人と地域にあたたかい社会システムを求めて


道路課金シンポジウム


道路課金シンポジウム>パネルディスカッション


 

パネルディスカッション

コーディネーター
コーディネーター 太田氏

太田 勝敏 氏
公益社団法人 日本交通政策研究会 前代表理事、東京大学名誉教授

パネリスト(順不同)
パネリスト 森川氏

森川 高行 氏
名古屋大学大学院 環境学研究科

パネリスト 塚田氏

塚田 幸広 氏
国土交通省 国土技術政策総合研究所

パネリスト 野口氏

野口 直志 氏
三菱重工株式会社 交通事業部

パネリスト 堀池氏

堀池 雅彦 氏
京都市交通政策監

パネリスト 根本氏

根本 敏則 氏
公益社団法人 日本交通政策研究会 常務理事、一橋大学大学院 商学研究科

パネルディスカッション要旨(文責:事務局)

太田氏

 

 これまでお話いただきました森川先生、塚田さん、野口さん、堀池さんに加えまして、この企画全体のバックグラウンドで進めていただきました根本先生に入っていただいて進めさせていただきます。コーディネーターは私、太田がやらせていただきます。
私自身も、国際交通安全学会でありますとか、本日主催の団体の日交研での研究、東京都の石原知事が提案した事例の座長、最近では環境省の局地大気汚染問題への対応としてロードプライシングが適応できないかいう議論にも参加させていただいております。そのような形で現在直接関わりがあるものは限られておりますが、古くから関心持っている者として本日はコーディネーターという形で務めさせていただきたいと思います。
 では、最初にパネルディスカッションから参加の根本先生から今日提案のものを含めて紹介していただきたいと思います。

 

根本氏

 

 ありがとうございます。10分間だけ時間をいただいて具体的な提案をさせていただきたいと思います。

大型車対距離課金の提案

 

 一枚紙の資料をご覧下さい。「大型車対距離課金の提案」というものでございます。オランダでは乗用車を含めた全車種に対する、全道路の対距離課金が導入出来るかと期待しておりましたが、政権交代により中断されています。だからと言うわけではないですが、相対的に大型車の方が対距離課金を導入しやすい様々な理由があります。そういったところから提案させてもらいたいと思います。

道路費用の内訳

 

 表−1をご覧下さい。表−1に道路費用の内訳が示してありますが、ここでは利用者を乗用車と大型車と考えています。その道路費用の中には道路利用者が自ら負担するA:車両費、B:時間費用という他に、C:保有税、D:ガソリン税、有料道路料金等を払っているわけです。そして、そのCとDが道路管理者にまわり、E:更新費、あるいはF:維持管理費という風に使われていると理解するわけですが、日本の場合は諸外国に比べて走行にかかる税や料金が低く、逆に保有税の比率が高くなっている、という特徴があります。

車種別の自動車関係税負担額(試算)

 

 図−1に普通乗用車(乗用車)、普通貨物車(トラック)の2つについて車種別の道路関係税の負担額を比較してあります。大型車が少ない、キロ当たりの負担額が少ないということがわかります。どうしてかと言うと大型車は1年間に10万キロ弱、9万キロ程度走りますが乗用車は1万キロ程度だとすると、1年間にかかる保有税等については1/10の負担となってしまいます。その他に軽油引取税がガソリン税に比べて安くなっていることも大型車の負担が軽くなる理由になっています。

責任道路費用と利用者負担−現状:乗用車

 

 そういうことも踏まえて図−2の方に移りますが、図−2、図−3、図−4、図−5で現在はどうか、今後どうすべきか、ということを乗用車と大型車についてイメージを書いてみたものです。図の左側に責任インフラ費用というものが書かれています。これは先程の森川先生の計算式による算出で、建設更新の費用を乗用車の台数と大型車の台数の総台数で割ったものが1台あたり同じ金額になるのがいいのではないか、ただし、維持管理費用というのは大型車の場合は責任負担がもう少し大きくてもいいのではないか、ということで大型車の方が大きくなっているのが責任インフラ費用です。それに対して、現在乗用車は燃料税5円、高速道路25円払っていますが、自動車税、重量税が一般財源にまわって、それが左右対称な形で負担している、と考えていいのではないかと思います。

責任道路費用と利用者負担−提案:乗用車

責任道路費用と利用者負担−現状:大型車

 

 それを図−3の方では、やはり乗用車は負担しすぎているのではないか、ということです。固定資産税を市町村道の整備にまわしてはどうか。地主が車を持って道路を利用していますが、道路利用者として負担するのではなく、地主として負担してはどうか、それによって道路利用者の負担が減るのではないか、ということです。あと、高速道路に関しては燃料税を高速道路の体系に入れるということで少し減らすことが出来るかもしれません。大型車についてはむしろ、この提案がはっきりしてきます。大型車は維持管理費用の責任費用が多いのにもかかわらず、燃料税も高速料金も相対的に安くなっています。営業車に対して税を安くするという考え方がここにはあるかと思います。

責任道路費用と利用者負担−提案:大型車

 そこで図−5ですが、大型車の対距離課金を高速道路だけではなく一般道についても適用できないか、ということ。大型車にはすでにタコグラフの装備が義務づけられております。GPSと若干の装置をつければ対距離課金用の仕組みがより導入しやすいのではないかと思われます。営業車の場合は、もともと運行管理をちゃんとやらなければならないという意味からプライバシーの問題も乗用車に比べて相対的に問題ないかと思われます。とりあえず大型車について責任負担額が大きく、技術的な困難性も少ないということで、それを第一段階として導入してはどうか、というのが私の提案です。

 

太田氏

 

