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道路課金シンポジウム


道路課金シンポジウム>問題提起3 堀池氏


 

問題提起3

堀池雅彦氏

堀池 雅彦
京都市交通政策監

「 「歩くまち・京都」の推進について 」

 

はじめに

「歩くまち・京都」の推進について

 京都市で交通政策を担当しております、堀池と申します、どうぞよろしくお願いいたします。私の方からは京都市が進めております交通政策の基本的な考え方である、「歩くまち・京都」と、その幾つかの具体的な取組、そして最後に道路課金に対する考え方をお話したいと思っています。

「歩くまち・京都」は、何を目指すのか

「歩くまち・京都」は、何を目指すのか?

 京都市の交通政策の基本「歩くまち・京都」ということですがこれが何を目指すのか、ということです。二通りの考え方が交通まちづくりにはあると思うのですが、一つはクルマ依存型のまちづくり、もう一つは人と公共交通優先型のまちづくり、ということでございます。京都市はこの後者の「人と公共交通優先型」のまちを作っていこうということで今、取り組んでおります。クルマ依存型ということになりますと、日本はモータリゼーション進展で経済発展を成し遂げましたが、便利な生活を手に入れた一方でやはり失うものも沢山あったのではないかと思っております。したがいまして人と公共交通優先型のまちをつくっていくことによって、マイカーを抑制し、公共交通を優先していくということで、まちに多くの人が集まって賑わいを生み出す、そういう持続可能な都市として発展をしていきたいということを考えております。

「歩くまち・京都」憲章

「歩くまち・京都」憲章1

 

「歩くまち・京都」憲章2

 そしてそのために京都市の方で2年前に、「歩くまち・京都」憲章というものを制定しております。これは市民、あるいは行政の決意ということを文章にしたものですが、市民の皆様の約1割、14,700人の方を対象としたアンケート調査、各種の審議会、検討部会、あるいはシンポジウム等々で議論を重ねて制定したものでございます。この「歩くまち・京都」憲章ですが、京都というのは非常に長い歴史の中で先人の方から受け継いだ歴史、伝統を大事に守りながら、誰もが安心して快適に歩くことが出来るまちをつくりあげてきた、ということです。やはり、クルマがなかった時代というのは、例えば子どもたちは道で辻遊びをしたり、人々も立ち止まって会話をする、といった人々がふれあう場であったと思います。そういった意味で京都にふさわしい移動の方向はクルマではなく、歩くことであります。クルマではなく人が主役のまちをつくっていこうと制定したのが「歩くまち・京都」憲章でございます。具体的な憲章の文章ですけれども、ここに書かれています通り、

「歩くまち・京都」憲章3

「わたしたちの京都では、市民一人ひとりは、1つ、健康で、人と環境にやさしい、歩いて楽しい暮らしを大切にします。そして、市民と行政が一体となって、1つ、だれも歩いて出かけたくなる道路空間と公共交通を整え、賑わいあるまちを創ります。1つ、京都を訪れるすべての人が、歩く魅力を満喫できるようにします。」

 こういった内容の憲章を定めまして、市民の皆様にも読み上げてこれを行動の規範にしていただこうとしております。また行政もこれに基づいた施策を展開していこうと、いうことで現在取り組んでいるところでございます。

「歩くまち・京都」総合交通戦略の目標と策定

「歩くまち・京都」総合交通戦略の目標

 そしてこの「歩くまち・京都」ということを実現するために基本計画を作っておりまして、それが「歩くまち・京都」総合交通戦略というものでございます。これについては後ほど申し上げますが、この中でどういった状態になるとこの施策が実現するのか、ということで数値目標を掲げておりますが、その数値目標として、色々な資料の到達度や効果のはかり方があると思いますが、それを全て包括し、京都の自動車の分担率は現状で28%ですが、それを20%以下にしていこうということを数値目標としてあげております。そして基本計画である「歩くまち・京都」総合交通戦略ですが、これには88の具体的な実施プロジェクトを掲げております。

「歩くまち・京都」総合交通戦略の策定

 本日、全て紹介はできませんが、そのうちいくつかを紹介したいと思います。計画の基本的な考え方に3つ柱がございます。1つが「既存公共交通」の取組、既にある鉄道、バスを徹底的に使いやすいものにしていこうという取組、それから右側の「まちづくり」の取組。歩行者優先のまちをつくっていくための取組。それから下にございます「ライフスタイル」の取組。ということで、クルマ中心から歩くことを中心とした暮らしを大切にするような、ライフスタイルの取組。この3つをそれぞれの柱を連携させながら施策を進めていく、という考え方でございます。

