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米谷・佐佐木基金

受賞者(学位論文部門)の挨拶と受講講演

村上大輔氏

村上大輔
国立環境研究所 地球環境研究センター 特別研究員

【 研究題目 】
New methodologies for the change of support problems:development of spatial statistical models
時空間データの空間単位変換のための空間統計手法の開発

 このたびは非常に栄誉ある賞を誠にありがとうございます。評価委員の皆様とシステム科学研究所の皆様に、深く感謝を申し上げます。

 この研究は、私が修士課程から行なっているものでして、空間統計やGISを始めるきっかけとなった思い入れのある研究でもあります。この研究が高く評価されたことを、指導教員の堤盛人教授、私の所属する研究室のメンバーともども大変うれしく思っております。誠にありがとうございます。

はじめに

はじめに

 

 それでは本研究の内容に入っていきたいと思います。この研究は、多様化する時空間データを適切に利活用する上で不可欠な操作である「空間単位の変換」に着目して、空間統計学の理論・方法を新規に開発・整理しようという研究です。

地理情報システムの発展と時空間データ

地理情報システムの発展と時空間データ

 

 まず背景について説明させていただきます。このスライドに示しているように、近年では、市区町村別の社会経済データ、メッシュ別の土地利用データ、道路ネットワークデータ、観測局別の気象データといった幅広い時空間データが整備・公開されており、かつ誰もがそれらのデータに容易にアクセス可能となってきております。さらに今日では、例えば超高分解能リモートセンシングデータやヒューマンセンサデータといったこれまでにない時空間データも利用され始めており、時空間データはますます多様化してきております。そのような中、多様な時空間データを柔軟に解析することができるような理論・方法の開発が、地理情報科学における喫緊の課題となっております。しかしながら、集計単位や観測位置の異なる時空間データを統合的に解析することは必ずしも容易ではありません。

集計単位の違いに起因する問題

集計単位の違いに起因する問題

 

 例えば市区町村別データやメッシュ別データのような集計データの場合ですと、データ間の集計単位(例えば市区町村やメッシュなど)の違いが問題となります。

 集計単位の違いに起因する問題の一例として市区町村別データのパネル分析が考えられます。例えば茨城県を対象に市区町村別人口の経年変化を分析したい場合ですと、2000年に86存在した市区町村は、2010年には44となってしまうため、市区町村別の人口を単純に追うことはできません。そのため、集計を行なうことで、より粗い2010時点の市町村に集計単位をそろえるか、あるいは按分を行なうことで、より細密な2000年の時点の市区町村に集計単位をそろえる必要があります。しかしながら、大きいデータを小さく集約してしまう集計はデータの情報量を少なくしてしまいますし、反対に按分は推計を伴うので、どうしても推計誤差が生じてしまいます。そのため、集計に伴う情報損失や按分に伴う推計誤差をどう抑えるかが問題になります。

観測位置の違いに起因する問題1

観測位置の違いに起因する問題1

 

 また、例えば測定局毎の観測データのような非集計データの場合は、データ間の観測位置の違いが問題となります。例えば大気汚染が地価に及ぼす影響を分析したい場合ですと、地価調査地点と大気汚染測定所の位置は異なるため、例えば空間補間を行なうことで、両データの位置をそろえる必要があります。しかしながら、あくまで補間ですので、必然的に推計誤差が伴います。従って、推計誤差をいかに抑えるかが課題となります。

観測位置の違いに起因する問題2

観測位置の違いに起因する問題2

 

 また、非集計データの観測位置に関連した別の問題として、そもそもどのような観測データの地点配置がよいのか。「現行」の観測地点配置でよいのか、それとも「変更案」のような配置の方が良いのか、ということもまた問題となります。

本研究の目的

本研究の目的

 

 以上を整理しますと、時空間データの多様化に伴い集計単位や観測位置もまた多様化していくと予想される中、集計あるいは按分を通した集計単位の変換、あるいは補間等を通した観測位置の変換をどのように行うかが土木計画学と地理情報科学に関連した重要な課題となってきております。そこで本研究では、集計単位や観測位置の変換を精度よく行うための方法論を、空間統計学と呼ばれる比較的新しい分野の知見を援用することで、幅広く開発してきました。

空間統計学とは

空間統計学とは

 

 このスライドでは空間統計学について紹介させていただきます。空間統計学とは、空間データの特性を明示的に考慮しようという統計分野の一つです。

 時系列データの研究は古くから活発ですが、時系列データには通常過去から未来への一方向的な影響関係が仮定されます。一方で、空間データには同時点のデータが同時多発的に相互に影響を及ぼしあうことが仮定されます。また空間的に近接したデータはお互いに強く影響を及ぼしあうという空間的相関もまた仮定されます。

 空間統計学では、それらのような空間データの特性を明示的に考慮した幅広い統計解析手法が発展を遂げてきました。私の研究は、空間統計学の最新の方法を、集計単位や観測位置に関連した問題に応用しようというものです。