 ありがとうございました。経済学の立場から今までの例とは違う具体的な試算例ということで対距離課金制を入れた場合、特に高速道路など償還期限が終わった後、どのように維持管理していくか。表1の道路管理者の立場のE、Fの部分をカバーするのに適切な料金の価格はこのようなものだと、いうことを提案していただきました。
それではこれから、パネルディスカッションに入りますが色々なテーマがあろうかと思いますので、私の方であらかじめ3つの大きなテーマを用意しましたので、そのテーマに沿って議論を進めたいと思います。3つのテーマ、共通論点としていますが、初めに第1の論点として各地域の道路課金導入の主な目的、動機付けについて、もう一度これをきちんと理解し確認した上で我が国の問題について議論していただければ、と思います。共通論点2としては、道路課金制度が様々な場所で導入されていますがうまくいっているのか、あるいはうまくいっているということをどうやって判断したらよいのか、ということについて少し議論を深めたいと思います。というのは住民、市民、ドライバーから新しい制度の受容性、このような評価をどう考えるかというのは、大変重要な視点です。これは導入目的との関係が当然あるので、それぞれの事例にはどんなことに苦労しているのか、どんな手法を使っているのか、そこでうまくいっていると判断されているのか、そのような点を2番目のテーマということにしたいと思います。
共通論点3ということで、現在、新しい技術等が出てきているが、そういったものを使って現在のETCを使った料金徴収を行い、継続して発展させていく、そういうことを背景として考えながら、我が国ではどう進めたらいいのかその場合の課題というものはどういうものがあるのか、ということを議論して頂ければと思っています。
ということでこの3つのポイントについて、それぞれ15分程度議論させていただいた上で、会場のみなさんから頂いた質問を整理していただいておりますので、問題提起された何人かについては紹介した上で議論させていただくという形で30分程度議論の時間を設けております。最後にそれぞれのパネラーの方にまとめということで全体についてのコメントをいただく、そのようなストーリーで進めさせていただきたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。
それでは最初の論点ということで、いろんな地域、欧米や日本の例、それから現在検討している京都の例、というような事を含めて道路課金、ロードプライシングから始まっていろんなことが実際に始められ、検討されているのですが、その主な目的を確認しながらそれぞれの地域の適切性というものを議論できれば、と思います。
パネラーの皆さんには問題提起をしていただいたのですが、改めて全体を見てみると今のような主たる目的というようなことでどのようなことが他の地域に比べてどのように重要か、あるいは検討が欠けているというようなコメントがあればお願いしたします。
森川先生からお願いできますか。

 

森川氏

 

 まずは世界的な道路課金、ロードプライシングのきっかけは1960年のスミードレポート辺りに端を発するのではないかと思われます。ご承知のように混雑による外部不経済をなくそう、外部不経済は理論的に言って完全に無駄であるのでこれを何とかなくそうということで理論、バックグランドが出来たわけですが、その頃はなかなか技術もなく理論が先行していたのですがそれをまともに受けて強行的に非常に政府の力が強いシンガポールが実施したというのが現実のところかな、と。その後、シンガポールのある種の成功の例を見て、各地でトライアルをした。その時に色々な目的があり、例えばオスロの例では都市の地下を通るトンネルを作る建設費を出すために中に入る時には料金を取ったとか。それぞれ、例がありますが、最初は経済学的な外部不経済を解消するというところから始まっています。やがて、車の中での外部不経済というよりは総合交通的な公共交通との適切なシェアという中での自動車の適正化という方向に目的が向いてきたのかな、と。最後、講演の中で堀池さんがお話になった特に京都というのはそちらが非常に強くて、道路というよりは京都の環境を守るために車を抑制するための道路だけを考えているという話は、かなりそちらに触れた話かなと思っております。私がおります中京地域では名古屋市が本当に検討しているかと言いますと社会実験はさせてもらいましたがまだまだそんな段階ではなくて、豊田市は割と今のところ少し興味を持っていただいていて、市の交通のオフィシャルな政策の中にも中期的な政策としてロードプライシングが掲載されています。中京地域は車の利用率が非常に高い、3大都市圏の中でも田舎型の交通です。名古屋で言いますと都心部の道路が非常に広い。あれだけ車のシェアが高くてもそんなに激しい渋滞が起こらない、という意味においては都心部の渋滞を解消するためにどうしてもロードプライシングをしなくちゃいけない、という切羽詰まった状態ではなくて、むしろ名古屋では広い都心の道路を上手く使いましょう、という「みちまちづくり」ということをやっていまして、基本的には車道をどんどん歩道や自転車道、緑に変えていこう、という車のための車線数を減らそう、そのためには合理的に都心部に入ってくる車を減らそうというような意味があります。そのためにはロードプライシングや、PDSなどが有効ではないかというようなところで、名古屋市ではまだ本格的に検討が進んでいる状況ではないが中京という車に依存した都市圏の中ではそういう事情がある。つまりは車を完全に物理的に排除するのではなくて、合理的に車の台数を減らしましょう、その減らした分の車道をよりよい環境のまちづくりのために使いましょうという、そのような背景があると思います。

 

太田氏

 

 ありがとうございます。名古屋は日本の大都市の中でも車が多く使われるということで、むしろ交通マネジメントでの視点での施策であるということです。ちょっと塚田さんにお聞きしたいのは、これから国交省で議論するとなると一般財源化された中で道路利用者から適切な負担をとれないと最終的に色々と難しいということがあると思いますが、特に地方の問題は国全体の展望とずれるように思うんですね。もしこういった議論で道路課金のことを議論する場合には、特に分権化の中でどんな展望を想定して議論すればいいのか、我々の議論のその辺りが心配と言いますか、やはり最初から考えないといけないのかなということと、道路財源だけではなくて公共交通に対する財政的なものがどこまで変わってくるのか、そういったことも議論の一部に入ってくると思います。こういった大きなストーリーの中で検討するときの目的といいますか、その辺についてコメントをいただければと思いますが。

 

塚田氏

 

 一番答えにくいテーマですね。私がプレゼンをしましたヨーロッパとアメリカの例を少しイメージしながら我が国を見てみますと、例えば先程の京都のように、ある特別な地域の中での渋滞の緩和に対して、様々な規制も含めて実施しようということは、ロンドンやストックホルムの例にありますように、現実として国と言うよりは地方が独自の交通政策の中で展開していく、という見方が一つあるのではないかと思います。一方、対距離課金のような場合、例えばEUであれば、ひとつずつの国からEUというひとつの経済圏が出来て、様々な規制が緩和していく中で交通・交流が自由になる。一方、多くの自動車が通過するドイツやスイスなど、様々な境界をまたぐところのルール化というものが間違いなく必要になってくるのではないかと思います。アメリカも同様に、ご紹介しましたオレゴンやミネソタもそうですが、日本と同じくらいのかなり広いエリアなので成り立つのですが、彼らの問題意識は他の州と如何に連携するかというところにあり、一つの州が2つ3つの州と連動して、このようなものを実験してみようか、という状況です。アメリカでは、まだバリュープライシングのパイロットプログラムも全米に広がるところまでいっていない状況ですが、対距離課金などを展開するにしても、州税と連邦税がありますように、州だけで単独でやろうという場合と、国としてどうやろうかという場合とで問題の位置付けが少し変わってくるだろうな、ということは先程の太田先生のご指摘にもあったとおりです。そこのところはEUの場合、しっかりとした基本的ルールを明確にした上で、制度を成り立たせている。アメリカの場合はまだまだパイロットプログラムという段階ですので、日本も何か実施しようとした場合は様々な社会実験は当然展開されますが最後には制度化という議論が、地域でやるにせよ必要かと思います。先程ご紹介にあった京都市のように市民のコンセンサスを得ながら、というプロセスは間違いなく必要なことではないかと思います。