「歩くまち・京都」への取組

「歩くまち・京都」への取組「既存公共交通」

 その88のプロジェクトの1つは「既存公共交通」を徹底的に便利にしていこうという取組でございます。京都市の西、洛西地域というところがございますが、その地域でバスダイヤの改正という取組をいたしました。鉄道で言いますと阪急桂駅から西側、バスで行きますと洛西ニュータウン、桂坂といった住宅地がございます。そういったところに分布するバス路線がございます。これについて複数のバス事業者が阪急桂駅から洛西・桂坂を通るバス路線を走らせていますが、これまでバスダイヤは鉄道とうまく接続しておりませんでした。京都市が呼びかけまして、洛西ワーキングという会議を設置して検討し、その中でバス事業者の方に調整いただきましてダイヤを改正しております。阪急電車とうまく接続できるように10分おきのダイヤ、いわゆるパターンダイヤを設定することにいたしました。その結果、ダイヤ改正前とダイヤ改正後で、お客様の数が8%増えたという結果が出ておりまして、やはり公共交通というのは使いやすくするとお客様に乗っていただけるという一つの事例だったと思っております。右側の写真にございますのは、京都フリーパスと言いまして、JR、私鉄、バス、京都に乗り入れている全ての公共交通が乗り放題になるチケットでございます。このような便利なチケットも発行したりしております。

「歩くまち・京都」への取組「ライフスタイル」

 それから次に、「ライフスタイル」の取組、ということで、これもいくつか事例を紹介いたしますが、やはりいくら公共交通を便利にしても市民や観光客の皆様が今まで通りにクルマを使い続けられると、なかなか「歩くまち・京都」の実現は難しいということで、歩くことを中心としたライフスタイルを呼びかけていく、いわゆるモビリティ・マネジメントを大規模に展開しております。様々な階層に対して取組をしておりますけれども、ここで書いておりますのは市民しんぶんを活用したMM、あるいはラジオを活用したMM等で効果層を絞りまして、年間140万トリップの自動車削減、CO2の削減効果としては年間3,700トンというような結果も出ております。

「歩くまち・京都」への取組「まちづくり」

 それから次に、「まちづくり」の取組として、これはハード系の取組ですけれども、ひとつ事例を紹介いたします。写真の左側、これは5年ほど前に社会実験をした時のものです。京都の中心部に東西に通っている四条通、商店街、繁華街であり、京都で最も賑わっているところのひとつでありますこの四条通を、公共交通優先化していこうと、そして車線を減らして歩道を広げようという取組を現在進めております。こういったハード系のまちづくりも人と公共交通を優先した考えのもとで進めていっている、というところでございます。

観光地の現状

観光地の現状

 観光地での取組を少し紹介いたします。京都を代表する観光地として、嵐山という非常に風光明媚なエリアがあります。ここに春秋の観光シーズンに移動する場合、例えばJR京都からJR嵐山までクルマで行こうとすると1時間以上かかります。場合によっては3時間ぐらいかかるような状態もございます。ところが電車で行くと16分で着くということで、やはり、観光客の方には出来るだけ公共交通で来ていただくことを推奨しております。それと併せてパークアンドライドという事業に取り組んでおります。このスライドにはございませんけれども、市内の中心部、あるいは観光地には鉄道駅がありますので、その手前でクルマを駐車場に停めてもらい、そこからは公共交通を使って移動していただくということで、駐車場を確保しております。特に秋は観光のピークですので京都市が直営で京都市が持っている施設、あるいは国の施設をお借りしたり、民間の工場等の駐車場をお借りしまして、休日にパークアンドライドの駐車場を京都市に設けております。あるいはこれからは秋だけでなく、1年間を通じて民間の駐車場のご協力をいただいてパークアンドライドを進めております。ちなみに京都市が直営で運営している駐車場の台数は760台ほどございまして、ご協力いただいている民間の駐車場が約5,000台ほどございます。かなりの量が増えてきているという現状でございます。

