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米谷・佐佐木基金

受賞者(研究部門)の挨拶

藤井 聡氏

藤井 聡
東京工業大学大学院理工学研究科土木工学専攻 教授

【 研究題目 】
(これまでの研究成果と現在取り組んでいる研究)

  東京工業大学の藤井でございます。本日は米谷・佐佐木賞を授与いただきまして誠にありがとうございます。これまでどういう研究をしてきて、これからどういう研究を考えるのかというところを、簡単にご紹介したいと思います。

これまでの研究成果

これまでの研究成果1

 

これまでの研究成果2

 

 

 これまでの研究成果ですが、学部並びに修士のころに取り組んでおりましたのが動的な交通流シミュレータの開発で需要予測の研究です。交通流のシミュレーションではOD表を与件として入力しますが、このOD表も施策の影響を受けるだろうということで、学位論文のときに、個人の生活行動を考慮するようなかたちでOD交通量を算定するシミュレーション・モデルの開発に従事いたしました。

 いわゆるネットワークの形状ですとか料金施策ですとか、そういうものを変更したときに、最終的にどのように需要が変わって、どのように世の中がよくなっていくのかということを把握するための評価ツールです。

 学位論文のあと少し留学をさせていただく機会を頂戴して、スウェーデンのイエテボリ大学の心理学科で心理学を勉強して参りました。それから、心理学を交通計画にどう適用できるのかなといろいろ考えまして、需要を変容するような、コミュニケーションを通じて人々の行動を変えてもらうような施策を展開することで問題を解消するというようなアプローチの基礎研究を始めました。

 この基礎研究を始める傍ら、コンサルタントのみなさん、あるいは行政のみなさんと議論させていただきながら、これをどのように現実の都市で適用していくかという研究、実務支援を行いました。

 並びに、このころから東京に籍を移しまして、国土交通省のみなさま方、コンサルタントのみなさま方と、「行動変容についての心理実験の実施」、「現実の諸都市における行動変容施策の実施支援」を行政支援するような制度の設計について、少しずつ議論させていただきました。これがこれまでの研究成果であります。

 このようにお話ししますと、学位論文の前後で大きな断層があるとお感じになるかもしれません。しかしながらあらためて振り返って考えてみますと、これは実は同じことをやっていたのかなと思いました。

 社会的厚生(社会の幸せ)は、一人ひとりの効用(満足度)の関数になっている、すなわちSW = f [ Ui (ai, Xi) ]で表現できるとします。SW は社会的厚生、Uは効用関数で、fというのが社会的厚生の関数welfare functionです。

 一人ひとりの満足度は、Xiとaiの二つの要因で決まっています。Xiというのは、個人iの環境変数で、所要時間とか料金とか、どこに住んでいるかとか、いろいろな制度とかシステムできまってきます。

 ところが同じ環境のなかでも、それで幸せになる人もいれば不幸になる人もいる。その人間の心理というものを、あえてパラメータというかたちで数理的に記述するとaiというものになります。

 このfとかUとかXが同定できるかどうかというところは問題ではありますが、概念的にはこのようになっていると思います。

 学位論文までは、このX(人の環境変数)を調整することを通じて社会的厚生を上げていこうと考えていたわけですが、これではなかなか山を全部登り切れないところがあって、a(人の心理)にまで手を付けてしまえというのが、行動変容とか心理的方略というものだったのかなと思います。学位論文のころまではXのほうの研究に従事し、学位論文を書かせていただいてからaについての研究をやってきたと整理できると思います。

現在取り組んでいる研究

現在取り組んでいる研究

 

 現在取り組んでいる内容でございますが、タイトルは「地域活力増進を通した都市地域社会改善」。この都市地域社会改善というのは、ようするに社会的厚生SWを上げたいということで、この改善に関する社会的都市交通施策です。

 いくつか記載しましたが、現在取り組んでいるのは、いま申し上げたようなaを変える仕事です。放置駐輪の問題とかカーシェアリングの普及とか、居住地選択などでaを変えますと、まちがどんどんコンパクトになっていく。買い物場所選択の意識の変容を導くと、まちが活性化していく。リスク・コミュニケーションすると、人々がどんどん安全になっていく。さらに景観の改善に関しても、景観に関わるパラメータaというものがもし変われば、景観のwelfareというものがどんどん上がっていくと思われます。

 じつはいま申し上げたSWを上げるにあたって、これまでUiというものをベースに考えていたわけですが、どうやらこのa、一人ひとりの心というのは、一人ひとり独立であるというよりは、村だったら村全体に共通する共通無意識のようなもの、まちにはまち全体のある種の共通無意識のようなものがある。この共通無意識をどう捉えたらいいかはまだわからないんですが、いわゆるまちの活力というのは何かそういうものじゃないかなという感触があります。

 従って、これまでの心理学のような、一人ひとりの人間を取り扱うアプローチではなくて、地域全体を取り扱う社会学とか、場合によっては民族学を通じて取り組んでいるわけですが、人間の意識の背後にある、何か得体の知れない「まちの活力」なるものを視野に収めるような研究ができたらいいなということを夢想しているところでございます。

 授与いただきました米谷・佐佐木賞という栄誉に応えられるような仕事ができるのかどうか、非常に心許ないところではありますが、今後ともぜひご指導、ご鞭撻いただきまして、いろいろな仕事をさせていただけたら非常にありがたいと思っているところでございます。

 本日は本当にどうもありがとうございました。

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