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米谷・佐佐木基金

受賞者(学位論文部門)の挨拶と受講講演

水谷大二郎氏

水谷 大二郎
東北大学 災害科学国際研究所助教

【 学位論文題目 】
インフラアセットマネジメント研究について

 このたびは米谷・佐佐木賞という栄誉ある賞をいただき、きわめて光栄に存じております。また、学位論文に対する授賞ということで、大阪大学時代の指導教官である貝戸清之先生にももちろん感謝しておりますし、日頃研究でお世話になっております京都大学の小林潔司先生にも感謝を述べたいと思います。

はじめに

はじめに

発表内容

 

 実は若干緊張しております。もちろん米谷榮二先生、佐佐木綱先生という、非常に有名な先生方のお名前のある賞をいただいたということが一つです。二つ目が、事前のメールで「少人数のこぢんまりとした会」と聞いていたのですが、意外と人がおられて、大御所の先生方もおられるということで緊張しております。ただし、資料の内容としては、この発表を聞いていただいたあとで議論が進むようなかたちがいいかなと思って、半分問題提起のような資料を作って参りましたので、あとでいろいろと議論させていただければということをまず申し上げたいと思います。

 緊張している三つ目の原因は、「インフラアセットマネジメントって交通なの?」というところがあると思うのです。しかし、交通できちんと利用者の方のために道路を通すには、インフラのマネジメントは不可欠だと感じておりますし、今回選ばれたということで、「交通工学・交通計画に関連している」と胸を張って言っていこうかなと考えております。

 ただし、伝統的な交通工学や交通計画とは少し違うなということは知っていますので、本日は学位論文の内容も説明しますが、インフラアセットマネジメントとはなんぞやという話と、研究の事例として学位論文の話を行って、最後に交通とアセットマネジメントがどのように関連しているのか、どういう位置付けなのかということを、個人的な見解として問題提起のようなかたちでお話しできればと思っております。

インフラアセットマネジメント

 インフラアセットマネジメント

 

 インフラアセットマネジメントは、社会基盤施設──たとえば高速道路あるいは国道といったインフラを、国民のアセット、資産として捉えて、その価値を適切に評価し、適切に点検、補修、更新、廃棄などを行うことで、インフラの価値を最大化していく行動であると考えております。もちろん、こうしたインフラには高速道路なども含まれていますし、高速道路の舗装であったり、橋梁のみならず、いろいろな施設系統が含まれているということです。

階層的マネジメントサイクル

階層的マネジメントサイクル

 

 現場でよくあるマネジメントサイクルとして、PDCAのようなサイクルがあります。その特徴としては、日常の維持・修繕レベルから長期的な戦略レベルまで、階層的なサイクルになっているという点です。研究としては、マネジメントサイクル自体をいかにスムーズに回していくか、あるいは、道路の場合なら道路管理者の方々が現場で回しているマネジメントサイクルが自動的に改善されていくためのツールを提供するという位置付けになっています。

 学位論文で行ってきた研究は、インフラのパフォーマンス評価、あるいは視覚化です。そのなかでもとくにインフラの劣化過程を定量化する研究を行ってきました。このパフォーマンス評価というのは、先ほど申し上げたインフラアセットマネジメントのなかで、その価値を適切に評価するという点できわめて重要なプロセスだと考えています。そういう問題意識の下で、研究を行って参りました。

実点検データを用いた統計的劣化予測

実点検データを用いた統計的劣化予測

 

 まずは既往研究ということで、過去にどういう研究が行われてきたのかという話です。これが2005年の論文で、指導教官の貝戸先生や小林先生も入っている研究の結果です。アプローチとしては、実際の点検データを用いて、統計的に劣化過程を定量化していきます。この劣化過程がインフラのパフォーマンスにつながります。ですから横軸に経過年数、縦軸に劣化の度合いを表す健全度の指標が入っています。実際に点検データから統計的にカーブを推定していきます。これはニューヨークにある橋梁の床版の事例です。このように、たとえば交通量ごとに劣化過程を推定することができるという研究が行われてきました。

経済評価

経済評価

 