 

根本氏

 

 ヨーロッパのことで補足させていただきたいのは、ご指摘のようにヨーロッパで対距離課金が導入される背景としては説明にありましたように有料道路を持っているところもあれば、国費で高速道路を作っているところもあって、国によって全然制度が違う中で国境が廃止されて大型トラックがヨーロッパの中を走りまわるという状況で、道路は一体どういう風に負担すればよいのか、ひとつの標準的なしくみを持たなければならなかった、ということが大きかった。ただ、彼らはトラックだけに着目していたわけではなくて全てのモードについて同じように、どういう風にバランスをとって使っていけばよいのか、ということに関してひとつの共通理解があった方がよいのではないか、すなわち、鉄道で貨物を運ぶ場合でも騒音が出るではないかといった、全てのモードの全ての外部効果を全部計算に入れて一度出してみて、それぞれのモードが今度は一体どれぐらい負担しながら道路を使っているのかということを比べてみた時に、そこでもアンバランスがあったら安いモードが過剰に使われる、ということがあるに違いないということでやはりトラックは負担が少ないという話になったんですが、いずれにしてもモード間のバランスを取る時にもヨーロッパ全体で統一的な考え方が必要だった、そういうところでは森川さんのおっしゃるところの総合交通的な発想は確かにあるのではないか、と思います。

 

太田氏

 

 ありがとうございます。プライシングというのは全体的にどのような位置付けなのか非常に難しいもので、何らかのメリットがあるということで検討しようということですが、その辺りは堀池さんどんな風に展開されているんでしょうか。

 

堀池氏

 

 先程の説明の中でも申しましたが、その事が特定の方にメリットがいくのではなく社会全体に便益が増すということをいかに説明が出来るかということだと思っています。非常に広範囲に効果が出てくる。四条通で言いますと車が非常に多いのですが、これを賑わいと言うかどうかというのは非常に疑問で、やはり人が沢山来ていただくというのが賑わいだろうと。それが売上げに繋がるということは商店街の活性化に繋がる。あるいはコミュニティというのはモータリゼーションが進展すると希薄化すると思われますので、歩行者が中心になるとコミュニティも活性化する、そういったことをいかに説明出来るか、究極は市民の幸福の享受につながると、ちょっと抽象的ですがそういった目的だと思っています。

 

太田氏

 

 公平性ということは市民に対して大変重要かと思います。時間の関係もございますので、次の共通論点2になりますが「道路課金は成功しているか」、それぞれの状況のもとで道路課金を導入しているという点ではシンガポールが世界で一番新しい形のロードプライシングを始めたということになりますが、成功というのはどういうことをベースに評価しているのか、あるいは真の成功はどういうことで評価しているのか、そのあたりについて補足して頂ければと思います。

 

野口氏

 

 シンガポールの場合、2段階に分けて道路課金を行っています。1975年にマニュアル方式でまず導入いたしました。時間の関係であまりご説明をしませんでしたが、マニュアル方式というのは、シンガポールの中心街に入る前に料金を支払い、ステッカーを自動車に貼って、監視員がチェックするという方式でこれでも渋滞交通量が劇的に75%減ったというデータがありました。マニュアルでチェックしているのでどうしても抜け道、チェック漏れがありました。それを1998年に全て電子式の道路課金にしたら、さらに20%交通量が減ったということで、厳格にやった分だけさらに交通量が減りました。交通量が減ったということをシンガポール政府はシンガポール国民にPRして効果があるとアピールしています。何年か前に道路課金に関する効果がどの程度あったかというのが公表されたのですが、その時にもシンガポール政府は効果があったと数値を出しています。ロンドンの場合も交通量が減った分だけCO2が減ったと効果を出しています。継続して導入されている国ではロンドン、ストックホルム、シンガポール、オスロなどは数値を公表することで効果があったことをPRしています。

 

太田氏

 

 シンガポールは渋滞対策がテーマでしたが、渋滞のレベルで料金改定をしていて性能基準というか、ある一定の平均旅行速度を確保できない場合は課金額を上げるということをしているということでしたがそれはまさにそういったことなのでしょうね。

 

野口氏

 

 そうですね。四半期毎に見直ししておりまして、料金をこれだけ上げるとこの場所ではこれだけ交通量が減るというようなデータベースを過去10年近くやっております。

 

太田氏

 

 これもひとつの成功の事例ですが、渋滞対策以外で道路課金制を入れる場合にはどのようになりますか?

 

野口氏

 

 渋滞対策以外で入れるとすると環境の効果とか、その地域の移動速度が上がったというような、2つのデータは会議の時に公表されています。

 

太田氏

 

 平均速度が上がっているということは排ガス等も減っているという根拠になるかとは思いますが、何かこのあたりの成功の指標ということで交通工学的な分野での観測や測定は可能ということで、それ以外で一般向きには何かされているんでしょうか。何か補足がございましたら。

 

根本氏

 

 太田先生が委員長で検討した東京ロードプライシングですが、環境改善を目的に東京でロードプライシングが導入出来ないだろうか、というのは、混雑している時に高くするというよりも、環境を良くするために環境を悪くしている車に対して課金をする方が通りがよい、わかりがいい、という東京の戦略があったと思うんです。担当も環境局だったんですが、結局同じ時期に検討していたロンドンは成功して東京は失敗したわけですが、これにはいろんな理由があります。ディーゼル車の排ガス規制の方が上手くいったので相対的にロードプライシングに頼らなくてもよかったということがあったかと思いますが、やはりロンドンの混雑対策、混雑したら課金するということが、そういうことに対しても払うことにメリットがあると実感できた。シンガポールの走行速度の保障ということもありますが、実際に公共交通の方がかなり便利になったとか、パッケージでやったロードプライシング施策が結局非常に効果があるということが目に見えてわかってきた、あるいはそのような説明があったということが大きかった。1960年にアイデアとして出されたロードプライシングですが、混雑に対してお金を払うということが理解されるまでに何十年とかかったということだと思います。

