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道路課金シンポジウム


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問題提起1

塚田幸広氏

塚田 幸広 氏
国土交通省 国土技術政策総合研究所

「 欧米の道路課金の現状と動向 」

 

はじめに

欧米の道路課金の現状と動向

欧州の道路課金制度の動き

塚田でございます。よろしくお願いいたします。本日は欧州と米国の道路課金についてお話します。
本日の発表内容は、私と公共計画研究所の今西さんが東京会場で発表した内容の合作ですので、連名にさせていただきました。

大型車課金の種類と実施国

大型車課金の種類と実施国−対時間課金(ビニエット)

 まず、欧州の「大型車課金」についてです。欧州の大型車課金はいくつかの経緯を経て、今に至っていますが、まず大型車課金の種類とそれを実施している国についてお話します。まず代表的な方法として「対時間課金」がございます。後述しますEC指令によって課金が可能になったことで、デンマークなどの北欧やベネルクスを中心として、対時間課金が行われています。日、週、月、年といった単位でビニエットを購入する方法で、課金制度の慣例化をはかっています。

大型車課金の種類と実施国−対距離課金

 ドイツではトラック課金がかなり先駆的に行われています。本日の大きなポイントとなっている「対距離課金」ですが、GPS等で走行距離を計測してそれに対して課金しています。対距離課金はドイツ、オーストリア、スイス、チェコなどで行われています。課金の根拠は色々いわれているところですが、東欧やロシアなど様々な方面から国内を通過する大型車が多く、自国におけるインフラの損傷を誰が補っていくのかという問題があって、公平にトラックを対象に課金していきましょう、という動きになりました。

大型車課金に関するEC指令

大型車課金に関するEC指令

大型車課金に関するEC指令−EC指令2011年改定の要点

大型車課金に関するEC指令−課金額

大型車課金に関するEC指令−環境課金額

大型車課金に関するEC指令−課金額

 ECではEC指令が大型車課金の根拠となって制度設計が行われていますが、これは非常に大事なことだと思います。まず、1999年のEC指令で、インフラに関する費用を通行料として大型車に課金することを可能にしました。さらにEC指令2011年改訂では、インフラ費用に加えて環境費用・外部費用の課金も可能にしました。インフラ費用に加えて、大気汚染や騒音に関する費用の回収が可能になったということです。混雑は案としてはありましたが、結果的にはとりいれられず、大気汚染、騒音といった直接的な外部費用を回収することになっています。

 インフラに対する費用、環境に対する費用とも、それぞれ車両のクラスによってユーロセントが決まっています。例えば郊外道路だと、台キロあたり大気汚染で何ユーロセント、騒音で何ユーロセントといったように加算していきます。様々な仮定を含みますが、日本の大型車相当の課金額を概算しますと、1km走行当たりの円換算金額は、インフラ費用として18.5円、大気汚染費用として4.4円、騒音費用として2.2円、合わせると25円程度になります。混雑費用を加算しないのでだいたいこのくらいになります。今の日本の高速道路の料金水準だと41円ぐらいですから、混雑費用をどのように加算するかによって変わりますが、だいたいこれくらいの相場だと思ってもらったらよろしいかと思います。

大型車課金の目的と実施事例

大型車課金の目的と実施事例−課金の目的

 次に道路課金の目的、課金を何に使えるかということですが、ドイツ、スイス、オーストリア、チェコそれぞれで課金目的が違います。スイスですとトンネルなど鉄道の整備費用にも使えたり様々です。また、フランスでは、検討中のところで、あまり詳しくはお話しできませんが、「エコ・タクス」ということで、これから大型車を中心とした対距離課金制度が具体的に動き出すようですので、我々も注視していかなければならないと思っています。

大型車課金の目的と実施事例−ドイツ_1

大型車課金の目的と実施事例−ドイツ_2

 ドイツでは当初アウトバーンへの課金を行なっていましたが、課金のない道路へ迂回・回り道をするというのは自然な流れかと思いますが、アウトバーンを避ける交通への対応ということで、順次一部の連邦道路にも課金を広げていく動きもみられます。日本でいいますと一般道――生活道路とまではいかないですが――に大型車が入ることを避けることも考えられているということです。

