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米谷・佐佐木基金

受賞者(学位論文部門)の挨拶と受講講演

小笹俊成氏

小笹 俊成
株式会社福山コンサルタント 交通マネジメント事業部(西日本帯)事業部次長

【 研究題目 】
道路事業便益の動的評価手法に関する研究

 社会人ドクターとして昨年9月に広島大学大学院を卒業しました。本日は大変名誉ある賞をいただき誠にありがとうございます。これもひとえに、ご指導くださいました藤原章正先生、塚井誠人先生のおかげだと大変感謝しております。また民間では初めてというお話も聞いておりまして、大変光栄に思っております。改めてますます頑張らなければいけないと感じております。ありがとうございました。

はじめに

はじめに

 

 それでは学位論文についてご紹介いたします。タイトルは「道路事業便益の動的評価手法に関する研究」です。

研究の目的・内容

研究の目的・内容

 

 本研究の目的は、実務における現行の道路事業評価手法の課題を踏まえて、新たな道路事業便益の動的評価方法を提案するというものです。

 内容としては、現行の道路事業評価手法に関する課題を整理し、それに対する動的な道路事業評価モデルを定式化しています。そして数値解析として、仮想ネットワーク、実ネットワークに適用して、モデルの有効性を検証しました。

実務における道路事業評価

実務における道路事業評価

 

 実務における現行の道路事業評価ですが、計画段階、事業実施段階、供用後の各段階において、1つ1つの事業区間に対して事業評価が行われています。事業評価の中心は費用便益分析であり、国土交通省のB/Cマニュアルに従って、走行時間短縮便益などの3便とコストを比較した費用便益比、つまりB/Cで事業の妥当性をチェックしています。

 しかしながら、B/Cマニュアルでは、全ての道路事業を評価することになるので、計算の簡略化を行うための前提条件を置いている部分もあり、道路事業評価を行う際の限界や課題がいくつか指摘されています。

現行の道路事業評価に関する主な指摘(1) ―― 静的ネットワーク評価に対する指摘

現行の道路事業評価に関する主な指摘(1)静的ネットワーク評価に対する指摘

 

 主な指摘の1つとして、静的な道路ネットワーク下で交通量推計・便益算定を行っているという問題があります。たとえば、道路事業③の便益を計測する場合、B/Cマニュアルに従うと、整備ありケースは全ての道路事業ができたケースであり、整備なしケースは、そこから道路事業③がなかったケースとなります。このようなある1時点において、整備有り無しの交通量推計を行い、その結果をもとに便益算定を行っています。

 そのため、この「静的評価」方法に対して「動的評価」の導入、つまり「ネットワーク外部性」の考慮が指摘されています。

現行の道路事業評価に関する主な指摘(2) ―― 補足:ネットワーク外部性について

現行の道路事業評価に関する主な指摘(2)補足:ネットワーク外部性について

 

 本研究で扱った道路ネットワーク上の外部性とは、当該道路事業の効果を計測するにあたって、周辺の他の道路事業の整備による影響を受けることを言います。

 たとえば、現況ネットワークに対して、道路事業②、道路事業③が整備されるとします。パターン1は道路②が出来て道路③が出来る順序パターン。パターン2は逆に道路③、道路②の順序。D地区からC地区への時間最短の移動ルートを赤線とすると、整備順序パターンによって移動ルートが異なる場面が出てきます。つまり、整備順序が違うと便益は異なることになるので、整備の順番を重要視しなければいけないという話になります。

現行の道路事業評価に関する主な指摘(3) ―― 便益計算方法に対する指摘

現行の道路事業評価に関する主な指摘(3)便益計算方法に対する指摘

 

 便益計算に関しては、もう1つ大きな指摘があります。これは消費者余剰アプローチのグラフです。縦軸が一般化費用ですが、道路整備により移動を表す一般化費用が減少すると、その間のOD交通量が誘発し、グラフに示すこの赤い部分が消費者余剰として便益の対象となります。

しかし現行のB/Cマニュアルは総交通費用法による計算となっており、未整備の総交通費用と整備時の総交通費用の差で表します。また、マニュアルでは未整備時と整備時のOD交通量は固定という前提を置いていますので、この青い部分が便益計測の対象になっています。

 このようなことから、指摘として、「消費者余剰アプローチへの展開」と「誘発交通の考慮」が挙げられています。

動的道路事業評価モデルの定式化 (1)モデルの概要

動的道路事業評価モデルの定式化(1)モデルの概要

 

 これらの指摘を踏まえて、モデルの定式化を行いました。こちらはモデルの全体概要を示すフローです。

 評価対象の道路プロジェクトが複数あったとき、その整備順序を遺伝的アルゴリズムの遺伝子情報によって設定します。その情報をネットワークデータへ段階的に反映し、順次、交通需要予測、便益計測を行い、一方で事業費の算定を行うことで、総純便益B−Cが算出されます。このB‐Cを最大化するような整備順序を求めるというのが全体のモデル構造になります。先ほどの指摘は、それぞれのサブモデルで反映できるような構造としています。