 

太田氏

 

 確かに、混雑目的であればある意味ではやりやすいですね。それ以外のさきほどの京都というのは「歩くまち」というのは歩くだけの方がいいのかそれによってどれだけ市民が楽しむかということをどういう風に表現するか、とかなり難しい面もありますね。市民の納得できるという段階ではいろんな形で効果を示す必要があろうかと思います。東京の例もあがりましたが、東京のロードプライシングの失敗というのはロードプライシングでのアプローチで環境問題、特にディーゼル車対策の必要がなくなったということで失敗というよりも本格的な議論としてはそこで必要がなくなって終わっていると私は理解しております。石原知事が試験管に入れたディーゼルの排気ガスを振って「こんなに汚いんだ」ということをおっしゃって、既販車についてもフィルターをつけなさい、ということをやられた。
ロー・エミッション・ゾーンということでヨーロッパではある意味の導入インセンティブがあるんですね。それに基づいてミラノでは都心に入る車両についてエンジンがどの程度かで料金を決めて、環境によいものは入ってよい、料金を払えば都心に入れる。あるいは最初から都心に関係ないものは入ってはいけない、と禁止しているローマなどの事例がある。確かに環境というのは訴えやすいしわかりやすいのですが、厳格な適応等について色々な問題があるかと思います。

 

塚田氏

 

 質問にもありましたが、環境面も経済的に捉えることも重要だと。まさにご指摘の通りだと思いますが、我々はいろんな事業をやる場合には「費用対効果」を算出します。環境面でも様々な評価をします。例えば騒音やCO2の排出です。便益から見ると、総じて通常の走行便益等と比較して数値的に小さく、なかなか評価されにくい、というところが正直あります。昨年の大震災以降、評価手法の検討を進め、3便益とは別のシナリオの中で「防災」は必要であろうということで新たな評価手法についても試行を始めたところです。

 

森川氏

 

 成功しているかということですが、その前に導入出来たかどうか、ということなんですね。シンガポール、ロンドン、ストックホルムのような導入が出来た所は良いのですが、導入出来なかった所の方が随分多くて、たいがいが最後住民投票で反対多数となっている。それは本当にきちんと効果を予測して住民がそれを理解して最終的に反対多数になったのかというとかなり疑わしいところで、その時点で成功か失敗かというところがある。スクリーニングを経て導入した後の成功か失敗ということなのですが、例えばロンドンですと実施しているTransport for Londonは成功だと。一方でチェンバーオブコマースが出しているレポートでは商売をやっている人には客が減って反対だというレポートが出ているわけですね。多分に道路利用課金というおそらく都心部乗り入れ課金の話が出ていると思いますが、かなり政治的なところで、聞く団体によって全然成功かそうでないかが変わる。それが実施する前の段階でも、聞き方や準備の仕方で住民のとらえ方が全然違うという印象があります。それから重要な点は、あがりの収入をどう使うかということを事前の段階できちんと示しているかどうかが最初の住民投票の時に非常に効く。実施しているとしてもあがりをバスに補助して非常に便利になる、ということが示されていると割と評価が高いという印象があります。

 

野口氏

 

 失敗の事例として、実は香港で、シンガポールと同じような都市国家ですが、ほぼシンガポールと同じ時期に実験をやっている。DSRC方式で80年代にやって、その後GPS方式でもやった。一応、技術的には出来るという報告がでたが住民からプライバシーの侵害という猛反対があって中止に追い込まれて、その後検討をしていると思うが表面的にはロードプライシングというのは今は消えている。住民からのプライバシーの侵害という理由で反対されました。

 

太田氏

 

 そういった意味では確かに住民が受け入れて実施したということはひとつの大きな成功の証ということもありますが、もちろんそれは導入目的などが当然からんでくるのですが、香港では当時は中国返還の議論中で、自主組織の地方政府を主張するような動きもあって、香港中央政府が提案するようなものはすべて反対だという大きな政治的な変わり目の論争に巻き込まれたと聞きますから、単に交通問題への提案をしても議論は交通の政策だけでは終わらない。そういった文脈での問題であったかと思います。やはり公共交通の整備というのは財源だけではないことにも関連しますが、道路整備のための財源としてロードプライシングを入れる場合はそのプロジェクトが終わった段階では取りやめることになります。すでにロードプライシングをやめたという事例もあります。また地方都市でも公共交通財源としての役割を含めてロードプライシングを導入しようとしているところもあります。イギリスのマンチェスター、エジンバラ等では路面電車の新しいものへの入替の財源がないのでロードプライシングで道路渋滞対策と併せて財源にしよう、ということが大きな目的に掲げられています。

 

塚田氏

 

 アメリカでは目的が最初は道路財源でしたが、そのうち公共交通にもお金を入れるようになっていますし、今でもそうです。ご質問にありましたが、Integrated Corridor Managementということですが、今日の議論は色んなIT技術があってからこそ活きるところが結構多いです。都市圏で様々なツールを活用して、様々な連携を進めています。これは都市圏の中では特に朝夕の通勤の渋滞の中では、交通モード間の連携が非常に重要なポイントです。そこをつなぐのが情報で、渋滞情報等の道路交通情報に加えて、鉄道やバスなどの様々な情報があって、初めてユーザーが選択出来得る。そこに行ったら何分かかる、コストはいくらかかる、最近ではCO2排出にこれくらい貢献している、といった情報もある。Corridor Managementの中では、情報を連携する一方で、プライシングで交通需要を抑制するということを併せてやっています。そういった連携と情報提供がこれだけ簡単に出来る様になり、我々もスマートフォンで毎日そういったものをチェックできて情報を取れるようにもなっているので、IT化、情報をもう少し連動させるアレンジが必要かと思います。

 

太田氏

 

