人と地域にあたたかい社会システムを求めて


ホーム>公益事業情報>米谷・佐佐木基金>過去の授賞式>第3回米谷・佐佐木基金> 受賞者(学位論文部門)の挨拶と受賞講演

公益事業情報

米谷・佐佐木基金

受賞者(学位論文部門)の挨拶と受賞講演

円山 琢也氏

円山 琢也
日本学術振興会海外特別研究員 テキサス大学オースティン校客員研究員

【 研究題目 】
ネットワーク均衡モデルを応用した都市圏レベルの交通政策分析

 円山琢也と申します。この度は米谷・佐佐木賞学位論文部門をいただき大変光栄に思っております。現在、私は、アメリカのテキサス大学オースティン校というところで、日本学術振興会から、海外特別研究員としての支援をいただきながら、客員研究員として、武者修行をしております。はためからは、かっこよい肩書きに見えるかもしれませんが、中身は、任期付のポスドクということで、実際のところ、精神的にも、経済的にも苦労しながら生活をしております。そんな折に、いただいたこの賞は、私自身、大変励みになり、とてもありがたく感じております。

 それでは、まず始めに学位論文の内容を簡単にご紹介したいと思います。

1.ネットワーク均衡モデルを応用した都市圏レベルの交通政策分析

背景・目的・貢献

(1) 背景・目的・貢献
 交通需要予測として昔から使われてきた四段階推定法には、行動論的基盤がない、段階間でサービスレベル変数が整合していない、誘発交通を考えることができない、等々の問題点があることは古くから言われてきました。このような問題点を解決するモデルとしてネットワーク均衡モデルが提案されていますが、その実証的な分析は必ずしも十分には行われていませんでした。本研究は、ネットワーク均衡モデルの実用化と、そのモデルの特徴を生かした政策分析を行うことを目的としています。

 研究の貢献としては、最適ロードプライシングあるいは最適職住配置を問題の対象にしてネットワーク均衡モデルの理論的拡張を行ったこと、さらに実際の大都市圏においてモデルの実用化を試みて実証的な貢献をしていることが、一つの特徴と言えるのではないかと思います。さらにモデルを用いた政策分析では、誘発交通を考慮した道路整備投資の評価であるとか、ロードプライシングの所得逆進性の問題点等々について検討を行っています。

学位論文の構成

(2) 学位論文の構成
 論文の構成は図のようなフローになっております。2章では既存の研究のレビューとその整理を行い、3章では本研究の基礎となるモデルを作りまして、それ以降の章ではそのモデルを用いた政策分析を行っています。4章、6章は主に実証分析で、5章、7章は理論的な拡張となっています。中身は、「誘発交通を考慮した混雑地域における道路整備の利用者便益推定」、「最適混雑料金理論の一般化」、「ロードプライシングの所得逆進性とその緩和策」、あるいは「混雑を考慮した最適職住配置」がございます。

 以上が簡単にまとめた(簡単すぎるかもしれませんが)学位論文の内容ですが、本日はせっかくの機会ですので学位論文後の研究成果を少しご報告して、アピールをしたいと思います。

2.学位論文後の研究成果

コードン課金とエリア課金の違い(1)

 

コードン課金とエリア課金の違い(2)

2.1 ロードプライシング政策の比較分析 −コードン課金 vs エリア課金−

 ロードプライシング政策としては、コードン課金とエリア課金の二つが代表的な施策ですが、コードン課金についてはいろんな研究がなされているのに対し、エリア課金を厳密に評価した研究は今までにはありませんでした。そこでエリア課金を厳密に評価するための新しいモデルを構築し、それを実際の都市圏に適用してこの二つの課金の特性について比較検討しました。

(1) コードン課金とエリア課金の違い
 コードン課金は車両が課金区域に流入するたびに課金するのに対し、エリア課金は一日単位で車両に課金するシステムです。したがって、図の例では、コードン課金では2つのトリップのみに対して課金がされますが、エリア課金では4つのトリップ全てに対して課金がされるということになります。

 もう一つの図のように、複雑な移動をする場合ですと、コードン課金の場合では3回課金されますが、エリア課金の場合では一旦課金がされた後には課金されないというような違いがあります。コードン課金の場合には3回も課金されてしまいますので、例えば図の最後のトリップについては課金を避けるために経路変更をするといった行動変化が起きますが、エリア課金の場合ではそういったことは起きない、といった違いがあります。

モデリング上の問題点と解決策

(2) モデリング上の問題点と解決策
 モデル構築という観点からみると、コードン課金は流入するたびに課金されるので、既存のモデルで、課金区域に流入するリンクに課金に相当する課金抵抗を付加すれば表現することができます。

 一方、エリア課金では、利用者は1日単位で課金を支払う/支払わない の選択を行って、一旦支払った後では自由に走行が可能という関係になりますので、課金抵抗をリンク単位で表現するのはなかなか難しいことになります。これについて,いろいろ考えた結果、1日単位のトリップ・チェインの概念を利用すれば、エリア課金についても、利用者は1日のトリップ・チェインあたり最大1回支払うというように整理できるということがわかりました。トリップ・チェイン型のネットワーク均衡の拡張モデルというものを新しく考えると、コードン課金はリンク加法型のトリップ・チェイン・コスト、エリア課金はリンク非加法型のトリップ・チェイン・コストで表現することができます。