 ここに「⑤事業区間の取扱」と書いていますが、実務を行うときには、1インター間、あるいは2インター間、どの区間を事業単位として整備を進めていくのが良いかを悩むことがあります。そこで、「事業区間の設定」については、このモデルのなかで内生化し、事業区間設定を含めた整備順序の最適解を導くこととしました。

動的道路事業評価モデルの定式化 (2)モデルの定式化 1)目的変数と制約条件

動的道路事業評価モデルの定式化(2)モデルの定式化 1)目的変数と制約条件

 

 続いてそれぞれのモデルです。まず目的変数と制約条件ということで、1番目の式が目的変数です。便益BからコストCを引いたB−Cの純便益を、評価期間である50年間積み上げます。その際、社会的割引率を加味し現在価値化するので、評価値としてはNPV(Net Present Value)と呼びます。

下の式は制約条件です。実務ではよくありますが、年度予算が決まっているとか、全ての市町村から救急病院に60分で行きたいといったアクセシビリティ目標などがあります。このようなことを制約条件にしながら、NPVの最大化を解きます。

 また、年度ごとに便益計算する構造となっているので、評価対象道路が供用するごとのネットワーク外部性が考慮されることになります。

動的道路事業評価モデルの定式化 (2)モデルの定式化 2)便益計測モデル

動的道路事業評価モデルの定式化(2)モデルの定式化 2)便益計測モデル

 

 次に便益計測モデルです。便益は発生交通量を対象にゾーンiごとに計算します。計算式は「発生交通量」×「道路整備が有り・無しの期待最小費用の差」となります。台形公式を使い簡略化していますが、先ほどの消費者余剰による便益計測になっています。

 期待最小費用は、ゾーンiのいろいろな目的地に行く費用の総額というイメージですが、i j間の一般化費用のログサムで計算します。

動的道路事業評価モデルの定式化 (2)モデルの定式化 3)交通需要予測モデル

動的道路事業評価モデルの定式化(2)モデルの定式化 3)交通需要予測モデル

 

 次に交通需要予測モデルです。発生交通量モデル、目的地分布モデル、配分交通量モデルで構成されます。先ほどと同じように一般化費用で結合する構造としています。一般化費用は道路整備に伴って減少するので、各モデルにおいて誘発交通を考慮できるという構造になっています。

 ここで一般化費用式ですが、従来、B/Cマニュアルなどでは、移動時間に時間価値を掛けて移動費用を計上していますが、本モデルではその従来式に、目的地側の情報として施設ポテンシャルの費用を導入しています。これが1つ工夫した点で、誘発交通をより明示的に計算できるようになっていると思います。

動的道路事業評価モデルの定式化 (2)モデルの定式化
〈参考:一般化費用の計算イメージ〉

動的道路事業評価モデルの定式化(2)モデルの定式化

 

 例示として、一般化費用の計算イメージを整理してみました。従来式では、所要時間に時間価値50円を掛けて高速代を足します。目的地1に行くのに一般化費用が1,000円です。目的地2は、同じく1,700円です。道路整備がされると所要時間が20分に短縮されるので一般化費用も下がりますが、従来式だと目的地1のほうがまだ安いので、なかなか転換を表現しづらいというところがあります。

 提案手法は、施設ポテンシャルの費用を入れていて、目的地1はスーパーマーケット、目的地2は大規模商業施設をイメージしています。施設ポテンシャルの費用は、魅力ある施設のほうが安く表現されるので、その費用をそれぞれ800円、500円とします。これで計算をすると、道路整備後に目的地2の一般化費用は目的地1よりも安くなり、転換が表現できるようになります。これまでなかなか遠方の商業施設へ行きやすくなる誘発交通量を計算できなかったのが、計算できるようになると考えています。

動的道路事業評価モデルの定式化 (2)モデルの定式化 4)事業費モデル 5)事業区間内生化

動的道路事業評価モデルの定式化(2)モデルの定式化 4)事業費モデル5)事業区間内生化

 

 次に事業費算定モデルです。プロジェクトの規模、事業費を説明変数として、投資期間が何年になるかを定式化しています。これによって、整備順序に応じて事業費を投入していくと、それぞれのプロジェクトが何年に供用するかが算出されます。

 事業区間の内生化方法ですが、事業区間は当初用意するプロジェクト単位を最小単位として、遺伝子の配合によって最小のプロジェクト単位を単独あるいは複数束ねて設定することで、モデルの中に取り込んでいます。

動的道路事業評価モデルの定式化 (3)解析方法

動的道路事業評価モデルの定式化(3)解析方法

 