 確かに技術的な状況はすっかり変わっていますね。情報化というのは逆に移動を減らすのではないかという別の意見もございますが、少なくともよりスマートな使い方によっては賢く動く、無駄に動かずにすむ、という意味で生活環境も変わりつつあるかと思います。何かこれから考えるべき評価の視点で、環境についても考えなくてはならない、やはり料金収入の使途について道路整備のこともありますし、マルチモードの視点でそこに情報が加わってきた中で情報を活用しながら、こういった自動車交通の抑制というよりもっと別の観点から効果的に利用しようというのが塚田さんのご指摘ですね。

 

森川氏

 

 フロアからの質問で、私と塚田さん宛ですが、道路の事業評価の中で所要時間等の算定値がありますが、環境面での外部不経済をどう捉えていくか、温暖化対応の炭素税について。これは全然専門家でもないので私が答えるべきなのかわからないんですが、特に温暖化に対する炭素税の考え方で、本当にCO2が上がったことに対する外部不経済を決めることはほとんど不可能ではないかと思います。いろんな効果が正負併せてありますので、それよりも急激な変化を起こさせないためにそれをストップさせる抑止力がある税が現実的ではないかなと思います。先程講演でも少し申しましたが、例えば炭素税2000円/t、ガソリンに直しますと1円/リットルレベルの薄く集める財源としていいかもしれないですが、行動変化を与えるような税額ではまったくないということを考えると、温暖化の急激な変化に関する行動を押さえるための税額であると。そしてそのあがりを例えば再生化エネルギーなどに使う、そういう考え方以外の温暖化対策税というのはどういうものが考えられるでしょうか。

 

根本氏

 

 EUの色んなディスカッションを見ていると、CO2税はガソリン税で取るということをEU内で標準化するのは大丈夫ではないかというようなことは言われています。そういう意味でガソリン税もCO2税としての役割が残る。ガソリンの値段も高かったり安かったりとバラバラですが、標準化したいというのもありますが、外部不経済を内部化するという意味でCO2税はどの国もかけるというのが基本でしょう。かけていない国もありますが。その上で地球環境問題の場合だと、外部不経済なにがしか、問題解決かという問題ではなくて、それぞれの国で枠を決めて削減にむかって努力しようという、まったく別の経済学的に最適かどうかは別にして、プラスアルファーで頑張って何かしようという別の枠組みがあるわけだから、税をもって地球環境問題を考える場合はCO2税をみんなにかけるというのが正しいのではないか、と思います。

 

太田氏

 EUの指令で渋滞は別ということですが、どういう背景なのか。

 

根本氏

 

 渋滞も入れたかったんですが、EU加盟国27カ国が相談して決める中で東の方の国が入れることに対して必ずしも賛成していないということでした。EU指令で、もし混雑が取り上げられた場合、例えば東ヨーロッパの国へ長距離輸送する時に混雑しているフランスやドイツを通って行くとなれば、それが東ヨーロッパに拠点を置くトラック事業者にとっては混雑課金がもろにかかってしまうという可能性がある。とすれば、それはちょっと国にとってはマイナスだという判断があったようです。
しかし、これまでの長い議論の中で外部不経済は区別することなく、内部化していくような考え方が少しずつ増えてきて、品目も増えてきて混雑だけが入っていない状態だと思うんですが、今後入ってくるのではないかと思います。

 

太田氏

 混雑についてもやってもいいという判断が近日EUとしてあがっているんですね。

 

根本氏

 EU指令でかけてもいいよということであれば、それをかける国が出てくる。

 

太田氏

 

 ちょっとこの辺りは我々では理解しにくい問題なのかもしれないですね。
共通論点3「日本への道路課金の導入を想定した場合にどのような課題があるのか」を議論したいと思いますが、今回のタイトルにもなっております道路財源との関係から見ますといかがでしょうか。

 

根本氏

 

 混雑の原因となっている業者に払ってもらう、道路損傷の原因になっている業者に払ってもらう、という意味でまったく同じだと思いますが、道路損傷の原因者負担の方がむしろ理解されやすい、昔からそういう考え方があったと思うんですね。ただ、そのデータが必ずしもはっきり示されていなかった、ということがそれぞれの車種に対してどのような負担をしていくべきかという議論が進まなかった原因ではないかと思います。アメリカは1980年代にいろんなところで橋が落ちたりなど、誰が原因者なんだということに関する詳細な調査が行われて公表されたのが大きかった。日本の場合、大型車がもう少し負担してもいいのではないか、これは取れるところから取るという考えではなくて、負担すべき利用者が負担者となる、正常な形に戻すということで、使用者負担の単価を活かしたものが必要で、その時にちょうど対距離課金という徴収の仕方がある。それによって大型車はより高速道路を使うようになって、環境面でもプラスになり、色々な副次的効果があるのではと思っています。

 

塚田氏

 

 国や自治体を含めて次の維持更新費、インフラがどうなるかということを色んなデータに基づきながら試算を始めています。データも集めていますが。その中で圧倒的に「橋」が問題。日本はこれだけ多くの河川を抱えていますし、山間部を含めて多い。大型車の過積載によるダメージが何十倍という位の単位で効いてくる。その取り締まりに関してはITSの技術を使ったりして規制を設けてやっていますが、その辺をしっかりと出していかないといけない。科学的な見地を含めて我々国総研の中でも検討している。先程、アメリカのEV車が増えることによる公平性という観点で、本当に「0」でいいのかという議論もあって、そこも全体のバランスがあって初めてそういうようなシェアという議論になる。国によって違うだろうけれども、データも示しながら説明していくことも非常に大事だと思いますし、質問にもありましたが「何故、導入をするのか」ということですが、我が国の中では「荒廃したアメリカ」のようになってはならない、そうならない前に先手を打っておく、起こってからでは遅いし、結果としてこの国のいろんな力も衰えていく、ということに連動する。アメリカは今、それを乗り切って毎年の費用を増やしていっているので、そういった点を考えていかなければならないと思います。

 

太田氏

 難しい局面だということですね。

 

森川氏

 

 私は維持管理の面を考えると大型車から規制すべきかと思います。塚田さんの話でもあったように次世代自動車の負担は本当に「0」でいいのかという話も。それから大型車の場合は次世代化というのはパワーと電池の関係から難しいだろうと思います。TDM的な観点からも人々の行動を変えていくという観点からも乗用車の課金も同時に進めて行く方がいいかなと思います。

 

太田氏

 