コードン課金とエリア課金の比較

(3) コードン課金とエリア課金の比較 (沖縄ネットワーク)
 この新しいモデルを使って実際の都市圏を対象にコードン課金とエリア課金について、2つの指標で比較してみました。一つめの指標は社会的余剰で、社会全体の望ましさを数値化したものと理解していただければよいかと思います。図の横軸が課金レベルですので、コードン課金では250円ぐらい、エリア課金では、500円ぐらいを課金した場合に社会的余剰が最大となりますので、最適コードン課金は250円、最適エリア課金は500円であることがわかります。さらに興味深いことに、最適課金をした場合の社会的余剰は2つの課金システムでほぼ等しくなっています。

 左のグラフは課金収入を比較したものですが、最適課金時の課金収入を比較しますと、最適エリア課金時の課金収入は、最適コードン課金時の課金収入の約1.6倍になっているということがわかりました。

(4) エリア課金とコードン課金の特性差
まとめますと、
1) 最適料金レベルはエリア課金の方がコードン課金よりも高い
2) 最適課金をした場合の社会的余剰は二つの課金システムでほぼ等しい
3) 課金収入でみると最適コードン課金の方が最適エリア課金よりも少ないので、コードン課金の方が利用者にやさしいシステムであると解釈できる
4) 社会的余剰関数の形状が、コードン課金の方がよりとがった凸型となっているので、コードン課金の方より料金レベルに敏感である。言い換えるとより慎重な料金設定が必要である
5)課金区域を拡大すると最適課金レベルは上昇する(宇都宮都市圏への適用より)
ということがわかりました。

交通投資の利用者便益評価

2.2 交通需要のレベル別便益指標の一致性

(1) 交通投資の利用者便益評価
 学位論文後の成果として2つ目は、交通投資の利用者便益評価の話です。どのテキストブックにも書いてありますように、交通投資の利用者便益は、需要を横軸にとって縦軸に費用をとった場合には、図の赤くハッチしてある台形部分の面積で表現されます。しかしながらこの基礎的なダイアグラムにおいて、需要というのはどの集計レベルの需要を使うべきか、具体的には、リンク交通量なのか、経路交通量なのか、OD交通量なのか、費用についても同じですね、リンク費用なのか、OD費用なのかといったとことが、明確にされていませんでした。少し前になりますが、経済学の研究者と工学系の研究者との間で、リンク単位で計測するべきか、あるいはOD単位で計測するべきか ということに関して学術的な論争もございました 。

交通需要のレベル別便益指標の一致性

 

2つの便益指標

(2) 2つの便益指標
 まず、学位論文で四段階推定法の代替案として作成した4レベル・ネステッド・ロジット(Nested Logit)モデルで考えてみました。このモデルは、トリップ発生量からOD表、経路交通量、リンク交通量にいたるまで階層的に需要構造を表現したものでございまして、下位レベルの交通費用がログサム変数の式で上位レベルの需要に影響を与えるという構造になっています。

 こういった構造を考えるとそれぞれの交通需要に応じて便益指標が定義できます。トリップ発生レベルの便益指標は一番上の式、ODレベルの便益指標は中ほどの式、リンクレベルの交通量の便益指標は一番下の式というように表現できます。そして、便益指標を積分で表現した場合には、実はこの全ての式は等しい、数学的には等価であることを、まず厳密に証明いたしました。一方、実際にこの便益指標を計算する場合には、台形公式を用いて積分を直線近似して求めることになりますが、台形公式で便益を定義した場合には、交通需要のレベル別便益指標は一般には一致しないということも示しました。

 まとめますと、交通需要のレベル別の便益指標は、もし厳密に積分値で考えるのであればどのレベルでも一致することを理論的に証明しました。これは言われてみればあたりまえのことですけれども、今までこれを明示的に考えた研究はありませんでした。今回はネスティッド・ロジットモデルの場合をご説明しましたが、任意のランダム効用モデル、ワードロップモデルのような完全代替モデル、ODレベルの需要関数を考えたモデルでも成立することも網羅的に数学的に証明しています。また積分値では一致するけれども、台形公式を使って計算した場合には、レベル別の便益指標は一般には一致しないことも示したというわけです。

 この点については実際に大規模ネットワーク上でも実証的に確認しましたが、その確認過程でわかったことは、リンク/経路レベルで便益を評価する場合は、一般的に積分の近似誤差が大きくなる傾向があるということです。したがって実際に便益評価を行う場合には、リンク/経路レベルではなくてODレベルで便益を定義するのが望ましいということを示しまた。したがって、この研究成果によって、私なりに先ほど述べた学術的な論争に対して明確な答えを出せたのではないかと考えております。

 以上、学位論文の内容とその後に行った研究成果の報告を簡単にいたしました。今後もこの賞をいただいたことを励みにして、独立した研究者として攻めの姿勢を失わずにがんばっていきたいと思います。今後とも皆様からのご指導のほどをよろしくお願い申し上げたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

  • 公益事業情報TOP
  • 米谷・佐佐木基金TOP
  • 選考結果
  • 過去の受賞式
関連リンク

情報化月間はこちら


ページの先頭へ