 解析方法ですが、提案モデルは離散的組合せ最適化問題なので、遺伝的アルゴリズムを用いて最適解を解析しています。遺伝子設定のイメージですが、個体の遺伝子情報が整備順序を表しています。個体1の2番目の「道路5,10」というのは、5番と10番を同時に整備するということです。番号が離れていますが、設定上は隣接区間になっています。

 遺伝的アルゴリズムの配合のなかでこのような内生化をして、解析上は便益計算とコスト計算を順次行い、NPVを個体ごとに算出します。このNPVがもっとも高くなる個体をこの遺伝的アルゴリズムのなかで見つけ、最終的に得られるNPV最大の個体の遺伝子が、最適な整備順序になります。

 また、このようなデータを集計すると、空間的な速度分布もわかります。直感的には明らかですが、改札のあたりで速度が低下しています。また、改札通過後に上りホームの2番線に向かう人の速度は、他の場所に比べて速いことがわかります。朝のラッシュ時ですので、上りホームに向かう速度が速いことは自然ですが、実際にどの程度速いのかがわかります。

実ネットワークでの実証分析 (1)実証分析の概要

実ネットワークでの実証分析(1)実証分析概要

 

 提案モデルを用いて、いくつか数値解析を行いました。本日は、実際に道路整備された事業を対象に実証分析した結果を紹介いたします。

 対象地域は広島県地域で、平成17年度から26年度の10年間で実際に整備された高速道路などの4路線、22区間を対象に評価しました。

 用意したシナリオは3つです。シナリオ1は、実際の整備順序に従って総純便益(NPV)を計算した場合です。シナリオ2は提案モデルを適用し、最適な整備順序およびNPVを算出した場合です。シナリオ3は、シナリオ2に誘発交通量(買物交通のみ)を考慮した場合です。

実ネットワークでの実証分析 (2)評価対象道路事業

実ネットワークでの実証分析(2)評価対象道路事業

 

 こちらが評価対象道路事業です。4路線、22区間で、赤色の路線になります。広島県から島根県を横断する中国横断自動車道尾道松江線や、広島大学がある東広島から呉に向かう東広島呉道路など、総延長165km、総事業費約8,200億円もの事業が、この10年間で供用されています。これらを対象に分析しました。

実ネットワークでの実証分析 (3)実証分析結果(整備順序の比較)

実ネットワークでの実証分析(3)実証分析結果(整備順序の比較)

 

 こちらが分析結果の一つで、整備順序を比較しています。シナリオ1は実際の整備順序で、実際の供用年になっています。それに対して、シナリオ2・3が提案モデルの結果ですが、少し順序結果は違います。

 表の赤い部分が、シナリオ間で供用年が2年以上開いているところを示しています。特に東広島呉道路で順序が変わっています。右図が東広島呉道路の拡大地図です。実際の整備は山陽道から延伸して、呉を整備して、その間の黒瀬という地区を整備するという順序だったのですが、提案モデルで解くと、呉地区、黒瀬地区、最後に山陽道と接続という混雑地区からの整備となっており、地域の混雑状況や利用交通量、ネットワーク状況を踏まえた整備順序結果が得られたと言えます。

実ネットワークでの実証分析 (3)実証分析結果

実ネットワークでの実証分析(3)実証分析結果

 

 続いて、この整備順序による年便益の推移を比較しました。シナリオ1が実際の整備順序で、シナリオ2・3が提案モデルによるものです。年便益の推移としては、提案したモデルのほうが上位で推移しており、特に平成19年から27年の間は便益差が大きくなっています。

 総純便益としてNPVを比較したのが右のグラフです。提案モデルのほうが6〜7年早く累積純便益がプラスに転じています。B/Cで見ても、シナリオ1では1.05ですが、シナリオ2・3は1.13・1.15とシナリオ1よりも高くなっています。提案モデルを適用すると便益の高い整備順序が得られており、モデルの有効性が示されたと思います。

本研究の成果と今後の課題

本研究と成果と今後の課題

 

 最後に本研究の成果と今後の課題です。本研究の成果としては、実ネットワークへの実証分析等を通じて、提案した動的な道路事業評価手法が有効であることが示されました。

 今後は実務においても、いろいろな場面で適用できると考えています。たとえば県・市レベルの自治体における道路ネットワーク計画や道路整備計画、または市レベルの都市計画道路の見直し、あるいは個別事業の整備効果・事業評価での誘発交通を考慮した便益計算などが考えられます。

 今後の課題としては2つ示しています。1つは誘発交通予測モデルの拡張です。学位論文では買物交通だけの誘発を考慮したのですが、他の目的も考慮する必要があり、その拡張の際には、説明要因設定の適切性とパラメータの時空間的安定性の検証が重要となります。

 もう1つが人口フレームの考慮です。学位論文では初期の人口設定を固定していましたが、全国的に将来人口が減少していく中では、やはり人口フレームが考慮できるモデルに展開する必要があると考えています。

 実務において、このような計画・検討ができるよう頑張っていきたいと思っております。本日はありがとうございました。

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