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米谷・佐佐木基金
受賞者(学位論文部門)の挨拶と受賞講演
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福田 大輔 【 研究題目 】 東京工業大学の福田でございます。このたびは第2回米谷・佐佐木賞学位論文部門を頂戴することとなり、たいへん光栄に思っております。私自身は米谷先生、佐佐木先生は論文の中でしか存じ上げませんが、恩師の森地先生から、自分が若い頃に両先生のことをすごく尊敬して憧れていたという話を伺ったことがございます。そういった両先生の御名前がついた賞をいただくことは、すごく光栄なことと感じています。 |
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1.研究の背景と目的
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背景(1) 交通行動の社会学的側面 |
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背景(2) 社会的相互作用の影響 例えば同一の社会集団があった時でも、その初期状態の違いによって異なる複数の安定した状態が生起し得る。違法駐輪の例をみると、駅いかんで違法駐輪のシェアにかなり大きな相違が見られる。このような環境下では、きわめて弱い政策介入を行うことでドラスティックな変化が起こることもあれば、逆に一定以上の強い介入を行わなければまったく変化が起こらないといった現象も生じてきます。 つまり、交通のマクロな現象に対しても社会的相互作用が有為な影響を及ぼしてくる可能性がありますが、これに対する計量的な分析の蓄積は必ずしも充分ではなかったと思います。 |
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研究の目的 |
2.基本モデルの特徴と均衡方程式
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基本モデルの特徴 |
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均衡方程式の意味解釈 横軸と平行に直線が引かれていますが、これは相互作用がまったくない状況を示しています。相互作用はS字曲線の形で表すことができます。相互作用の強さによって曲率は変化しますが、曲率がある値以上であると、S字曲線と45度線が最大3か所で交差する可能性が出てきます。 そこで、先ほど三つ目の仮定として述べた合理的期待形成の仮定を置きますと、最終的には、自分が選択をする確率と、準拠集団の選択の比率が一致します。つまり、このS字のカーブと45度線の交点の上に社会の状態が行き着くという、そういった状況を表しています。この可能性として出てくる三つの解が複数の均衡解で、これが冒頭でも述べた地域 の集計的な現象の違いを表現しうるのではないか、と理解しています。 ■初期状態によって、低位均衡か高位均衡かが決まる |
3.適用事例〜放置自転車行動の分析〜
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実際の適用例の一つとして、放置自転車行動の分析をご紹介します。 東京にある複数の駅周辺で違法駐輪に関する調査を行い、そこで得られたデータに基づいて先ほど述べたS字曲線を推計する試みを行いました。巣鴨駅のデータを用いて推計した結果がこの黒いグラフで、現在の駐輪率は約23パーセントとなっています。こういった状況で、現在の取り締まりの頻度を、月に10回から仮にプラス3回増やすことによって曲線がどのように変化するかを示したのが、この青い線のグラフになります。個人の私的な動機に取り締まり頻度が影響するということは、S字曲線を縦方向にシフトさせるということを意味しています。仮に3回分上乗せしてみますと、この曲線が三つの点で交わる可能性が出て参りますが、限界質量点に相当する55.3パーセントよりも低い部分にあるので、低位均衡にロックインしたままではないかということが示唆されます。 プラス6回にしてみると、このように青い曲線が45度線よりも上側に出てきまして、高位のところで45度線と交わるのみという結果になります。こうしますと唯一の高位の部分での解しかなく、低位の均衡から脱却して高位の均衡で推移する可能性が示唆されたということになります。 |
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4.本研究の実際適応性と今後の課題
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社会学の分野では「壊れ窓の理論」とよばれるものが古くからありますが、そこで示唆するところというのは、たとえ軽微な迷惑行為であってもそれがどんどん拡がっていくから、行政は徹底的に防止対策を実施しなければならないというものでした。 説明がわかりにくい部分も多々あったかと思いますが、以上が学位論文の内容の簡単な紹介でございます。私自身こういった社会的相互作用の研究を行っている身でありながら、周囲から受け取るばかりでなんのフィードバックもしていないということが一番心苦しい部分でありますので、ちゃんとそのフィードバックができるようにますます研究の方をがんばっていきたいとあらためて思う次第です。 本日は本当にありがとうございました。 |
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