 ベースは原因者負担ということでその原因に合わせて、となりますと一方それだけでやってしまうと、その他の政策が麻痺してしまう場合があると。単に維持管理の問題だけでなく車の使い方をどうしようか、それによって産業や暮らしをどうしていこうかと。ある側面からの論理だけでは難しいということです。

 

塚田氏

 

 問題提起になりますが、先程香港の例がありましたがプライバシーのことについてですが、結局日本のETCというのは高いセキュリティで問題はありませんが、国によってプライバシーのとらえ方が違うのか、違わないのか、ご存じの方がおられればお聞きしたいんですが。GPSというのは非常に便利ですごく正確性がありながら結果としてはそこが諸刃の剣になっているので、日本人のプライバシーがどれくらいのセンスか私にはわかりませんが、最後はそこが技術的な側面よりも大きな課題のような気がして。情報があれば教えていただきたいと思っております。

 

太田氏

 

 これは大きなひとつのポイントですね。技術的にはどのようになっているんでしょうか。プライバシーに対する技術面でのフォローや対応の仕方というのは。

 

野口氏

 

 GPSの信号をどう処理するか。課金の仕方に大きく2通りありまして、1つは弊社がシンガポールでやっております実験では車載器の中に全て地図データが入っておりまして、GPS信号を受信して走行道路を特定するんですが、その特定後のデータだけ、料金データだけをセンターに送信する方法と、もう1つは一定間隔で車載器から受信した位置データを全てセンターに送信するという方式。後者の方がプライバシーの情報はあるんですが、逆に前者では車載器がコストアップします。車載機を安くするには後者のセンター課金。そのためにはまた2つあるんですが、行政当局に位置データを渡さず、中間を管理する民間の事業体がヨーロッパの場合ありまして、そこで走行データを全部処理するんですが、課金事業者から政府機関には最終的な収支のデータだけがゆく。ヨーロッパでは車載器を軽くする代わりに民間の料金収集事業者を入れて行っているのが一般的です。

 

太田氏

 

 技術的にはいろいろな提案がある中で、どう選ぶかというところで政府の信頼性といったことが影響していて、国民の受けとめ方が違う。そこで議論ということでしょうか。

 

森川氏

 

 国が握るか民間が握るかということは、一般論かわからないですが、たいがいは民間が握る方が納得してもらえる。国、特に警察関係などは嫌がられます。今のお話にあったように、我々が携帯電話を使うのと一緒なんですが、情報の法律に保護されているもとでキャリアに位置や通話記録やメールなど全部つかまれているけれども平気で使っている。あれを全部国が管理していたらちょっと怖い。もちろん法律は要りますが、民間の団体がやった方が国民の受容性は高いのではないかなと。

 

太田氏

 

 この辺は技術と信頼性、それから集中管理というのはやはり国がすることになって、それが信頼性を砕くということもあり得る。民間業者のある程度の競争があった方が安心ではないか。この辺りは一つの論点ではないか。今、プライバシーの問題と料金負担データの電子化を考えた場合、基本的なデータの収集について論点がある。他にこれから対応していかなければならない、見直さなければならないことがございましたら、何か。

 

森川氏

 

 自律式かDSRC式かということですが、私は自律式で、都心部課金だけではなく総合的な導入がよいと思います。車は乗る時には必ず通信していないと乗ってはいけない、ということになるんじゃないか、つまり車は繋がっていないと今までバラバラで非効率も起こるし事故も起こる。今回のような課金もできない。車はエンジンをかけた瞬間、繋がっているという状態。セキュリティも万全ということも考えるとおそらく義務化ですよね。衛星が定期的にセンターに繋がっているというのが当たり前で、それは、人が歩いている時も必ずというのは微妙ですが、車と人は別ですので、車のような大きなものを動かす時は常に繋がっているということの合意は取れるのではないかと思います。となると自律式がいいのではないか。

 

太田氏

 

 公共空間の使い方で、社会的にプラスにもマイナスにもなる。時間もおしてまいりましたので、みなさんからの質問にお答えしていただきたいと思います。

 

野口氏

 

 技術関係のご質問がいくつかございましたのでお答えしたいと思います。「路上駐車を誘発しないような課金システムのアイデアが何かあれば」というご質問をいただきました。道路課金以外にエリア課金、そのエリアに滞在している時間に課金していく、というやり方があり、実はシンガポールでも路上駐車は非常に悩ましいことで、今回の実験でも走行距離による課金だけでなく、対象エリアの滞在時間に課金をする、という距離と時間を加味した課金を施すと路上駐車がある程度防げるのではないかなと思います。
それともう1つですが、「GPS方式で高架道路とその下を走っている道路のズレができるような場合の測位」ですが、GPS方式だけでは技術的に困難です。ヨーロッパでもそうですがシンガポールでも、GPSでは困難な位置の補正をDSRCを使ってやります。DSRCは非常に位置確保の質が高いので高架道路の登り口にはDSRCのアンテナを立てて、阪神高速などは料金所などで活用されています。
もう1つ「スマートフォンが普及している中での課金の技術として使用できないか」ということですが、確かにスマートフォンはGPSも内蔵していますし、それ以外にもセルラー通信もできます。確かに限定された社会実験や地域限定のシステムでは可能ですが、日本全体を対象とした車載器として今後10年15年使うモノを考えると専用の車載器が必要になるのではないかと思います。スマートフォンは便利なのですがセキュリティ面、また道路課金といった徴収作業は公的機関が認定したものでないといけない、など規程があるので、スマートフォンは便利なのですがまだまだソフトウエアの改ざんが出来るという話を聞いておりますので、その辺を考えると長期的な使用を国レベルでやっていくのは少し不向きではないかと考えます。

 

太田氏

 

 ありがとうございます。技術的にはいろんな展開があり限界は小さいということですね。駐車のプライシングに関しましてはアメリカも随分やっていますね。サンフランシスコやニューヨークでもやっていますが、都心部の交通渋滞の原因にもなっている駐車場所探しのウロツキ交通対策。駐車の空きスペースにあわせて料金設定をする実験を行っていますが、その時の性能基準として85%の占有率、15%は空いているようなかたちで料金をいかに上下させるか、ということをやっている。先程のシンガポールでのロードプライシングの価格を変更するまったく同じ考え方です。そういうことが世界的に行われている。ですから駐車に関しては交通警察の協力が必要ということで、日本ではまだ行われていませんが、少なくとも技術的には十分可能ということです。その他、会場からの質問で、塚田さんお願いします。