 推定した劣化過程から経済性の評価を行うことで、たとえばライフサイクル費用が算出できます。あるいは劣化に起因したリスクが算出できるという流れです。冒頭でお示しした「インフラアセットマネジメントとはなんぞや」という話から言うと、たとえば社会的な総余剰──便益からLCCとリスク費用を引いたものを最大化するようなアプローチがもっとも素直に考えられるかと思います。これまでの主流はリスク管理水準──リスクを一定以下に抑えて、ライフサイクル費用を最小化していくアプローチがとられてきました。ただし、「これまでの主流」ということですので、後ほど「それではこれからはあかんやろ」ということを議論させていただければと思っております。

劣化過程の異質性機

劣化過程の異質性

 

 このような経済評価とは別に、学位論文では統計的な劣化予測モデルの開発をしてきました。既往研究としては、これもニューヨークの橋梁の事例ですが、劣化過程を先ほどの1本のカーブではなく、個々の橋梁単位でこのように劣化カーブを描くという研究も行われていました。このように1本1本カーブを描いていくと、それぞれの橋梁の劣化過程はさまざまにばらついていますので、到底1本のカーブでは表すことはできません。ですから、過分散問題を解消するとか、寿命がきわめて短い施設に対しては重点的に監視を行っていかなければいけないという研究も、2008年に行われていました。このような状況で学位論文研究をスタートしたということです。

 学位論文のメインは、四つの劣化予測モデルを開発しています。そこに共通するコンセプトとしては、データ欠損を補完することと、多元的な劣化評価を行うということがあります。本日はデータ欠損補完について一つのモデル、多元的な劣化評価に関してもう一つのモデルを紹介させていただきたいと思います。

データ欠損の補完 研究背景・問題意識

データ欠損の補完

研究背景・問題意識

 

 まずデータ欠損の補完ですが、構造物の点検、インフラの点検というのは、劣化予測を行うことが主目的ではなく、実際に構造物が悪くなっていないかどうかを把握するための点検です。ですから、データが欠損している、バイアスがかかっているという扱いづらいデータになっています。そこに対してある統一的なフレームワークを提案して補完を行っていこうという研究です。

 例として、健全度という劣化指標について、判定基準が変更された場合の判定基準前後のデータを統合的に用いるという方法論を提案しています。左の表は、構造物の劣化状態を「1.損傷なし」、「2.損傷が広範囲に認められるが、機能面の低下がみられず、継続的に観察する必要がある」、「3.損傷や機能低下がみられ、補修が必要であるが、緊急補修を要しない」という判定基準にわけており、これに基づいて実際にインフラは点検されています。その判定基準が、インフラの共用期間中に四段階に改定された場合を対象としています。旧基準のデータと新基準のデータそれぞれでバイアスが存在しているので、別個では用いることができません。統合的に用いる必要があるという事例です。

隠れマルコフ劣化ハザードモデル

隠れマルコフ劣化ハザードモデル

 

 提案したのは、隠れマルコフ劣化ハザードモデルです。みなさんも名前は聞いたことがあるかと思いますが、実際に求めたいものは、新基準のデータで記述される劣化過程になります。考え方としては、観測されている旧基準の健全度の背後に新基準の健全度で表されるような劣化過程が隠れているということなので、新基準の健全度を用いた劣化過程を推定する際に、旧基準の健全度のデータも補完的に用いているという方法論になっています。

高速道路トンネル照明灯具への適用

高速道路トンネル照明灯具への適用

 

 実際に高速道路のトンネル照明灯具に適用した事例を紹介したいと思います。それぞれデータはたくさんあったのですが、バイアスがひどかったという事例です。

劣化予測結果

劣化予測結果

 

 このように劣化過程をそれぞれ推定していて、青線が既往研究として示した方法論で、赤線が今回の研究で提案した方法論です。判断基準としては、寿命がある程度実務者の経験的な知見に近づいてきたということになるのですが、より現実的な劣化過程を、旧基準のデータあるいは新基準のデータのみを用いるのではなく、2種類のデータを統合するモデルによって、推定可能になったという結果になっております。

データ欠損構造

データ欠損構造

 

