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米谷・佐佐木基金
受賞者(研究部門)の挨拶
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山本 俊行 【 研究題目 】 ご紹介、どうも有難うございます。この度は、名誉ある米谷・佐佐木賞を授与していただき、誠にありがとうございます。本日は、私のこれまでの研究と現在、取り組んでいる研究内容について、簡単にご紹介させていただきたいと思います。 |
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はじめに
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まず、このスライドをご覧下さい。昔、アタック25というテレビ番組がありました。それは4人の回答者がオセロのようなクイズを行い、パネルと取り合うというゲームです。最終的に一番多いパネルを取った人が勝利するという番組でしたが、勝利すると、さらに自分の取ったパネルの部分だけに歴史上の人物などの映像が流れ、その人物などの名前を当てるというものでした。 オセロのゲームで考えると、角のパネルを取るのが定石ですが、最後にパネルの向こうにある人物の名前を当てるのであれば、真ん中のパネルを押さえるのがいいと言うことになります。 つまり、欲しい情報を得ようとすると取り方が難しいということになります。 |
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これまでの研究
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さて、これまで、私が主にやってきました研究についてご紹介させていただきたいと思います。私は、全体を見ることができない交通の状況などを、部分的なデータから全体の様子(母集団)を推定するという統計解析の研究を行っています。 |
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持続可能な交通の実現に向けた世帯の自動車保有の分析
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ここでは、一例として「自動車の買い換え行動」を例にとってお話しします。 「自動車の買い換え行動」は、その車を保有している世帯の状況により様々ですが、例えば、「世帯A」の人はすぐに買い換える、「世帯B」の人は途中で1台増やし2台所有する、「世帯C」の人は途中で車を手放すというようなパターンを例示しています。 |
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![]() | しかし、一般的に「買い換え行動」の時間軸は非常に長期間に渡るため、全体の観測を終えた上で、その行動パターンを推定することは現実的ではありません。ですので、実際は、限られた観測期間内で得られたデータから「買い換え行動」を推計する必要性が出てきます。 例えば、よく買い換える人の場合は、この観測期間の中に「買い換え行動」を観測することができるわけですが、なかなか買い換えをしない人の場合は、観測期間中にその行動データが得られないことになります。そうなると、得られたデータだけでその行動パターンを推計しようとすると推計された結果に偏りが出てくるわけです。 このような場合、医学の分野とか機械工学の分野で行われている故障を分析する手法がありますので、それを「買い換え行動」の分析に応用することができます。 |
どの世帯が自動車を買い換えるのか?
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例えば、3つの家族を想定してください。(1)夫婦2人のカップル、(2)最近子供が生まれたカップル、(3)夫婦と子供1人の3人家族の3つのパターンです。 例えば、子供が多い家族が買い換える可能性が高いのか? あるいは、子供が少なくお金に余裕のあるカップルの方が買い換える可能性が高いのか? など、色々な理由を考えることが出来ます。 ところが、実際は、最近子供が生まれた家族で車を買い換える可能性が高いのです。つまり、子供が何人いるのかということが重要なのではなく、子供ができて家族が増えるなど、その家族の属性が変化する場合に「買い換え行動」が行われる可能性が高いのです。 つまり、このような分析では一時の観測データだけで分析するのではなく、時間の流れの中でその行動を捉えることが必要だということがわかったということです。もちろん、これ以外にも、電気自動車の需要予測といったものにもこのモデルを使用しました。 |
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報告漏れを考慮した交通事故による損傷程度の分析
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私は、以前、アメリカのワシントン大学で勉強をしていた際に、大学で交通事故の分析が行われていました。私は、それに興味を覚え交通事故の分析も行いました。それは「報告漏れを考慮した交通事故の損傷程度の分析」というものでした。 交通事故には様々な原因があります。一般的に事故が発生した場合、警察が事故調書をとって事故原因などがデータ化されているわけですが、必ずしも全部の事故がデータ化されるわけではなく、中には一部報告漏れのケースもあります。その報告漏れがランダムなものであれば問題は少ないのですが、実はそうでない場合があります。 |
