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米谷・佐佐木基金

受賞者(創研部門)の挨拶と受講講演

谷口守氏

谷口 守
筑波大学システム情報系社会工学域 教授

【 研究題目 】
サイバー空間への交通行動分析:〜その都市に及ぶ影響まで〜

 本日はこのような栄えある賞をいただき、本当にありがとうございます。天国にいらっしゃる米谷榮二先生、佐佐木綱先生に感謝を申し上げるとともに、審査いただいた先生方、運営を担当いただいているシステム科学研究所の皆様、本当にありがとうございます。

はじめに

はじめに

 

 まず、米谷先生には、私の高校(神戸高校)の大先輩であると伺っており、お目にかかったことはありますが、残念ながら授業を受けさせていただいた世代ではありません。ただ、シンポジウムなどで謦咳に触れさせていただく機会があったことは幸いでした。

1987年4月、熊野古道

熊野古道にて

 

 佐佐木先生に関しましては、授業も受けさせていただきました。資料の写真は1987年、私がまだ博士課程の1年生のとき、関西若手研究者の会ということで、佐佐木先生が熊野古道に全員を連れていってくださった思い出深い会での写真です。

 メンバーを見ていただきますと、けっこう味わい深いのですが、東京工業大学にいらっしゃる先生、流通科学大学、名城大学、福井高専、東北大学、神戸大学、関西大学、京都大学、私は筑波大学で、岩手大学、立命館大学の方々がいらっしゃいます。いまから思えばすごいメンバーだったなと思っています。

 佐佐木先生は、非常に鋭い指摘をされるので、研究面では畏れ多い方だったと思っております。本日このようなかたちで佐佐木先生のお話をさせていただけることは、たいへんありがたいことだと思います。

 20分ほど時間をいただけるということですので、研究内容についてはざっくばらんな話になるかと思いますが、まず最近の話から始めたいと思います。

つくば市友朋堂書店、2016年2月突如閉店

つくば市友朋堂書店閉店

 

 つくば市に友朋堂という本屋さんがありました。いい本を揃えていて、学生にも人気があって、けっこう売れていたのですが、2016年2月に突如、何の前触れもなく閉店してしまいました。店舗が三つあって、車でアクセスできるところにも支店があったのですが、これも閉店しました。三つの店舗が全部、閉店されてしまいました。

売れてた本屋なのに・・・

売れてた本屋なのに・・・

 

 ネット上では惜しむ声がいろいろ出ていました。つくば市には大学がありながら、もう本屋がなくなってしまったわけです。しかも、ここの本屋さんは売れていて、「潰れた」のではなく「廃業」されたのです。「もうやめる」と言ってやめられてしまった。

 私は社会工学域というところに所属しておりまして、社会の実態を調べる実習がありますので、いろいろ調べてみようということで閉店の経緯を学生が調べてみました。彼らが作成したスライドからいくつか紹介させていただきます。

取次業者の倒産がキーに

取次業者の倒産がキーに

 

 どのようなことが起こっていたかというと、本屋さんというのは、基本的に真ん中に取次業者というものが入ります。大手の取次で日販とかトーハンという名前を聞かれたことがあるかと思います。ジュンク堂や丸善など大きなところにはそういう大手の取次が下ろしているわけですが、友朋堂のようなまちの小さい本屋さんには、小さい取次業者さんしか下ろしてくれないわけです。そのため、書店さんの業績はよくても取次業者さんが潰れると、全部連鎖的に倒産してしまう構造になっています。

 これは、ようするに真ん中の部分がAmazonなどに行ってしまって業績が悪くなっていて、中抜きが起こってしまっているということです。

取次店倒産が主たる理由で急速な書店消滅

取次店倒産が主たる理由で急速な書店消滅

 

 この現象をもう少し追いかけてみると、友朋堂が廃業した2016年2月だけで、全国で33の店舗が、取次業者が倒産したことによって営業できなくなり、やめてしまっていました。1日に1店以上のペースで、まちの本屋さんがなくなっているということになっています。

書店分布(2003)

書店分布(2003)

 

 空間分布で見たらどうなっているかですが、これは2003年のつくば市のようすです。常磐線とつくばエクスプレスなどの鉄道駅を入れて、書店が2003年の段階でどのようなかたちであったかというと、資料のように土浦市の駅前やつくばの駅前、牛久の駅前など、駅前に本屋さんがあったわけです。2003年の段階で、電子電話帳のデータでみると、全部で138の本屋さんがありました。