 

塚田氏

 

 何人かの方から「反対みたいなものはあったのか」ということですが、私が知る限りかなり激論をされているのかと思います。有名なものではストックホルムの課金ですが、社会実験をやり公表を行い、国民投票をやった。ストックホルムに入る周辺地域は反対、都市部は賛成、人口の差で結果として僅差で賛成になったと聞いています。やはりお金を取る、不便になるという面ではそういうような議論もある。今アメリカでもいろんな団体が反対、イギリスでもそうでしたけれども何かしようとすると反対の議論があって、それは結果として政治リーダーと連携しながら様々な反対運動になっていきます。そこのところの説明のしぶりだとか、結果とするとアメリカの例でも日本の例でもそうだと思いますが、何か具体的に見せながら議論だけではなくてバーチャルの世界だとまずいので具体的にデータで分析しながらというアプローチが、時間はかなりかかるけれどもそのプロセスは不可欠だと思います。

 

森川氏

 

 「高速道路のように便益主義的に高速サーチャージをすると今までのB/Cによる評価の根本が崩れるのではないか」というご質問を受けました。私はそうではないと思います。B/Cはネットワークで評価するべきで、一番簡単なネットワークだと1OD・2経路。一つは一般道路で一つは高速道路。新規に高速道路を建設すべきかどうかの評価をしたい時に、高速道路の利用料金を便益主義的に決めるという時には、例えば1km5円、6円、7円、8円とTrial and error式でやるとしたら、それを交通量配分でやって、OD間の社会的便益が最大になるような料金体系を高速道路料金として決めます。その時のある種の均衡状態になった時は時間価値が高い人、もしくは時間価値の高いトリップの人は高速道路に乗り、時間価値の低いトリップは一般道路に乗るという中で均衡解が、利用料金が決まるわけですね。それを高速道路を作る前と後で評価して、B/Cにかければいいという、その基本的な考え方はかわらないのかなと思います。料金を建設費に回すと考えると、それは利用者から供給者にお金が移っただけですので、基本的なB/Cの考え方には、ネットワークで考えれば変わらないと思います。私がきちんと理解出来ていないのかもしれませんけど大丈夫かなと思います。

 

太田氏

 

 それでは、今まで答えられていない論点で質問、ご意見があれば。何でも結構です。

 

質問者

(A)

 

 今、太田さんが最初に示された3つの課題の中で1つめですが「道路課金の目的」ですが、様々な話が出てまいりましたが道路課金は一つの手段だと思うのですが真の目的は何なのでしょうか。少しぼやけているような気がします。財源を確保することだけなんでしょうか、それとも流入規制をすることなんでしょうか、それとも環境保全のためなんでしょうか。その辺りがぼけてしまっているので、もう一度明確にお聞かせ願いたいのですが。

 

太田氏

 

 基本的な問題ですが、これはロードプライシング自体が非常に幅の広い対応のとれる道具ですから、それをどのように使うか、使う対象地域なり、対象とする状況で議論しないといけないかと思いますが、何かございますか。

 

森川氏

 

 明確に答えますと、総合的な交通システムが社会的便益が最大になるようにするのが道路課金という考え方。その意味はインフラコスト、例えば維持管理のコストがこのまま無くなると道路が荒廃してしまう。それがいいのか悪いのか、適切な道路の維持管理の状況、新設も含めてどうか。それからマネジメント料金の考え方で、渋滞をマネジメントする、それから車から公共交通へシフトする方が社会的便益が大きいならその料金も加算する、という風に考えると道路の長期的な維持管理、新設も含めて交通システムが社会的な便益が最大になるように維持管理や交通マネジメントを行うというのが、私の頭の中では明確なラインです。

 

太田氏

 理論的な回答ですね。

 

質問者

(A)

 

 財源ですが、道路課金しなくても他から財源を取ればいいわけですね。流入規制ですがこれも規制をすればいい。もう入って来ないでくださいということなんですね。それは当然1つだけではないと思いますが3つともするというのが目的かもしれませんが、その辺りがハッキリとわかりません。

 

塚田氏

 

 私自身の理解では他から持ってくるという議論が本当に成り立つかどうかだと思うんですね。やはり受益と負担の原則の中で、利用した分を何らかの形で負担をするというベースがあるのであれば、私は長期的にやはり財源だと思っています。そういう理屈で財源を担保するということであって、中短期的な今やっていることはマネジメント的なことかもしれませんが、それぞれ事情によって違いますけども、長期的には直接的に財源問題、クリアな受益と負担ということではないかな、と思います。

 

太田氏

 社会的便益をどう理解するかということでしょうね。

 

根本氏

 

 関連して、「ビニエットについてご説明してください」という質問もあったのですが、今のことに関連させてお話します。まず、ビニエットというのは「ステッカー」のことで、乗用車用のステッカーと大型車用のステッカーがありますけれども、1日単位1月単位1年単位で道路を利用する権利をステッカーを買うことによって得るわけです。それはヨーロッパでもビニエットを買って貼っておくということでしたが、沢山乗る人とちょっとしか乗らない人がいて、本来ビニエットが安いものなので、ちゃんと乗った距離に応じて払ってもらわないと大変、特に大型車は、ということになってきました。それで、北ヨーロッパ中心にビニエットは対距離課金にどんどん変わっていった。財源調達をする時にどんな人に負担してもらうのが一番いいのか、という流れの中でビニエットが対距離課金に変わっていった。乗用車の場合は技術的に難しいということでビニエットがあり対距離課金になっていませんが、大型車については出来るのでどんどん変更していっている。財源調達ですがそれは払うべき人が払う、という原則の中で出てきているということです。

 

太田氏

 その他の点で、会場から何かございますか。

 

質問者

(B)

 

