人と地域にあたたかい社会システムを求めて


ホーム>公益事業情報>米谷・佐佐木基金>過去の授賞式>第3回米谷・佐佐木基金>研究報告講演

公益事業情報

米谷・佐佐木基金

研究報告講演

宇野 伸宏氏

宇野 伸宏
京都大学大学院経営管理研究部 准教授

【 研究題目 】
画像データを用いた交通コンフリクトシミュレーションの構築と交通流の安全性評価に関する研究

 京都大学の宇野でございます。本日は研究成果を報告する機会をいただきまして、本当に感謝しております。去年思っていたことの100%ができたわけではありませんが、現段階における成果についてご報告して、ご意見、ご示唆をたまわりたいと思っておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。

1.研究の目的
研究の目的

 まず研究の目的でございますが、画像観測技術に着目して、交通流の効率性・安全性の阻害要因に関する分析を進めること、それから、錯綜部の交通流動を評価可能なミクロシミュレーション構築のための車両挙動の分析・モデル化を試みること、この2点について研究してまいりました。なぜ画像観測かと申しますと、限られた区間ではありますけども、車両間の相互作用を定量的データとして入手できること、また定量的なデータと実際の渋滞とか事故という現象との対応付けができる、これが大きな特徴かと考えております。

2.ケーススタディ区間の概要

分析対象区間

 次にケーススタディ区間の概要について少しお話ししたいと思います。今回は阪神高速道路守口線・環状線の合流部を対象に計測しました。このいわゆる守環合流部と呼ばれるところは1日あたり8時間以上も渋滞(2204年12月)し、かつなぜか守口線の方だけが非常に渋滞をするという箇所でございます。環状線の守口線への分流部から合流部の直下流のあたり、この範囲を対象として沿線の2箇所のビルから11台のデジタルビデオカメラ等を設置して約800mの区間について撮影を行いました。

3.合流部の混雑発生に関する分析

画像データからの車輌軌跡抽出例

 

交通流指標の算出

 撮影データから抽出できた車両軌跡の例を図示しておりますけども、この軌跡を用いて、Edieが提案した方法、いわゆる時空間で一つの平面を作って、その中に入ってくる車両の長さとか存在時間を用いて、交通量、密度、速度を算出しました。今回の計測では、空間は1.0m、時間は30秒単位で1つの平面(エリア)を設定してございます。

時空間遷移図/空間平均速度

■空間平均速度の時空間遷移
 図の左側が守口線側、右側が環状線側で、画面の手前から奥、Y座標の数字の小さい方から大きい方に向かって交通は流れているとご覧いただければと思います。寒色系の方が速度は速く、暖色系の方にくると速度は落ちるという形になっています。守口線、環状線は、減速特性はほぼ一緒で、合流直後においてはほぼ類似していますが、速度低下の延伸が環状線側はあるところで止まってしまう傾向があるのに対し、守口線側は上流にまで延伸していくという差異があります。

時空間遷移図/交通流率

 

時空間遷移図/空間平均速度

■交通流率の時空間遷移
 それを交通流率(ある地点を単位時間内に通過した車両数)で評価しますと、寒色系の方が多くて暖色系の方が少ない、いわゆる混雑に近い状態になっていますが、守口線側につきましては速度の低下とほぼ対応する形で交通流率も低下してしまう。それに対して環状線側につきましては、速度の低下に応じて交通流率も落ちますが、それよりも上流側にいきますと交通流率の低下はそれほどみられません。

■交通密度の時空間遷移
 なぜこんなことが起きているのかを考えるために密度を見てまいりますと、ちょうど交通流率の低下を防ぐことができている箇所付近では、環状線側の密度が高まっている、要はより詰まった状態で交通が流れたことによって下流側からの混雑の伝播がそこで食い止められている様に見受けられます。逆に守口線側は密度の変化がなくそのため混雑は上流側に伝播していくような傾向がみえてきます。

守環合流部の混雑発生想定メカニズム

■守環合流部の混雑発生メカニズム
 話しを少しまとめますと、まず下流側で渋滞のきっかけが起きて減速が上流側に伝播してくる、上流部に到達するときに、守口線側では(利用交通のODによるところもあるんですが)不効率な車線利用が起きているために交通密度はそれほど高まらず、速度だけが落ちて交通流率が減少する、そしてさらに守口線からの流入がより困難になる、こういう循環によって渋滞が徐々に上流側に伝播していく。環状線側につきましては、ちょうど合流部のところで密度は高まりますが減速が上流側に伝播することはなくそのまま流れが維持されるという形状になっています。

4.合流部に対するコンフリクト分析

コンフリクト状況の空間変化/急ブレーキ検出率

 概ね合流直後、それに付随して車線変更が頻発しているので、それを安全性の観点から評価するとどうなるのかについて少し見てまいりたいと思います。ここでは事故の代理指標として交通コンフリクト(「適切な回避動作が行われた結果事故を回避できたもの(ニアアクシデント)」)を導入し、その分析をしております。