論文の全体構成

論文の全体構成

 

 学位論文の全体構成はこのスライドに示すようにおります。大きく分けて、集計単位の変換に関する研究とそれに関連した問題を取り扱っている章と、あとは観測位置の変換、即ち点補間とそれに関連した問題を取り扱っている章に分類されます。ここでは、それぞれについて簡単に説明したいと思います。

第三章:集計単位の変換への空間統計学の応用

第三章:集計単位の変換への空間統計学の応用

 

 まず集計単位の変換についての章である第3章を紹介します。ここでは、例えば23区別のデータをどのように1kmメッシュに落とし込むかといった、集計単位の変換方法を開発しました。例えばあるエリアの人口を、住宅地面積に応じて2つのエリアに配分しようという方法は、集計単位変換の最もシンプルな方法の一つです。

集計単位の変換手法(特に按分のための手法)の系譜

発展的手法

 

 このスライドでは集計単位の変換手法の系譜を整理しました。初期の頃は、面積に応じて人口などを比例配分しようという面積按分が用いられていました。その後は、例えば面積以外の何らかの空間分布情報、例えば住宅地の分布など、を考慮して配分を行おうという方法とか、回帰モデルを活用する方法、データの空間過程をモデル化する方法など、幅広い集計単位の変換手法、特に按分手法、が幅広い分野で議論されてきました。

 按分手法の議論が最も活発なのは計量地理学です。計量地理学における議論は概ね収束しておりまして、精度の良い按分を行うには補助的なデータを活用することが最重要、との結論に達していると見受けられます。具体的には、住宅地の空間分布や、交通網の空間分布を考慮して人口などを按分することが重要である、ということです。

 一方で、特に空間統計学の分野では、必ずしも補助的データの利活用には必ずしも焦点があてられてきませんでした。むしろデータの空間過程を統計学モデルできちんとモデル化するというところが重要だと指摘されてきました。

 以上のように計量経済学と空間統計学では異なった主張がなされてきました。そこで本研究では、両分野のアイデアを考慮した按分手法を、空間統計モデルを拡張することで開発してきました。

集計単位の変換手法の開発

集計単位の変換手法の開発

 

 次に、開発した按分手法の一応用例として、国別人口・GDPの按分を紹介します。ここでは前スライドのレビューを元に、空間統計モデルを用いて人口・GDPの背後にある空間過程を考慮しながら、土地利用、都市域、交通網などの様々な補助的データを考慮して、国別の人口・GDPを0.5度グリッド別に配分しました。また、標本間の相互作用がモデル化しやすいという空間統計モデルの特性を活用して、都市間のグローバルな経済波及やローカルな空間波及もモデル化した上での按分を行ないました。

開発した集計単位の変換手法の適用

開発した集計単位の変換手法の適用

 

 国別人口・GDPの按分結果の一例として、2080年のGDPについての結果を示しています。持続可能性な成長を実現するというシナリオであるSSP1の下ではGDPはこちらのように集約的、即ちコンパクト、になり、一方で持続可能性な成長に失敗するというシナリオであるSSP3の下でのGDPの空間分布はこちらのように拡散的なります。このように、シナリオに応じてGDPの空間分布が変化すること、及び開発した按分手法を用いて直観に整合する按分結果が得られることを確認しました。

 結果として推計された将来のグリッド別の人口・GDPデータは、国立環境研究所のWebページで公開しております。

第五章:観測位置の変換(補間)への空間統計学の応用

第五章:観測位置の変換(補間)への空間統計学の応用

 

 集計単位の変換手法についての研究は以上になります。次に非集計データの変換手法、具体的には非集計データの補間手法の研究を紹介させていただきます。

開発手法:空間フィルタリングに基づく点補間法

開発手法:空間フィルタリングに基づく点補間法

 

 ここでは空間フィルタリングと呼ばれる比較的新しい空間統計手法を応用した、非集計データの補間、即ち点補間、を行うための手法開発を行なってきました。

 このスライドでは開発した手法のイメージをまとめました。同手法は、例えば地価公示データのような非集計データを成分分解して、それをもう1回くっつけることで点補間するというアプローチをとります。なお、この成分分解の過程で、たとえば東京都内では都心だけではなく立川の周辺などでも比較的ホットスポットがあることや、局所的にみると中央線沿線にホットスポットがあること、中央線沿線の広い範囲で地価が大きく変動していることなど、様々な時空間パターンが抽出されます。ここで開発した点補間手法は、それら各成分の強さをデータから推定して点補間を行います。

提案手法の有効性検証

提案手法の有効性検証

 

 このスライドでは開発した手法の補間精度と計算時間を検証しております。上の図は精度を従来手法と比較しておりまして、提案手法が概ね従来手法と同等の精度になっていることが確認できます。一方、下の図は計算時間を従来手法と比較しております。この図より、提案手法は従来手法よりもはるかに高速であり、たとえば50万サンプルでも数分で計算が終わることが確認できました。今後はこの方法をビッグデータの解析等にも活用したいと考えております。