 学位論文の冒頭でデータ欠損構造についてまとめています。構造としては、この赤で塗られている部分が実際に獲得されているデータです。白抜きの部分が観測されていないデータで、実際の取り扱いとしては潜在変数のような確率変数として扱いますが、その確率変数として表現する際に、今回は旧基準の健全度データを用いて、この潜在変数をMCMC法で同時にサンプリングしていくという方法論です。このようなモデルによる推定というものが、これまでインフラアセットマネジメントのなかでも、統計的な劣化予測のなかでもなかった考え方で、このような考え方を用いて実際にインフラの劣化過程を推定する方法論を提案しています。

多元的劣化評価 研究背景・問題意識

多元的劣化評価

研究背景・問題意識

 

 二つ目に、多元的な劣化過程モデルを提案していますが、こちらの研究背景と問題意識についてお話しします。これは高速道路のゴムジョイントです。左が損傷の種類を示しています。ジョイントの損傷としては、まずジョイントのゴムが剥がれてくるような上面の損傷があります。上面の損傷に対しては、上面部材を取り替えていきます。一方でジョイントの下面としては止水材などがあるのですが、それが損傷している場合にはジョイントの下面が取り替えられます。

 ただし、このジョイントの上面と下面が同時に損傷している場合には、上下面同時に更新します。同じジョイントについても複数の劣化の事象があって、その劣化事象が、一つが劣化しているのか、もう片方が劣化しているのか、両方劣化しているのかで、補修の種類が変わってくるというのが問題意識となっています。

研究目的

研究目的

 

 研究目的は、こういう多元的な複数の劣化、先ほどの例で言えば、ジョイントの上面と下面のそれぞれの劣化過程を同時に表現していくモデルを提案することです。やっていることは、二つ目の事例である「劣化過程の異質性」、1本線があってレインボーのように広がった図になっていたモデル──少しテクニカルな話になりますが、パネルデータモデルのランダムエフェクトモデルになっています。それぞれの異質性パラメータの確率分布があるのですが、それを周辺分布と捉えまして、コピュラというものでつなげて、この異質性の同時分布を求めるという方法論になっています。

多元的劣化過程モデル

多元的劣化過程モデル

 

 基本とする方法論としては、劣化速度をハザード関数で表して、このイプシロンが異質性を表すものです。劣化速度の異質性ですが、それぞれの異質性のパラメータの周辺分布があって、それをコピュラでつなぎ合わせることによって同時分布を推定するという方法論になります。この異質性パラメータは、今回の場合だと平均を1に基準化しないといけないというなかで、その確率構造をキープしながら、異質性パラメータの同時分布も推定できるという話になっています。

高速道路ジョイント部材への適用

高速道路ジョイント部材への適用

 

 実際の事例をご覧いただきたいのですが、高速道路のジョイント部材に適用した事例になっています。もちろん、劣化過程も推定しているのですが、メインはこの異質性パラメータの分布に着目します。異質性パラメータの分布というのは、それぞれのジョイントの寿命が長いか短いかということを表しています。

異質性の多次元プロット

異質性の多次元プロット

 

 こちらがその異質性パラメータの多次元のプロットになります。横軸が劣化事象1(路上点検)、つまりジョイント上面の損傷です。縦軸がジョイント下面の損傷の異質性パラメータで、劣化速度を表していると考えていただければと思います。それぞれのプロットがそれぞれのジョイントを表しています。このような相関が実際に見られているケースで、個々のジョイントごとに劣化速度の異質性をプロットすることによって、たとえば平均が1とすれば、左上のジョイント群は、平均よりもジョイント下面の部材の劣化速度が速いので、ジョイント下面の部材の取り替えが必要になります。右上あたりはジョイント上下面の同時更新が必要、右下は上面の取り替えが必要と、それぞれのジョイントに対してとるべきアクションがわかります。

異質性の同時分布

異質性の同時分布

 

