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道路課金シンポジウム


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問題提起2

野口直志氏

野口 直志 氏
三菱重工株式会社 交通事業部

「 道路課金の技術動向とシンガポールでの実験 」

 

はじめに

道路課金の技術動向とシンガポールでの実験

 

(目次)

 三菱重工の野口でございます。今日は森川先生、塚田さんの講演は交通工学、交通経済の見地からの道路課金についてのお話でしたが、私の方からは特に技術的な見地から道路課金に関する技術と標準化について、現在行われているシンガポールでの実験の概要も含めてお話いたします。

道路課金の技術

道路課金の技術

  まず、道路課金の技術ということで、一口で道路課金と言いましても様々な種類がございまして今までのお話でもインフラ課金などありましたが、よく知られているのが有料道路課金のETCです。それから、ロンドン、シンガポール、ストックホルムでやっています都市内渋滞課金で、これは課金することで交通量を抑制する、いわゆるマネジメント課金です。それから、ドイツ、オーストリア、チェコなどでやっています重量車に対する課金、一部オランダで実験されていた将来の道路課金の形となると思われる道路利用課金です。

 道路課金の技術としては日本のETCでも採用されておりますDSRC方式、ドイツで使われているGPS測位による自律方式があります。自律方式というのがISOで使われている名称です。

道路課金の技術−DSRC方式EFC

 

道路課金の技術−自律方式EFC

 DSRC方式EFCですが、EFCはElectronic Fee CollectionということでETCとか電子的に課金するサービスを包括的に呼んでいます。日本で導入されているETCもDSRC方式です。各料金所にこのような専用アンテナがあって通信するもの、それとは別に本線上に課金ガントリーを設置し通過する車に対してノンストップで課金を行うものの、大きく2つあります。次に、自律方式EFCですが、基本的に課金を行うガントリーのようなものはございません。車載器の方に道路地図データを内臓しGPSの信号を基に自分の車の走行位置をトラッキングします。車載器は仮想課金ポイントとなるインターチェンジ間のセクションを通過すると課金します。先程のチェコの例ではここにガントリーがたっていたんですがガントリーがないので仮想ガントリーと呼んでいますが、GPSの信号を受けながら車載器で仮想課金ポイントを通過したと認識するとそのデータをセルラー通信網を使ってセンターに通知をする。これが自律方式EFCでございます。

道路課金の技術−EFC方式比較

 次に両方式を比較して、大きく違うところをご説明いたします。課金の精度ですが、DSRC方式は非常に高い精度で99.9%〜99.999%と1000台に1台から10000台に1台ほどのエラー、かたや自律方式はなかなかデータが公表されていないのですが、ドイツでは99.9%、スロバキアでは99.5%とDSRC方式に比べると低い精度になっています。課金ポイントの追加ですが、DSRC方式はどうしてもアンテナ設置が必要になるので、路側機の設置が必要となります。一方、自律方式は地図データの更新ですとか、課金パラメーターの更新のみで対応できます。適応道路の形状ですが、DSRC方式はどちらかというと線形で比較的単純なネットワークに適応、自律方式は複雑な道路、面状になっているところに適応します。車載器の価格は、DSRC方式は数千円ほどから1万円ほどですが、自律方式は地図データやGPS受信機等を内蔵しているのではっきりとした数字は不明ですが数万円はします。車載器の入手方法で大きく違うのは、欧州では車載器は貸与される点です。

欧州における重量車課金の導入状況

欧州におけるEETSと車載器(例)

 次は、欧州における重量車課金の導入状況ですが、オーストリア、チェコ、ポーランドでDSRC方式を導入しています。自律方式を導入しているのはドイツ、スロバキアの2ヵ国ですが、来年フランスではエコ・タクスという名称で重量車課金システムが導入される予定です。その他にデンマーク、スロベニア、スウェーデンでも導入が予定されています。

 欧州では国によってDSRC方式と自律方式、両方の方式を運用しているのですが、国によって車載器を付け替えなければならなくなるという非常に煩雑でコストのかかる問題がございます。グローバリズムのために一台の車載器で欧州域すべての道路で課金を出来るようにする欧州指令と欧州決定が公布され、必要な制度面での整備ができました。2012年10月より3.5t以上の大型車両に対して、2018年から一般車両に対しても課金サービスを実施予定ですが遅れています。

道路課金技術の標準化

道路課金技術の標準化

 道路課金技術の標準化ですが、ITSの標準化作業はISO/TC204で行われていて、その中でもWG5で道路課金関連の標準化作業が行われています。DSRC方式の標準化作業は1993年より行われ、2000年には主要項目は制定されました。一方、自律方式は歴史が長いのですが、1995年ドイツ・アウトバーンにて実証実験が行われ、1997年の標準化作業開始から10年後の2007年に制定されました。後ほど、自律方式の基本標準であるISO17575について若干ご説明したいと思います。

道路課金技術の標準化−ISO/TC204の構成

道路課金技術の標準化−WG5の概要

道路課金技術の標準化−WG5の標準化項目

 続きまして、ISO/TC204の構成ですが、WG1のシステム構成分科会からWG18の協調システム分科会までのワーキングがありまして、私が所属しておりますのはWG5料金徴収分科会です。WG5は、21ヵ国から47人にエキスパートが登録されており年に4回開催されております。アジア地域からは中国と日本と韓国が登録されていますが、中国からの参加は今はほとんどありません。WG5の国内の分科会では、特別顧問として根本先生に参加いただいております。WG5の標準化項目には、DSRC方式と自律方式、それと共通項目がありまして、ここにISO17575の項目があります。