書店分布(2003→2015)

書店分布(2003→2015)

 

 それが2015年の段階で調べると、そのうち77の店舗が消えてなくなっています。消えてなくなっているのは、赤い×マークのところです。これはどういうことかというと、じつは駅前の多くの書店が閉店してしまった。当然、新しくできたお店もあります。ショッピング・センターのなかにできた店などは新しくできていますが、数はぜんぜん追いつかないわけです。

 このように、本来はまちの中心だったところから、本屋さんという「人が滞在する施設」がなくなっているということが、ここ10年ぐらいのあいだに急激に起こっています。

いま起こっていること

いま起こっていること

 

 整理しますと、いま起こっているのは、まちなかのお店──本屋さんがもっとも典型的な例ですが、滞留空間が喪失されているということです。それに伴い、昔にくらべてとくに若い人の生成原単位が急激に減ってきています。

 これは流通構造が変わってきているわけで、それにはインターネットがかなり影響していることが見えている。直接的に影響しなくても、このように間接的に、ボディ・ブローのようにまちに影響を与えているということです。

 それによってまちのかたちが変わってきています。現在、国土交通省などで取り組んでいる公共交通指向型のまちづくりというものがありますが、その土台を崩すようなかたちでまちの施設が抜けているということが、このような状況から見えてきているということです。

WAY 革命?

WAY 革命?

 

 そもそもインフラというのは入れ替わってきたという事実もあります。WAY革命と言っていいかどうかわかりませんが、たとえばいろいろなものを運ぶには、もともとWater wayが最初にあったわけです。それがRail wayに変わって、Motor wayに変わって、そして新しいインフラとしてCyber wayと言っていいのかどうかわかりませんが、固定電話を持っていない国でも先に携帯電話が入ってくるような現象が起こっています。新しいインフラとして、既存インフラにも影響を与えている状況になってきています。

一世帯当たり1か月間のネットショッピングの支出総額の推移

一世帯当たり1か月間のネットショッピングの支出総額の推移

 

 影響の与え方はいろいろですが、扱いやすいのはネットショッピングなので、ネットショッピングの話を例にします。どのようにネットショッピングが増えてきているかというと、平成14年から平成25年、およそ10年のあいだで5倍ぐらいに増えている状況です。

 平成14年のころは本当に数パーセントでしたが、最近ではかなり数が出てきて、実際の商業に影響を与えている状況になっています。

空間障壁克服のプロセス

空間障壁克服のプロセス

 

 これは空間の距離、距離の障壁がいろいろあったが、ある意味でクリアされてきている、便利になってきているわけです。かつては都心対郊外ということで、自動車時代の交通計画をどうするかという話があったのですが、じつはもうそれを通り越してしまっている状況になっているということです。

実態例:消費者の買い物行動(岡山大学生のケース)

実態例:消費者の買い物行動(岡山大学生のケース)

 

 たとえば、これは初期のころの研究の一例ですが、岡山大学にいたころ、私の授業を受けている学生にアンケートをとりました。「身近な人へのプレゼントをどこで買いましたか」と訊ねると、「岡山市のまちなかで買いました」とか、大阪から来ている学生は「大阪で買いました」とか、実際のまちなかで買っているわけです。

 その学生に、「ちょっとコンピュータ・ルームに来て」と言って、ネットで同じものを探して買う直前に止めさせて、そのサイトがどこかを見ると、必ずしもショップではないと思いますが、東京、関東が半分以上です。あとは中部地方に行ったり、イギリスに行ったりしている者もいましたが、行き先が100パーセント変わってくる。中国・四国地方にそもそも来ない状況になる。

 このように、買い物上ではある意味で地方都市がいらなくなってしまう可能性が出てくることが、最初の段階である程度見えてきたということです。

ネットショッピング利用の潜在要因

ネットショッピング利用の潜在要因

 