 道路課金の議論を財源調達という観点から議論を始めるのは得策ではないというか邪道ではないかと思っております。交通マネジメントの観点で全て説明がつくと思います。都市交通市場の中でただ乗りというか、社会的な費用の負担をしていない人に対して、原因者負担ということで負担してもらう、そしてそういうバランスを回復した上で人々が交通手段の選択を一番最適なものに誘導していくのが目的だと思うんです。今、道路財源がなくなってきたから代替策として道路課金を考えるという説明の仕方は少なくともまずい。道路財源が潤沢だったから余分なものを作ったのではないかという批判が一番大きい。それが原因で今こういう状態がおこってきている。そういう意見に対して注意しながら議論を進める必要があると思うので、最初の森川先生の説明が非常によくわかってスッキリして私もよくわかったんですが、インフラ料金とマネジメント料金を分けておられる。そのインフラ料金の中に維持更新費用はいいですが、新設というのが入っている。この新設に関しては議論が非常に複雑だと思うんですね。これは原因者負担の理屈で説明がつくのかという問題がある。道路の新設費用にも使いますよ、という話はこの際除外しておいた方がいいのではないでしょうか。道路新設の費用財源としては別途のものを使うべきではないかと議論を展開した方がいいんではないかと思います。

 

太田氏

 ご意見ということですね。新設がどの程度必要なのかという判断ですね。
その他ご質問ございませんか。それでは最後に一言ずついただけますでしょうか。

 

森川氏

 

 今の太田先生の一言につきるのかなと思います。先程の質問者(A)の方のご質問と同じかと思いますが、交通便益最大化のために、そこにたまたま道路を新設した方がいいようであれば新設にも使った方がいいし、適切に維持管理しなくてはいけない道路には使うべきだし、それ以外に渋滞のマネジメント、TDMにも。
総合的中期的に便益が最大になるようなものが道路課金のあり方だという言い方では、新設はだめでしょうか。確かに政治的には新設を入れると誤解を招くところもありますが、日本の道路のネットワークは完成していないという観点から見ますと、新設の道路も含めて中期的な交通の便益のために使ってはどうかと思います。

 

塚田氏

 

 欧米の紹介を差し上げましたけれども、様々な問題意識をそれぞれの国が持ちながらやっています。我が国も色んな見方を持っていくべきだと思います。アメリカの例だと、州政府や都市がかなりチャレンジングな展開をしています。具体的に企画をし、具体的なアクションに起こして、どういうことが起こるかということを実証的にやっていますので、もっと注視すべきだと思います。10年後20年後はこれまでの状態とは変わってくることは十分想定できます。来年再来年ではなく、10年後20年後の状況を想定すると、やっぱり考えなければならないことが多くある、ということは是非ご理解頂きながら、色んな例を見ながらもう少し議論していけばよいかなと思います。

 

野口氏

 

 日本で道路課金を実施しようとした場合、対象とする道路はどうなるのか。今の課金は有料道路、高速道路だけですけれども、都市間の幹線道路や国道で最初は大型車かと思いますが課金した場合とか、色々都市内の道路に適用した場合にどうなるか、ということで非常に課題が多いのですが、ヨーロッパではどちらかと言えば自動車専用道路、1級国道と結構条件のよい道路が多いのですが、逆にシンガポールは都市内に色んな道路があります。その両方でのいろんな実験をしている中で日本の道路にどう適応するか、適用できるのか、もしくは日本独自の何かを考えなければならないだろうか、そのような辺りを検討しながらあと10年先に出来ればいいなと思いながら、そのような技術的な観点から色々検討を進めたいと思います。

 

堀池氏

 

 京都市では先程から申し上げている通り、課金の目的は財源でないと思っております。これほどコストがかかる財源がいいのだろうかと個人的に疑問を感じておりまして、やはり交通マネジメント、流入抑制に突っ込んだ社会的な面でないとなかなか市民的な理解も得られないと思っております。それから質問をいただいておりまして、先程私が申しました、観光地などで公共交通利用者の方がお買い物を沢山されるのではないかと申しましたが、「お土産の運搬があると車の方が便利だし駐車場の利用もあるので必ずしもそうではないではないか」とご指摘いただいたんですが、先程ご紹介いたしました京都の目抜き通り四条通りの車線を減らそうとしております。普通であれば商店街の方から反対されそうなものですが、商店街の方が1日でも早く実現してほしいと。ということはその方が売上げが上がると期待されている、経験的にそう思ってらっしゃるのだと思います。また、嵐山では秋の観光シーズンにはメインストリートへの車の進入を完全に禁止しております。これも商店街の方々が非常に歓迎しておられます。やはりその方が売上げが上がるということを経験的にわかってらっしゃるということで、確かに道路管理するのも準備も非常に難しいですが、何かひとつの光があるのではないかなと思っておりまして、引き続き検討してまいりたいと思っております。

 

根本氏

 

 交通マネジメントのための課金なのか、財源調達のための課金なのかということは短期的には対立概念のようにとらえられているわけですけれども、長期的には両方一緒に出来るのではないかと思っております。と言いますのも今例えばインフラが一定量ある、これは変えられないという前提ですと混んでいたら混雑料金で流入を抑制しましょうと、空いていれば、出来るだけ安くして使ってもらいましょうということになると思うのですが、長期的なスパンで考えて、インフラのボリュームを変えられるとすれば、今混んでいるということは足りないわけですから混雑料金を取って道路でなくても他の交通機関でもいいので、とにかくインフラの容量を増やしていく。長期的にそれは財源となる。もし、空いているとします。3本橋があるのに空いている、どんどん使ってもらいましょうとなる。だけれども3本が多いのですから、1本は橋の耐久年数が来たら減らしてもいいんです。要するに財源調達ということと交通マネジメントということは長期的なスパンで考えると矛盾しないと思うんですね。結局、人々が利用する、支払ってもいい、というモノは利用しながら交通システムを改善していくということになる、という意味では財源調達は絶対捨てられない、という風に思います。

 

太田氏

 

 ありがとうございます。議論は尽きないと思いますが、少なくともこのようなロードプライシングという一つの視点を意識して議論しても、長期的に考えると道路財源にも現在の制度では限界があるということ。その時の選択肢の一つとしてかなり有力なものとして、技術の面ではどんどん可能性が出てきますが、今後はそれを通してどういう交通社会が望ましいか、そういったビジョンの中で、もう少しロードプライシングの議論を深める必要があるかと思います。
今日は長い時間にわたりまして、少なくとも日本ではまだ十分検討がされてないロードプライシングについて、海外では色んな進展があって、地域や国で違うスタイルの中で使われている、ということがご理解いただけたのではと思います。今後ともこういった問題についても議論を深めていただければと思います。今日は長い時間どうもありがとうございました。

 

 

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