第六章:観測地点配置問題への空間統計学の応用

第六章:観測地点配置問題への空間統計学の応用

 

 非集計データの観測位置の変換手法「点補間」についての研究は以上になります。次に、非集計データの観測位置に関連したもう一つの研究テーマとして取り組んできた、観測地点配置問題への空間統計学の応用について紹介させていただきます。

背景

背景

 

 まず背景です。財政健全化の一環として、地価調査事業の縮小が課題となっています。その一方で、事業縮小に伴う地価公示データの質の低下は避けなければならないため、地価調査地点を効率的に削減していく必要があります。そこで本章では地価調査地点を効率的に削減する方法についての研究に取り組みました。

考慮すべきポイント

考慮すべきポイント

 

 このスライドでは、地価調査地点を削減する際に考慮すべきポイントをまとめています。まずは精度です。できる限り少ない標本で全域の地価をくまなく説明するような、つまりデータの特性を精度良く説明するような、配置を実現する必要があります。後述のように、本研究では、この配置の精度を評価するために空間統計モデルを用いています。考慮すべき2つ目の点は地価調査のコストですが、本研究では一様と仮定して明示的には考慮しません。また3つ目の点である従来に配置基準ですが、これについても同基準を満たす既存の評価地点から削減後の地点を選択すればよいだけですので、明示的には考慮しません。

 考慮すべき4つ目の点は利用目的です。詳細は割愛させていただきますが、地価調査データの主な利用目的である、通常の土地取引、用地買収・補償、課税の3つに着目して、それぞれに対して異なる重み変数を設定することで、利用目的の違いを考慮しています。例えば通常の土地取引の場合ですと、各調査地点の重みとして期待土地取引数を用いています。また次スライドに示すように、最適化の基準自体も利用目的ごとに設定しています。

 要約すると、この研究では精度と利用目的の2つを考慮して、削減する地価調査地点を最適化します。

配置を最適化するための目的関数

配置を最適化するための目的関数

 

 削減する地点配置を最適化するためには、説明不能な要因をできる限り減らそうというMini-sum型の目的関数、または各地点の説明不能な要因を少なくとも一定以内に抑えようというMini-max型の目的関数を最小化する必要があります。

 今回は、課税に対してはできる限り説明力の高い配置にしたほうがよいと考え、かく乱をできる限り小さくするMini-sum型を用いています。一方、土地取引や用地買収・補償において地価調査データは比較考慮の位置材料として使用されるので、説明不能な要因をできる限り小さくするというよりは、地価が全く説明されないような地点が出現しないことが重要と考えました。従って、Mini-max型、即ちリスク回避型の目的関数、を用いることとしました。

実データへの適用

実データへの適用

 

 次にここで開発した空間統計手法を実データに適用します。具体的には、茨城県の2009年度住宅地価調査データを対象に、仮に30パーセントの地点を削減するとしたら、どこを削減すべきかを開発した手法で明らかとします。

30パーセント削減の結果

30パーセント削減の結果

 

 このスライドは計算結果を整理しています。最適化計算は利用目的毎に実施しております。各結果で共通する傾向としては、つくばや土浦などの比較的に東京に近い都市で地価調査地点が大きく削減されていることが確認できます。また日立市周辺でも似たような傾向が見られます。対照的に水戸市周辺ではそういう傾向はあまり見られませんでした。この結果から、水戸市周辺では地価調査地点をあまり削減すべきではなく、反対につくば市や日立市周辺ではより多くの地価調査地点を削減すべきである、ということが定量的に評価されました。

削減が特に推奨される地点

削減が特に推奨される地点

 

 最後に、3ケース全てで削除すべきと推定された点を抽出すると、この図のようになりました。結果を大域的に見ると南西と北東の都市部でより多くの地価調査地点を削除すべきという結果が得られております。結果を局所的にミクロに見ると鉄道駅に近い地点を優先的に削除すべきという結果が得られました。

 以上のように、本章では空間統計学が地価調査地点の配置問題、特に削減問題に役立つことを示しました。

今後の研究の方向性

今後の研究の方向性

 

 以上のように、本研究では、例えば市区町村別データをどのようにメッシュ別に落とし込むかといった集計単位の変換に関する研究と、例えば地価調査データからどのように任意地点の地価を点補間するかといった、あるいはどのように地点配置を変換するかといった、非集計データの位置の変換に関する研究に取り組んできました。

 今後の研究の方向性についてです。これまでは時空間データの多様性に着目してきたのですが、センサー技術の発展に伴い、近年では高解像度のリモセンデータや、ジオタグ付ツイッター・データのような大規模データの利活用も活発化してきております。従いまして、今後は、多様かつ大規模な時空間データの統合的な統計解析の研究に取り組みたいと考えております。また、最終的には、幅広い実問題に、特に都市の環境といった社会的な要請の高い実問題に、幅広く取り組んでいけたらと考えております。

 以上です。ご清聴ありがとうございました。

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