 

道路課金技術の標準化−ISO/TC17575の概要_1

 

道路課金技術の標準化−ISO/TC17575の概要_2

 

道路課金技術の標準化−セクション課金の実例(スロバキア)

 次に、ISO17575についてお話しします。この標準は、自律型EFCにおけるセルラー通信で交換されるデータ構造、データ要素等を定義するものです。その中の一つとしまして、課金対象道路の定義法について二つ例を出して説明したいと思います。まず課金対象道路をどうするかですが、課金対象がセクション課金の場合は、スタートポイントとエンドポイント、インターメディエットポイントこの3つで定義します。もう一つの課金対象がコードンの場合は、コードンID、コードンの構成ポイントシーケンスを定義します。次に課金額をどのように決定するかですが、一つはTime class(課金される日時を定義)、Vehicle class(車種)、User class(利用者の契約タイプを定義する)、Location class(課金領域)、こういったパラメーターを関数としています。スロバキアのセクション課金では、セクションのスタートポイントに直径10mの円が描いてあり、これはGPSの受信エラーを許容するゾーンです。この中に測位信号が受信出来たらセクション上を通過したと見なされます。

シンガポールの道路課金

シンガポールの道路課金

 次にシンガポールの道路課金です。もともと1975年よりステッカーによる課金システムを導入しました。その後、1994年にDSRC方式による道路課金の評価試験が行われ、1998年より運用開始され現在に至っています。その次のステップとしまして、今年の5月に自律方式のトライアル実験が行われています。

シンガポールの道路課金−第一期道路課金(ALS)

 第一期道路課金(ALS = Area Licence Scheme)では、ステッカーを事前に購入し車のフロントガラスの見えるところに貼って、それを監視員が目視でチェックしていました。第二期道路課金(ERP = Electronic Road Pricing)はDSRC方式で、車種、時刻による課金を行います。課金ルールはいろんな交通の統計データを基に四半期毎に料金改定されています。導入効果は、ALS導入による1994年の混雑時交通流入量は75%減少、ERP導入時はそれほどではないですが20数%減っています。

シンガポールの道路課金−第二期道路課金(ERP)

第二期道路課金−ERP課金ポイントの設置

第二期道路課金−ALS/ERPの導入効果

次世代ERP(ERP-2)

次世代ERP(ERP-2)−トライアル実験

次世代ERP(ERP-2)−課金の種類

次世代ERP(ERP-2)−技術的課題

次世代ERP(ERP-2)−GPS測位誤差

次世代ERP(ERP-2)−GPS測位の補正手段1

次世代ERP(ERP-2)−GPS測位の補正手段2

 次に、現在実験されている次世代ERPですが、顧客でありますシンガポール陸上交通庁(LTA)からは、市内に設置されている課金ガントリが景観を損ねるので廃止したい、という要望がでました。それと、課金エリアを全国に展開したい、GPSとセルラー通信を課金以外のサービスにも使いたい、という構想があります。現在、4つのグループが参加してトライアル実験をやっており、今年11月まで実施予定です。技術的課題としましては、高層ビル街がありますので、ビルの陰や反射でGPS信号が受信できないこと、トンネル内でも課金をするということ、これらは大きな問題です。それとGPSチップの評価試験のデータですが、チップでも色々精度にばらつきがあります。対応手段として、一つはカーナビ等で使用されている手段、推測航法というものを利用しています。データをもらい、その位置を補正していくというものです。あまりに長距離のトンネルが続くと限界がありますが。もう一つはマップマッチングです。推測航法でもかなり実際の道路からはずれていますので、これと地図をマッチングさせてよりよい精度を取るようにしております。

日本の道路課金への課題

日本における道路課金

日本における道路課金とITSサービス

道路課金等への対応車載器(案)

 日本における道路課金ですが、今後の有料道路でのETCの継続、大型車に対する道路課金の検討、この二つに関してどう技術的な対応をしていくかが課題と思われます。今後は、課金の広がりと課金以外のサービスの展開、ITSスポットなどETC以外のサービスの展開も必要ではないでしょうか。課金対象道路が都市間道路、都市内道路、その他道路と広がっていくと想定すると、現在、有料道路だけでも5000台近くの課金用DSRC路側アンテナが設置されていると思いますが、一般道路までに展開すると4万台5万台、交通信号と同じかそれ以上の台数となります。これはコスト的に大変なので、GPSを使った自律方式が有効かと思います。これに対応する一つの車載器のモデルとして、現在のDSRC方式の車載器に外部ユニットを接続することでDSRC方式も自律型も対応できる。これが今想定できるモデルですが、最終的には一体型になるだろう、と想定されます。

おわりに

まとめ

 世界的な動向として、道路課金を導入する計画が進行しています。日本においてもいろんな財源としての道路課金の検討が必要であって、そのためにも、交通経済、道路政策、税制度、技術等の各界メンバーを交えた研究会が必要ではないでしょうか。今後、日本での最適な課金システムを想定して、必要となるISO標準を提案していきたいと思っています。以上です。

 

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