大型車課金の目的と実施事例−スイス_1

 次にスイスですが、スイスもドイツと同じように通過交通が多い中で、国民からの不満も解消するための課金になっています。車載器で走行距離を記録し国境の税関ゲート通過時に課金します。車載機には多くの費用がかかり、その普及が課題となるわけですが、ある程度以上の大型車ならこれを義務づけるということも乗用車に比べると容易なのではないかと思います。

米国における道路課金の現状と経緯

米国における道路課金の現状と動向

 

米国の道路課金の経緯

 次にアメリカです。アメリカには様々な道路の特定財源がありますが、1980年代前半には「荒廃するアメリカ」とよばれるように、インフラがかなり傷んで、それを修復する財源もない状況に陥りました。これをどうすべきか、ということで、1992年からISTEA(Intermodal Surface Transportation Efficiency Act)が実施され、この頃から道路関係財源が右肩上がりに伸びていきました。ISTEAでは1年あたり259億ドルの財源がありました。本日説明しますHOTレーンがいくつかの州で試行的に展開された時期にあたります。HOTレーンは1995年にカリフォルニア州オレンジ郡SR91でスタートしました。ISTEAの後継となる1998年からのTEA21では、全国にValue Pricing Pilot Programが展開されました。その後2005年にはSAFETEA-LUが成立しますが、将来的には有料道路やHOTレーンなど、中長期的な財源の安定化を目的として、対距離課金のような試行をすべきであるという委員会報告がされ、それを受けたかたちでいくつかのところでパイッロットプロジェクト、実験をしているという状況になっています。

 最近の情報では、SAFETEA-LUの次の予算財源としてMAP21が成立いたしました。年間で525億ドルの規模になっています。これには対距離課金については明確には書かれていないので不透明なところではありますが、対距離課金の様々な試行はされると思います。

主として渋滞緩和のための課金(レーン管理)

主として渋滞緩和のための課金

 

課金、車種別コントロール、流入制限の戦略を柔軟に組合せレーンをマネジメント

 

交通量の増加に伴い、レーン管理の運用のハードルを高める可能性大

 

米国におけるValue Pricing Pilot Program

 アメリカでは渋滞マネジメントとしての課金ということで、レーン管理が行われています。1つはHOVレーンで複数の人間が乗車していれば無料というレーンです。それから1人でもいいから料金を払いなさいというHOTレーンがあります。それから料金変動を伴うバリュープライシングです。後ほどご紹介しますが、アメリカの会計検査院GAOから2012年1月にバリュープライシングの総括的な評価・効果に関するレポートが出されました。

 管理レーンにはシンプルな課金や流入制限などから、これら戦略を複数組み合わせた多面的、複雑なものがありますが、HOTレーンなどの課金も位置づけられます。また、当初は1人であれば有料で、2人以上の車両やバスが無料になるHOVレーンですが、だんだん混んでくると2人乗りでも少し料金をとらないといけないような状況になってくるというような課金も考えられます。こういうことですので、便益の評価も必要になってきます。図にGAOの報告のバリュープライシングのパイロットプログラムの場所を示していますが、カリフォルニア、ワシントン、フロリダ、テキサスなど朝夕の混雑がシビアなところで時間帯や混雑レベルに基づいたHOTレーンなどの取組が重点的に進んでいます。

シアトルでの課金実験1

 

 

 ワシントン州シアトルの課金実験です。図中の黄色とオレンジ部分が課金対象エリアになっています。図中のグリーンの道路フリーウエイを通るとトランスポンダーによって料金が加算されるシステムです。月曜から金曜までと、土日の料金が差別化されています。ピーク時間をずらしてくださいということと、曜日でルートを変えるとメリットがありますよ、ということになっています。