■急ブレーキ検出率による評価
 はじめに2通りの指標をお見せしたいと思います。一つは急ブレーキ検出率、ここでは1.9m/sec2という減速度を超えたものがそれぞれのエリアにどれだけの割合含まれているのかを計測しております。急減速は主に合流直後の第4車線第5車線のあたりに非常に多くでてきている。これは軌跡データでいきますと、多くの車線変更が合流直後の環状線の内側で観測されている、それと非常によく対応しています。

コンフリクト状況の空間変化/PICUD負値検出率

■PICUD負値検出率による評価
 それからもう一つPICUD(Possibility Index for Collision with Urgent Deceleration:潜在的な衝突危険性指標)、これはブレーキを前の車両が踏んだらその時後の車が止まれるか止まれないかという指標でございますが、PICUD値がマイナスのものの比率を同じくこの空間の中で評価してやりますと、一般に第5車線で高い、あるいは合流直前の環状線側の上流部で高いという傾向がでております。これは先ほどの合流のときに、多くの車両が第2車線から第3車線の方へ入ってくる、守口線の車両がこのあたりで攻撃的な車線変更をしてくることと符合していると考えられます。

5.シミュレーション構築に向けた車両挙動分析

本テーマでの車線および区間の定義

 

追従車輌の定義

 現状のミクロシミュレーションでは錯綜部の挙動までは表現できないという問題がございます。シミュレーションを構築するうえで必要な要素である追従、合流、車線変更のうち、追従については少し成果がでてきましたのでご紹介したいと思います。

■分析対象区間及び追従の定義
 分析対象区間としましては、上流域までを含む全区間についてデータ観測をしております。追従車両につきましては、前の車両と後続車両の車尾・車尾の時間が3秒以内の車両を追従と定義して、2つのデータセットを用意ました。最上流から最下流までを連続して追従したペアを集めたものをデータセット1、サンプル数は520となっております。もう一つのデータセット2は、600mの区間を200mずつ、直線部、カーブ区間、それから合流部を含む区間の3つに分割して、連続追従時間が8秒以上のものを対象としました。

パラメータ推定した追従モデル

 

道路区間と推定パラメータ

■パラメータ推定した追従モデル
 追従モデルとしては、シミュレーション等に現在もよく使われているGMモデルを採用してパラメータ推定をしております。このモデルは基本的に、相対速度を刺激としてその反応として加速度がでてくというタイプのモデルになっています。

■区間の違いによる、感度パラメータαと時間遅れパラメータTの比較

 (l,m)=(0,0)という一番単純な形でのGMモデルについて、感度パラメータであるαと時間遅れTを推定した結果を示しています。感度のパラメータαについては、カーブ区間(区間2)と合流部(区間3)と比べると、直線部(区間1)のαの値が小さめに推定されている。逆に言えば、カーブとか合流部においては、相対速度に対する感度が高まる傾向にあることがみてとれます。次に反応遅れTの累積分布をみると、直線部(区間1)が一番大きい、すなわち直線部を走行しているときの反応遅れは他の区間に比べ相対的に大きくなる。要はカーブですとか合流部というような運転上いろいろな操作がある、あるいは他車の影響をみなければならない区間では、追従のパラメータもより反応時間が短くなおかつ感度が高いという推定結果が得られました。

6.合流する2車両の相対関係

合流する2車両の相対関係

 

合流部手前での相対関係

 

 車線が減少する部分における挙動を表現する試みの一つとして、合流する車両を、縦軸に車同士の相対位置、横軸に相対速度をとって整理してみました。縦軸の右側は環状線側の相対速度が大きい、左側は守口線側の相対速度が大きい、それから横軸で上と下に割りますと、上は環状線側の車両が前方、下は守口線の車両が前方という関係がございます。一番右上の象限(赤のエリア)は環状線側の車両が前方でかつ速度が相対的に大きいので、このエリア内のプロットについては環状線側が前に行くという関係がほぼ定められていることになります。同様に一番左下の象限(青のエリア)については守口線側が前に出るという順序関係がおおよそ決まってきているわけです。

 問題は左上、右下の2つの象限(エリア)で、左上は環状線側の車両が速いけども位置的には守口線の車両が前にでている、右下は守口線の方が速いけども環状線側の方が前にでているという状態になっています。合流部の手前140mにおけるプロットから、この2つの象限では、ほぼ同じ相対関係にもかかわらず合流結果は異なる車両が混在していることがみとれます。

 このプロットを先ほどの合流部で時空間的に書いてやりますと、渦巻きを描いて最終的にはそれぞれに有意な範囲に落ち着こうとするわけですけども、まずこのプロセスをどう記述するかが現在の課題です。今後は、合流におけるギャップの選択あるいは順序関係の決定とその時の速度調整について研究を進めていきたいと考えております。

 昨年賞を頂戴しましてから、画像データを使った現象分析あるいは安全性評価、それから追従理論を主に対象にしましたけれどもどこまで現実問題を表現できるのか、具体的にはシミュレーションの改良についても考えてまいりました。1年間の研究成果ということでお話しさせていただきましたが、残りました課題等につきましては、今後学会等の機会におきまして報告させていただければと考えております。どうもありがとうございました。

 

 

  • 公益事業情報TOP
  • 米谷・佐佐木基金TOP
  • 選考結果
  • 過去の受賞式
関連リンク

情報化月間はこちら


ページの先頭へ