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損傷程度が低いほど報告漏れになりやすいことの影響
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例えば、損傷程度が軽度な場合は、報告漏れが発生しやすいということがあります。このようなことを考慮しないと、重要な知見が間違ったことにつながります。 例えば、オッズ比というものがあります。オッズ比とはある事象の起こりやすさを二つの群で比較して示す指標のことです。例えば、シートベルトの着用の有無で死亡確率を比較した場合、われわれのアメリカでのデータ分析結果では、1:10の比率で非着用の場合の方の死亡確率が高いという結果が得られています。つまり、シートベルトの着用が死亡確率を減らすことになります。ただし、この場合でも報告漏れを勘案しないと推計結果にバイアスがかかってしまうということになります。 研究の結果、この報告漏れを考慮しない場合、シートベルトの効果では5%程度のバイアスが出るという結果が得られています。また、スピード違反の場合では25%位のバイアスが、さらに飲酒運転の場合では30%くらいのバイアスが出ることが分かりました。このように、報告漏れをかなり厳密に考えないと、結果的に間違った知見を提供することになってしまいます。 |
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プローブカーデータを活用した動的交通管理技術の開発
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私は、アメリカから帰ってきてから名古屋大学に所属し、ITSの研究を進めたのですが、そこで行ったのが「プローブカーデータを活用した動的交通管理技術の開発」です。 プローブカーとは、車両走行位置等を時々刻々と記録することで交通状況を観測することを目的とした車のことです。そこから得られたデータから交通状況の推定を行い、ドライバーにフィードバックすることなどに使われる訳ですが、我々は、そのデータをOD交通量推計に用いることにしました。 |
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OD交通量推計
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OD交通量とは、どこからどこに何台の車が移動しているかという交通状況を示すものであり、交通計画の中では基礎的かつ重要なデータなのですが、なかなか簡単に観測することが難しいものなのです。 そこで我々は、このプローブ情報(タクシーの動き)を用いて、リンク(交通区間)の速度や所要時間を推定し、渋滞度を考慮したOD交通量の推計に応用しました。つまり、タクシーの動きという一部の情報をもとにして、全体のOD交通量を推計したわけです。 |
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推計精度の比較
その結果として、OD交通量やリンク交通量は、各リンクで推計精度が異なることを考慮した場合は、考慮しない場合に比べて誤差が小さくなり、推計精度が高くなることがわかりました。 これが、我々の取り組んできた統計解析の研究内容です。 |
現在取り組んでいる研究
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さて、最後になりますが、現在、我々が取り組んでいる研究を少しご紹介したいと思います。それは「次世代型モビリティの導入による環境負荷削減効果の分析」です。 次世代型モビリティとは、ここに示しているような「プラグインハイブリッド車(プリウスなど)」、「セグウェイ(一人乗りのパーソナルモビリティ)」、「マイクロカー(超小型一人乗り自動車)」のことです。 |
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このような次世代型モビリティを導入することによって、「経済性と環境負荷削減効果の分析、および、補助金による転換促進効果の定量化」に取り組んでいます。ここでは、「プラグインハイブリッド車の最適なバッテリー容量は?」や「環境負荷を効率的に削減するには、その程度の補助金が妥当?」などの課題に取り組んでいます。 |
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また、「次世代モビリティの性能等の認知が購入意向に及ぼす影響の分析」も行っています。ここでは、「利用経験によって性能等の認知がどのように変化するのか?」、「普及促進に向けて、望ましい認知を活性化できるのか?」などの研究を行っています。 |
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さらに、「超小型車規格の導入が交通流に及ぼす影響の分析」として、「走行性能の低い車両が混じると渋滞を引き起こすか?」、「小さな車両は場所を取らないため渋滞を解消するか?」などの研究にも現在取り組んでいるところです。 |
おわりに
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以上、私がこれまでの研究、現在取り組んでいる研究についてご紹介させていただきました。 最後になりますが、今回、米谷・佐佐木賞を頂くことになり、関係者の皆さまに深く感謝を申し上げるとともに、今後、さらに研究活動に精進していきたいと考えております。本日は、どうもありがとうございました。 |
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