時間帯別固定料金:カリフォルニアオレンジ郡1

時間帯別固定料金:カリフォルニアオレンジ郡2

時間帯別固定料金:カリフォルニアオレンジ郡3

カリフォルニア州サンディエゴ 運用当時

カリフォルニア州サンディエゴ:I-15 Express Laneプロジェクト

カリフォルニア州サンディエゴ:I-15 Express Laneプロジェクト

カリフォルニア州サンディエゴ:I-15 Express Laneプロジェクト

米国会計検査院:道路課金プロジェクトの評価

 次にカリフォルニア州オレンジ郡R91の例です。タイムテーブルを最初に住民に配りながら、タイムテーブルの青の部分、つまり朝夕の混んでいる時間帯を避けることを意識的にアピールしながらプライシングを実施しています。それからこれはミネアポリスの例で、日本のETCの簡易版のようなものですが、トランスポンダー「MnPASS」を利用した柔軟な課金が行われています。ダイナミックプライシングで、「今、いくらですよ」という案内をして、ドライバーがそれを確認し、HOTレーンを選択するかどうかを誘導するということをしています。このように料金を提示することによって、レーンに入るもしくは出るという選択をドライバーにさせながら交通のマネジメントをしているということです。日本でも高速道路の料金割引社会実験をやりましたが、これにより一般道と高速道路の交通をマネジメントしています。最近ではダイナミックに交通を観測しながら、料金に反映させることも行われています。例えば旅行速度があるレベル以下に落ちると料金を上げる。すると需要が少なくなるわけですが、そこから旅行速度、サービス量をキープする。こういったかなりダイナミックなプライシングもいくつかの州で展開されています。ここはまさにICTのなせる技であって、ダイナミックな観測と表示によってドライバーの選択を促しています。これはサンディエゴの一番新しい例ですが、このような形で路側に料金を表示しています。サンディエゴでは最初は既存の道路空間をHOTレーン化していましたが、全体を拡幅しながらHOTレーンを変化させたのがこのI-15Express Laneの例です。可変式の中央分離装置も使いながら車線数の管理を行なっています。

ITSを活用した複数交通ネットワークの連携1

ITSを活用した複数交通ネットワークの連携2

ITSを活用した複数交通ネットワークの連携3

 次に公共交通との連携ですが、Integrated Corridor Manegementということで、ITSを活用した複数のネットワークの連携もダラスなど様々な都市で行われています。渋滞が深刻なところでは、鉄道など様々な公共交通機関とも連携したマネジメントを行うことで、もう少し「かしこいひとの移動」が出来ないかということです。

 災害時に一つのルートが途切れた時に、代替ルートを速やかに展開するようなことも考えられています。

主として財源確保のための課金(対距離料金)

主として財源確保のための課金

陸上交通インフラ資金調達委員会勧告

長期的な財源=対距離課金

 次に対距離課金の話をしたいと思います。オレゴン、ミネソタでは精力的に対距離課金が実験的に試行されています。このベースとなっているのがPaying our wayというレポートであり、SAFETEA-LUの中で資金調達委員会というものが正式に動き出したということです。財源と必要額のギャップについて予測されています。省エネ化や電気自動車への転換は環境にはよいことですが、財源面ではギャップが生じる原因になります。そうした中で一つの方向性として、当面はR&Dやデモンストレーションも進めながら、出来れば2020年頃までには本格的に対距離課金を展開すべきではないかという提言がされています。

