の入った賞を頂戴することができ、非常に光栄に思っております。

 それでは、簡単でございますが、私の学位論文についてご紹介したいと思います。

1.研究の背景

研究の背景

 これまでの都市圏における交通計画では、車の交通量増加に対応するために、道路拡張など混雑緩和施策、主に自動車を対象とした対策がとられてきました。すると車の利便性は向上し相対的に公共交通の利便性は低下するため、車の需要がさらに増加するという、いわゆる負のスパイラルに陥っていました。

 今後は低炭素社会に向けた環境負荷の少ない交通手段の必要性とか、高齢化社会を迎え、車以外の移動手段の必要性など、利便性の高い公共交通の必要となります。

2.研究の目的・内容

研究の目的・内容

 私の学位論文の研究の目的および内容ですが、公共交通乗客配分モデルをベースに、サービスレベルの変化がネットワーク全体に波及する効果・影響を俯瞰的に捉える手法論の提案を行いました。

 それから、システム全体にとっての最適な施策を決定するためのモデルの構築を行いました。そのモデルは、事業者と乗客の相反する目的の関係を記述したモデルで、さらに乗客間の公平性を考慮したモデルです。

 最後にロンドン地下鉄を対象としたケーススタディを行いまして、提案したモデルが実用性に耐えうるんだということを示しました。

3.基本モデルについて

基本モデルについて

 基本モデルについてですが、これは倉内文孝先生らによって2003年に提案された乗客配分モデルです。このモデルは道路交通における利用者均衡配分に準ずるモデルで、頻度ベースのサービス、それから列車・バスおよび乗客はランダムに到着しますが、乗客は次の列車・バスがいつ来るかわからないという前提条件を置いています。

 このモデルの特徴ですが、Common linesを考慮しています。これは頻度ベースのサービスの場合、「期待最小所要時間経路は単一ではなく、群(hyperpath)を構成する」ということになるんですが、要は乗客の立場から説明しますと、乗客はある駅において一つの路線のみを望ましいと思うのではなく、複数の経路・路線が望ましいと思い、駅でたまたまそのなかのうち一番先に来たものに乗れば、実は期待所要時間が最小になるんだという定義・理論でございます。このCommon lines problemsというものを考慮し、さらには車両容量に起因する混雑(乗り損ね)を考慮したモデルです。

4.モデルの計算例

モデルの計算例

 モデルの計算例ですが、ネットワーク・データ、駅間の所要時間と旅客需要データ、車両容量データ、運行頻度データをインプットとしまして、たとえばある駅間の乗客数ですとか、混雑の結果の確率がアウトプットとなります。

 以上が前置きでして、これからが私が学位論文で実際に行ったことの説明になります。

5.モデルの拡張(情報提供の影響)

モデルの拡張

 まず一つ目に、情報提供による影響を考慮するためにモデルの拡張を行いました。従来のモデルでは、乗客はhyperpathに含まれる経路のうち最初に来る車両を利用すると仮定しますが、駅で次の列車が何分後に来るという情報を提供するとこの仮定は必ずしも正しくありません。たとえば快速列車のように、到着時刻はあとになりますが所要時間が短い車両が来る場合、結果的にそちらを利用すれば早くなりますから、情報提供をすると、乗客は先に来たほうに乗るという仮定は必ずしも正しくないということになります。

 このような情報提供による乗客行動の変化およびそれぞれの路線の利用率の変化を静的な枠組みで評価可能なように、基本モデルの拡張を行いました。

6.乗客配分モデルを用いた施策評価例

乗客配分モデルを用いた施策評価例

 そして、乗客配分モデルを用いて施策評価をいくつか行いました。図は一つの例ですが、このような仮想ネットワークを用いまして、情報提供という施策の実施による効果と、運行本数の増加というハード的な施策実施の効果との比較を、総コストの比較によって行いました。

 この図を見ますと、情報提供による総コストの削減効果というのは、実は運行本数増加による効果とほぼ同様であることを、この結果は示しております。

 もう一つ言えるのは、総コストの内訳ですが、駅Aを出発するODについては、情報提供の場合、コストの削減率は大きいですが、その他の駅では削減率はそんなに変わらない。むしろ、たとえば駅Bを出発する場合は、運行本数の増加よりはコストが上昇してしまっているといった、それぞれの場所による効果の違いというものも評価可能です。

7.公共交通最適施策決定モデルの構築

公共交通最適施策決定モデルの構築

 乗客配分モデルを用いることによってある施策導入の効果が分析可能ということは示しましたが、では最適な施策は何かということに興味を持ちまして、最適施策決定モデルの構築を行いました。

 ここでは事業者、乗客の二つの主体を取り上げます。そして、公共交通事業者は施策導入による乗客の行動の変化を予測可能であるとします。具体的には、ある施策Aを導入するとある移動の仕方をして、施策Bを導入すると別の移動の仕方をすることがわかっているときに、最適な施策は何かということを決定するモデルです。

 事業者と乗客の二つの主体を取り上げると申しましたが、両者の利害はしばしば対立すると考えられます。具体的に言いますと、事業者は運行コストの最小化を希望しているのに対して、乗客はサービスレベルの向上を希望している。このように、事業者にとっての最善策は乗客にとっての最善とは限らないというところに着目しました。

8.公共交通最適施策決定モデルの定式化

公共交通最適施策決定モデルの定式化

 これがモデルの定式化です。このような問題は、乗客配分モデルを下位問題とした2段階最適化問題として定式化が可能です。それから、先ほど申しましたように、事業者にとっての最善策は乗客にとっては最善とは限らないということを考慮するために、上位問題の目的関数を複数導入しました。

9.計算例

計算例

 図が計算例です。最適化問題において目的関数を複数導入した場合、得られる答えが複数になることが知られております。たとえばこの例で言うと、利用者の総一般化コスト最小化と、利用者間の混雑に関する公平性最大化の二つでございます。

 総コストと公平性の値の二つを軸にそれぞれの解をプロットすると、このような複数の解が得られます。この解におきまして、たとえばコスト最小化を重視した解であるとか公平性を重視した解、およびその両者のバランスをとった解というように、グルーピングすることがわかりました。

 実際に事業者の方は、この解のなかからどれを選択するかについては別の枠組みで決定する必要がありますが、すくなくとも意思決定する際の一つの指標と言いますか材料には成りうると考えています。

10.今後の研究展開

今後の研究展開

 最後に今後の研究展開について説明いたします。まず学位論文のモデルは基本的には静的なモデルで、時間帯というものを考慮しておりませんでしたが、東京工業大学のJan-Dirk Schmocker先生らにより動学化されたモデルが提案されております。それと融合することによって時間帯による需要の変動を考慮した施策設定の余地があり、これは学位論文提出後に論文としてまとめております。

 もう一つ、現在の研究課題ですが、最適路線網決定モデルの構築です。学位論文のモデルでは、路線網の形状自体はgivenでありましたが、これ自体を目的関数とすることによって、バス路線網再編計画に対する分析に使えるのではないかと考えています。

 最後になりましたが、この学位論文の提出にあたりましては、非常に多くの方々からさまざまなご意見をいただきました。また、第1回から第3回の受賞者を見ていますと、いずれの方も第一線で活躍されているばかりでありまして、なんとかこの米谷・佐佐木賞受賞者という名に恥じぬように研究に邁進してまいりたいと思っておりますので、どうぞご指導よろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました。

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