 では、どんな人がネットに行ってしまうのかという議論をしたときに、最初に出てきたのは、ようするにまちに出たくない人だろうということでした。引きこもり系の人がネットに依存して、そちらに行くのだろうという議論があったのですが、いろいろデータをとってみると、ネットショッピングに行く人は、買い物が好きという人とアクティブな人、両方の人が行っているわけです。交通行動調査とセットでみると、外に出歩く人のほうが、じつはネットショッピングをしていることもわかってきました。かなり最初の印象とは違うことが見えてきたということです。活動的な人はネットショッピングを利用し、自由に使える自動車もあるということで、そういう動き方になっています。

サイバー立地を性格づける16の視点

サイバー立地を性格づける16の視点

 

 さまざまなお店や施設の立地場所が、じつはサイバー化を通じて変わってきます。たとえばどのような場所に行くのかをチェックすると、これは業種によっても違いがいろいろ見えてきます。

 市街地指向性ということがありますが、そもそも辺鄙なところに行ったほうが物流上は有利ということで、辺鄙なところにわざと行ってしまうものも出てきます。ようするに、さまざまなファクターを見ていくと、ネットが入ってきたことによって、交通計画と都市計画をセットで変えていかないといけないことがわかってきました。

 じつは都市計画などでは、現在は都心対郊外の議論だけをしていますが、ネットの問題も含めてセットで議論しないと、都市のかたちをうまくコントロールできないということが見えていて、そこをどうするかという議論を、ちょうど10年ぐらい前ですが、かなり詰めた記憶があります。

サイバー化でCO2は減る? 買い物滞留時間や移動時間は?

サイバー化でCO2は減る? 買い物滞留時間や移動時間は?

 

 サイバー化してネットショッピングに移ることは、悪いことばかりなのかという話も一方ではあります。まちなかの賑わいが損なわれる反面、たとえば自動車のCO2は減るのではないかとか、個人の移動時間のストレスは当然なくなるわけですから、そういうメリットもあるのではないかということがあります。しかし、これも調査ベースで見ると、じつは自動車のCO2はそれほど減りません。なぜかと言うと、買い物で代替するのは自動車トリップの買い物ばかりではないからです。

 滞留時間や移動時間などについては、シンプルに原単位的に言うと、1回のネットショッピングをすることによって、約30分の移動時間と、約30分のまちなかの滞留時間が代替されます。つまり1時間分ぐらいのまちなかでの移動時間がネットに置き換わることになります。

 当然、これも複数の買い物をしたり、トリップ・チェーンでいろいろ回ったりということもあるので単純には言えないのですが、シンプルに置き換えるとそれぐらいの影響が出ていることが見えてきました。

行動連鎖表の提案を通じたサイバー化によるまちへの影響

行動連鎖表の提案を通じたサイバー化によるまちへの影響

 

 まちへの影響を考えるときに、たとえば本屋さんにメインで行くか、もしくは本屋さんについでに行っているかということでも、影響は変わってきます。

 行動連鎖表というものを作りました。縦軸が主たる目的でまちのなかに出る場合で、たとえば服を買いに行くのがメインで、ついでに本屋に寄るというように、横軸がサブの活動です。このような組み合わせは、じつは年代によっても考え方によってもさまざまなパターンがあります。

 問題は、このメインの活動がサイバーに置き換わってしまうと、そのついでの行動もつながって置き換わってしまうわけです。そういうアンカーというかキーになるような割合がどのくらいかということと、あとはフロートといって、他の活動が置き換わってしまうことによって、どれだけ自分が影響を受けるかということも活動によってかなり違うことがわかってきました。

 その意味でも、じつは本屋さんというのはまちなかでけっこう大きくて、アンカー値も大きいし、フロート値も大きいことがわかってきました。ですから、どのような活動をまちなかに残していって、どんな活動をサイバーに持っていくかということも、本当は考えていったほうがいいということです。

タウンコンシャスなネット&ネットコンシャスなタウンの重要性

タウンコンシャスなネット&ネットコンシャスなタウンの重要性

 

 これはハワードの100年前の田園都市論の応用です。まちと田舎があって、タウン&カントリーのスリー・マグネット論ということで田園都市の理想という話をハワードが出しました。これはまったく同じ考え方で、real spaceとcyber spaceの両方の魅力を持ってreal & cyber spaceをどのように作っていくかを考えないといけない時代になってきているのかなと思います。

 その意味では、「O2O(online to offline)」、ネットでやっていることをどのように切ってまちなかに出てきてもらうかです。極端に言えば、ポケモンGOもまちなかに人を出すツールです。その効果を見ていくということも、研究テーマとして成立するようになっています。