まちなかの現状

まちなかの現状

 次に都心部、まちなかの現状でございますけれども、先程も申しました京都の中心部の繁華街であります四条通、ここの事例を改めて紹介させていただきます。右側の写真が現在の四条通の混雑している様子、クルマであふれかえっている状況でございます。四条通につきましては総幅員が22mございまして、現状、歩道が両側3.5mずつ7mございます。車道については15mに4車線とっております。そして現在7mの歩道に7,000名の歩行者の交通がございます。一方、15mの幅員の車道に2,200人というデータがございまして、非常にアンバランスな状態になっていることから、先程申しましたようにこの車線を4車線から2車線に減らして歩道を広げようという事業を、この1月に都市計画決定いたしました。今年度詳細設計いたしまして、来年度あたりに工事に取りかかって、平成26年度完成をしたいと思っております。ちなみに2車線になった場合の歩道の広さですが、現在、片側3.5mのところが一番狭いところでも5.25mくらいになります。バス停につきましてそこはさらに歩道が広くなります。そういった事業でございます。おそらくこういった幹線道路といいますか、目抜き通りで車道を減らして歩道を広げる、という事例は非常に珍しいのではないかと思います。これまで渋滞が起これば、それを解消するために車道を広げようということでしたが、全くそれとは逆の方向性で検討に出るというところでございます。

ロードプライシングの検討

ロードプライシングの検討

 そういった取組をしているわけですけれども、今日のテーマである道路課金について、少し私の方の考え方を申し述べたいと思っております。

 先程から申しておりますように京都市では、人と公共交通優先のまちづくりを進めているということで、クルマの流入抑制ということが非常に大きな課題であると認識しております。そのためにどうやって流入を抑制していくのか、ソフトな施策としてのモビリティ・マネジメントのような施策から交通管理者による交通規制のような施策まで幅広くあると思いますが、ちょうどこの道路課金、交通課金が、その中間的・経済的な規制施策として非常に流入抑制に向けて効果的な可能性もあると思っております。先程ご紹介した、総合交通戦略の中でもこのロードプライシングというものを取り入れる可能性を検討していくということが位置付けられていますので、京都市の方では今年度にロードプライシングを研究するための研究会を立ち上げたいと思っております。その研究会の中で専門家の先生方などからに様々な議論をしていただきまして出来れば、来年度、もしくは再来年度あたりにどこかのエリアで社会実験をしたいと思っております。具体的な内容はその研究会で今後検討していくことになりますけれども、やはり私が思いますのは優れた手法である可能性がある一方で課題も大きいかと思っております。制度上の課題もありますが、住民、市民の方の理解が得られるかどうかということが一番の大きな課題ではないかと思っています。住民の方、あるいは事業者、商業者の方、といった利害関係者の理解が得られるのかどうか、とういうところが一番大きく、そのためには、目的を明確にするということが非常に大事ではないかと思っております。何のためにこの道路課金をしていくのか、ということが非常に重要であり、さらにはそこで得られた収入をどのように使っていくのか、ということも当然大事なことだと思っております。研究会で今後検討していきますが、私の個人的な考えといたしましては、道路の維持管理のための財源を確保するということではなく、あくまで混雑の解消、それによる駐車課金や便益を高めていくというところが目的ではないかと思っております。得られた収入、これは多ければ多いほど良いのではなく、むしろ少ない方が京都市では評価すべきではないかと思っていますが、そこで得られた収入は道路の維持管理というよりは1台の公共交通を便利にするために使う、あるいはエリア内の自然景観を補填するために使う、文化財保護のために使う、さらには防災の為に使う、使途についてはその地域別にあった形で考える方が良いのではないかと考えています。この道路課金によってクルマの流入を抑制することによって、商店街の賑わいが生まれる、あるいは希薄化したコミュニティが活性化する、さらには大気汚染等の環境問題にも貢献する、人々の健康にも影響を与える、そういったプラス面が期待できると考えます。それから住民の理解を得るために今年度京都市で取り組もうとしているのはエリア毎に歩行者の方に調査をしようと考えています。かなり大規模に行おうと考えていて、都心の商店街、あるいは観光地の商店街、周辺地の商店街等々で、歩行者にヒアリング調査を行い、市民、観光客含めて、そこまでの交通手段と買い物をどれだけされたかを調査しようとしております。我々の仮説では、おそらく公共交通利用者の方が買い物を沢山されている結果ではないか、と思っています。そういうデータをもって、道路課金の有効性を市民の方に説明していくのは非常に大事ではないかと考えています。

おわりに

 

 

 そういうことで、京都市の方では、道路維持管理というよりは少し違う目的で道路課金の検討をこれからも進めて行きたいと考えております。

 私からの説明は以上でございます。ご静聴ありがとうございました。

 

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