 さらに、先ほどランダムエフェクトモデルと言いましたが、この異質性の同時分布を定量化していますので、将来時点でこのジョイント下面の部材の取り替えが必要なものが20.1%、上下面の同時更新が必要なものが36.3%、上面部材の取り替えが必要なのが21.6%という定量化が可能となります。将来時点でどのような取り替えの準備をどの程度しておかなければいけないのかという定量化が可能となったという例です。

おわりに

おわりに

 

 これからが一番議論させていただきたいことなのですが、冒頭で申し上げたように、「アセットマネジメントは交通工学に含まれるのか否か」という話ですが、やはり利用者がいないとアセットの価値は引き出されないということは当然のことです。アセットマネジメント業界では、土木に限らずファイナンス系であったり、金融関連のさまざまな民間会社がビジネス・チャンスをうかがって参入してこようという状況になっています。そのなかでホットなテーマとなるのが、インフラの価値をどのように定量化するのかという点です。  たとえば高速道路の場合であれば、利用者の便益を用いてそのインフラの価値を定量化するというのが一つの手かなと思います。先ほどLCCの評価はもう古いのではないかと言ったのは、やはり人口が減少していきますし、予算も減っていくなかで、高速道路はまだ大丈夫かもしれませんが、地方の国道などは本当にその橋梁がいるのか、その道路がいるのかという状況が確実に出てくると思います。そのなかで、これまでのLCC評価で、「この構造物を最小の費用で残すためにはどうしようか」という考えではなく、「この構造物あるいは道路、橋梁は本当にいるのか」という考え方で、インフラの価値を適切に評価して、インフラのネットワーク構造や存在を考えていかなければいけません。

 二つ目は桑原先生と行っている研究ですが、インフラ、アセットの劣化に起因して、たとえば高速道路施設が劣化すると交通量に影響を与えるというのであれば、この劣化を適切にマネジメントすることによって、利用者便益が変動していきます。この変動可能性を考慮するためにも、やはり利用者便益を適切に定量化することが必要となります。

 三つ目は、ネットワークにおけるアセットマネジメントです。先ほどから議論されているのは、道路などでもネットワークを形成していますが、この道路区間、この橋梁をどのようにマネジメントしたらいいのかという話でした。たとえばずっと続いている道路であれば、一つがだめになればそのリンクは使えないことになりますし、こうしたネットワーク上でどのようにインフラをアセットマネジメントしていけばいいのかという話です。

 流行の言葉で、クリティカルインフラというものがありますが、先ほど申し上げたように、インフラの廃棄を考えなければいけないということも挙げられます。さらにネットワークを考慮すると、交通量によって劣化過程が変わっていくので、たとえば交通量の需要を制御していくと、劣化過程もコントロールできるのではないか。そうなると、システムが最適になるようなパターンが出てくるのではないかという発想もあって、いま研究を進めています。

 あとは「方法論の共通性」と資料に書いていますが、たとえば学位論文で使ったマルコフ連鎖モンテカルロ法や、限られたデータからバイアスのない結果を推定していく方法論、あるいは多次元の軸、指標で異質性が評価されている場合において、それぞれの異質性の相関構造を考慮しながらそれを定量化していくような考え方というのは、伝統的な交通工学あるいは最先端の交通工学・交通計画の研究のなかでも、取り入れることができるのではないかと考えています。

 この資料をベースに、このあとの懇親会などでお話をおうかがいできればなと思っております。私は東北大学に勤めていて奥村誠先生にご指導いただいていますが、桑原先生や赤松隆先生とも議論ができるような環境に置かれています。アセットマネジメントというテーマでしたが、交通工学・交通計画の重要なタイトルを取らせていただいて、今回も著名な先生方がおられますので、ネットワークを拡げることができる恵まれた環境にいるかなと考えています。

 ここで示しましたように、これまでのアセットマネジメントという括りに縛られず、交通工学で何ができるのか、あとは所属が災害科学国際研究所なので、災害に関して何ができるのかというように、私のアセットマネジメントの知見を元にして、それぞれの分野で何ができるのかを考えて、「これが自分の分野だ」と胸を張って言えるような研究分野をこれから作っていきたいと思います。そのためには、今後ともさまざまなご指導をよろしくお願い申し上げます。どうもありがとうございました。

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