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公益事業情報

米谷・佐佐木基金

受賞者(学位論文部門)の挨拶と受賞講演

倉内 文孝氏

倉内 文孝
京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻 助手

【 研究題目 】
駐車場管理システム高度化による駐車行動の変化と道路網交通流への影響効果に関する研究

 京都大学の倉内でございます。本日、米谷・佐佐木賞をいただきまして、たいへん光栄に思っております。ありがとうございました。佐佐木先生が退官された年に助手に採用されまして、京都大学では米谷先生にも佐佐木先生にもお話しさせていただくような機会はほとんどありませんでしたが、祝賀会等々でいろいろとお話を伺うことができて非常にありがたかったと感じております。では、「交通システムにおける情報提供・予約制の効果と期待」ということで、少しだけお話しさせていただきます。

1.交通システムの非効率性と情報提供の役割
交通システムに関する非効率性

利用者への交通情報提供の役割

 交通工学の研究者の使命は、需要側の変動によって起こりうる渋滞、あるいは事故といったものにどのように対処するかということになるかと思いますが、交通需要は基本的に間違いなく変動します。

 最大需要に合わせて交通施設を作るというわけにはまいりません(合理性がない)ので、ある時間帯、あるいはある場所では必ずなんらかの混雑が発生してしまう。逆に、たとえば夜中の道路のように、過剰な供給サービスとなるような時間帯もあることになります。

 そこでまず、利用者への情報提供の役割を考えてみました。需給のアンバランスが生じる理由の一つは、利用者のもっている知識の不確実性にあります。自分が早いと思っているところに皆の車が集中して、結果的にそこに混雑が生じるということは非常に多い。そう考えると、情報には、利用者にとっての不確実性、あるいは誤った知識を是正する効果があります。

 注意すべき点は、情報を参照して行ったり来たりするような人が増えれば増えるほど、逆に不確実性が増加するのではないかという点です。情報によって人がどう動くかよくわからないということは、供給システムの側から見ればより不確実性が増加してしまうことになるのではないかと思います。

2.交通システムの予約制と駐車場問題の緩和
交通システムにおける予約制

学位論文での分析内容

 そう見ますと、需要が事前にわかれば供給システムはより安定したサービスを行うことができる。さらに、そういう人が増えれば増えるほど、不確実性の幅が減るわけですから、提供するサービスの不確実性は減少するだろうと考えられます。それで着目したのが、交通システムの予約制です。

 たとえば、航空券の場合には固定費が巨大で変動費が小さいという理由により予約制が成立していますし、デマンド・バスは少量で不確定すぎる需要に対して、バスが何台かしかないというところでバスをうまく回すための手段として、予約という手段がとられています。

 私自身が着目したのは、駐車場の予約制です。空港の駐車場は、たとえば飛行機に乗れなくなってしまうというような、遅れの影響が非常に大きなケースとして成立している。あるいはイベント時の臨時駐車場は需要過多のケースと理解できます。学位論文では、"情報提供"と"予約"の二つを柱にして、それらのITを使った高度化によって駐車問題が緩和できないかということを検討しました。

 駐車場案内(PGI)システムというのは、満空情報を出して、より空いている駐車場に誘導するようなシステム、PRシステム(パーキング・リザベーション・システム)は、追加料金を支払う代わりに駐車スペースを予約するシステムです。都市内駐車場においてこの二つのシステムがあるとき、利用者は待ち時間やその他の情報によってどのような選択をするかということについて、アンケート調査および屋内の選択実験等を用いて駐車行動を捉えた結果を少し報告させていただきます。

3.情報提供の効果
利用者行動の経時的変化

 たとえば情報提供に関しましては、案内システムの導入によって利用時の選択性が高まる、少し賢くなるといいますか"時間遅れ効果"が得られることが確認できました。その根拠が右の図で、左手の縦軸は徒歩距離です。これは同一個人について三つの時点で比較したものですが、利用した駐車場から目的地までの距離はどんどん延びています。あるいは、知っている駐車場、利用経験がある駐車場、同じ目的地でも利用可能な駐車場がどうなったかを同様に三時点で見ると、すべての指標において増加をしているというところからも、駐車場情報がポジティブな効果を与えることが確認できました。

4.情報利用率の増加と情報提供効果の逓減
情報利用率と所要時間の関係

 さらに2点目ですが、情報利用率が増加すると、情報提供効果は逓減するということです。先ほど申し上げたように、みんなが同じ方向に行くと、かえって悪くなるような可能性があることが、シミュレーションの分析から明らかになりました。

 右図は、横軸に情報の利用率を、縦軸にその目的地までの所要時間の平均の値を示したものです。実線は駐車需要が2,000台のケース、破線は駐車需要が3,000台のケースです。まず実線の下のほうを見ていただきますと、だいたい情報利用率が0.25から0.5ぐらいで最適というか一番効果的に機能しています。情報利用率が1になるとかえって情報利用率0のケースより所要時間が大きくなってしまう。特に緑色の実線の満空情報では大きくなってしまうということがわかりました。

 それに対して赤色の実線を見ていただくと、待ち時間情報というより高度な情報まで見せることで、たとえば2,000台につきましては、全員が情報を利用したとしても、情報がないケースよりは効果的であるという結論を得ています。

5.予約システムの効果
駐車場予約制導入効果に関する知見

予約駐車場位置と目的地までの所要時間

 すべての駐車場が満車になっている状態では、いくら情報提供をしても効果はありません。そこで、予約ができるのであれば駐車場を確保できるし、そうでなければ時と場合によっては時間帯、いわゆる時間的に需要をシフトできるということで、予約制の導入効果に関して検討を加えました。

 その結果、予約駐車場は、到着時刻に制約がある、周辺の予約制でない駐車場が混雑している、あるいは業務目的で動いている、そういったときに特に効果的であるという知見を得ています。

 さらに、適切に駐車場の位置を計画することによって駐車場予約制は機能しうるということで示しているのが右の図です。D0は予約駐車場なし、D1は予約 駐車場1個が都心の端にある、D2は都心中心部に予約駐車場1個、D3は中心部の予約駐車場を3個に増やしたケースです。目的地までの平均旅行時間で評価したところ、都心部にうまく予約駐車場を整備すれば、予約の駐車場を使っている人はもちろん、全体の平均あるいは一般駐車場を使っている人も時間短縮効果があるということが明らかになりました。

6.今後の展開
今後の展開

 今後はIT技術を公共交通に展開することを研究していきたいと考えております。すなわち、情報提供の効果や予約型の公共交通、デマンド応答型公共交通システムがうまくいくのではないかということで、こちらの研究を少しさせていただいています。なお、予約行動というのは、柔軟性と確実性のトレードオフになるのですが、その関係についてはまだまだ明らかになっておりません。今後このような予約型交通システム導入下の交通行動の解明につきましても頑張っていきたいと思っております。

 最後になりましたが、この学位論文をまとめるにあたっては、飯田先生からいろいろとご助言、ご指導をいただいたのをはじめ、多くの方々に助けていただきま した。また、米谷・佐佐木賞をいただいて、もっとちゃんとやらんといかんなと考えておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。今日はどうも ありがとうございました。

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