オレゴン州GPS対距離制料金パイロットプロジェクト

オレゴンDOT対距離パイロットプログラムレポート1

オレゴンDOT対距離パイロットプログラムレポート2

オレゴン対距離課金のシステム概要1

オレゴン対距離課金のシステム概要2

 オレゴン州でも同じことを言っていまして、ハイブリッド車や電気自動車が増えると税収は減少し、電気自動車で走っても道路は損傷するので、結果として必要額とのギャップが大きくなっていきます。その分をどうやって負担するかということです。特にオレゴンはかつてからガソリン税が道路財源の大部分を占めていたため、圧倒的に減っていくという問題意識、間違いなく増える電気自動車に対応するということから、幾つかの社会実験を実施しています。ここで重要なのは、オレゴン州内を何マイル走ったか、ラッシュ時に何マイル走ったかという実験で、走行マイルに応じてお金を払うという社会実験です。この実験の特徴は、ガソリンスタンドを徴収場所としていることで、そこでトランスポンダーから走行マイルのデータが送信されて、課金するというやり方をしています。対距離課金とガソリン価格の両方を明示して、ユーザーがどちらで払うかを選択できるようにして、ユーザーの抵抗感をやわらげていることもポイントです。まだまだ議論はあるようですが特にオレゴン州では財源に対する問題意識が高く、将来はGas Taxはなくなるだろうとも言われています。まだ案の段階ですがキロあたり0.6セントの対距離課金をハイブリッド車や電気自動車に課すということも検討されています。

ミネソタ対距離課金の検討

各車種の年間の税額(州、連邦)の試算比較

ミネソタでのスマートフォンを用いた社会実験

ミネソタ・タスクフォースレポートの主な提言1

ミネソタ・タスクフォースレポートの主な提言2

 次にミネソタですがここでも同様の検討がされています。マイレージの伸びに対してガソリンの消費が減っていますが、Mileage-Based user Free Policy Task Forceというのが昨年の12月に発表されました。例えば、1年あたり普通のトラックが2万マイル走るとすると、州に280ドル、国に184ドル支払うことになりますが、これが電気自動車では全て0ドルになりますので、不公平感が高まっていくだろうということです。ここを何らかのかたちで補っていかないといけない。税収が減ることもありますが色々な面で不公平感が出ることも緩和したいということです。ミネソタは昨年、もう少し先まで展開して、スマートフォン(ギャラクシー)を車載器として、GPS機能や通信機能も使いながら実験を行なっています。車載器に関しては、今後スマートフォンの展開が見込まれており、GPS機能と通信機能があるので、何らかのソフトをダウンロードすることで様々な展開が出来るだろうということが考えられています。

 その他に参考になる例として、ワシントン、オレゴン、ミネソタ、その他12州でやっている実験があり、それぞれ特徴があります。ただ、なんだかんだ言ったところで台数としてまだ500台程度で、まだ制約の多い中で様々な検討をしているといった段階です。

プライバシーに関する議論

ミネソタ・タスクフォースレポートの注釈

 プライバシーに関する検討も行われています。色々試行しながら、まだ法律は出来ていませんが、やはり国民、住民にこういうものを根付かせていく必要があるということです。議論の中で料金収入を何に使っていくのかということで、道路に限定すべきか、公共交通施設にも広げるのか、それとももっと一般的な施設にも許すのか、という議論はやはりどの国でも同じ感じです。ユーザーのデータを利用する以上、プライバシーの議論は必要になってきます。ミネソタでは、市民自由連盟(ACLU)からGPSに対して違憲であるとの主張もされています。

オレゴン州でのプライバシー対策

 またオレゴンでもプライバシーは最終的に何らかの形でクリアしなければと考えられています。GPSは監視のイメージが強いので、それをやわらげることが考えられています。例えばメーカーが運用する走行距離通知サービスや、民間が展開するスマートフォンの様々なサービス機能が連携しながら、課金するようなことも考えられています。公平感については、不公平感をなくすためにも一律一台あたりいくらという案や、電気自動車に対していくらというような案が検討されているところです。

リーズン財団による調査(2011冬期)

 リーズン財団というところで色々なアンケート調査が行われています。少し偏ったアンケートという指摘もございますが、やはり燃料税アップということに関しては圧倒的に反対が多くなっています。税か料金かということについては、税よりも料金の方が協力的な結果となっています。

おわりに

 

 

 ヨーロッパでは大型車を対象として本格的な道路課金が運用されており、中でもフランスは今後さらなる展開を図ろうとしています。

一方、アメリカは大型車だけでなく乗用車も含めて、州の税収がかなりシリアスであるという問題に直面する中で、様々な社会実験が展開されています。HOVレーンやHOTレーンは今後もまだまだ進むと思いますので、我々も注視しデータを集めながら、日本での展開方法を検討していきたいと思います。本日はご静聴どうもありがとうございました。

 

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