公共交通利用を促進するスマホHPのポイント〜ネット情報提供で求められるリテラシー

公共交通利用を促進するスマホHPのポイント〜ネット情報提供で求められるリテラシー

 

 JR川崎駅の前に、アトレ川崎というJRの関連企業が運営しているショッピング・モールがあります。現在はやめていますが、このアトレ川崎のサイトでは、しばらく前まで「無料駐車場完備ですので、ぜひお車でお越しください」と書いてありました。そこは車じゃないでしょうという話ですが、これはネット情報をどのように公共に出すべきかというリテラシーの問題です。このようなことをきちんとしたほうがいいということも、一つの課題として挙げられます。つまり、公共交通にうまく乗ってもらうとか、まちなかで滞留してもらうということも、サイバーを通じてうまくやったほうがいいのではないかということです。

 これについても定量的な分析をいろいろしました。サイトを見たときに、公共交通で行こうという気が起こるかどうかを、さまざまなものを見てもらって統計的に分析すると、いろいろなことがわかってきます。公共交通のネットワーク図をきちんとサイトで出しているとか、「公共交通を利用してください」と一言書いてあるとか、徒歩マップがあるなど、そういうことが「公共交通を利用しようかな」という気持ちを喚起する一つのポイントになっています。また、「インターチェンジはここです」と示すとか、あとはどのような写真を入れるか。入れる写真によっても公共交通利用の気持ちというのはけっこう変わってきます。

 一方で、所要時間がいくらだとか、乗り換えがどうかという細かい情報を出しても、じつはあまり気持ちには影響しないといったこともわかってきています。

公共交通利便性(IMMR)とスマホHP情報間のインフォメーションギャップ(都区部・横浜市・川崎市)

公共交通利便性(IMMR)とスマホHP情報間のインフォメーションギャップ(都区部・横浜市・川崎市)

 

 このようにサイトが公共交通指向かどうかを総合的に評価して、実際にそこが公共交通でどれだけ便利かということと対応させてみると、これもおもしろいことがわかります。ホームページを見たときに、どれだけ公共交通を利用しようという気持ちを起こさせるかが縦軸の指標です。横軸はIMMR、これは独自指標でアクセシビリティ指標ですが、そこがどれだけ公共交通で便利かということです。それでプロットをしてみると、これは関東の施設ですが、このように分布が出てきます。

 たとえば、東京都庁やホテルニューオータニなどはすごく便利なところにあるのに、ホームページの公共交通利用促進のイメージはすごく低いのです。「ホームページの公共交通利用促進度」がもう少し上がるように、公共交通利用の促進をもっとホームページを通じてやったほうがいい。

 逆に、神奈川県運転免許試験場はホームページに「公共交通利用をしてください」と書いてあるのですが、そこは公共交通では行けないところなのです。すごく利用促進しているけれども、公共交通利便性がまったくない。そういうアンバランスもわかってきました。

これからは「距離」ではなく、「言語」がバリアになる?

これからは「距離」ではなく、「言語」がバリアになる?

 

 ネットは距離の問題を克服してくれるので便利なわけです。それによって、いろいろ世界が変わってきますが、これまでは距離がバリアになっていました。川があるとか山があることがバリアになっていて、それをどうスルーするかが交通計画の一つの大きな問題でした。しかし、距離はおそらくネット上ではバリアではありませんので、代わりに言語がバリアになってきます。

 英語がわかる人は英語のサイトを見ますが、英語がわからない人は日本語のサイトしか見ないですよね。逆に言うと、英語圏では、英語のサイトはアメリカのニューヨークなどにたくさんあります。どこにどの言語のサイトが集中しているかによって、都市の序列が変わってくる可能性が高い。

 日本やフランスは、けっこう首都に集中しています。ドイツなどは都市の分布と一緒で、けっこう分散しています。そのようなかたちで、それぞれの言語圏の競争でもあるし、言語圏の中での競争もあるという状況になっていると思います。

 あとはつぶやきの分析など、さまざまなバリエーション、可能性があります。ぜひいろいろな研究者の方に入ってきていただいて、まだまだ発展できる分野かなと思っていますので、これからも皆さんの参画を希望しております。どうもありがとうございました。

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