人と地域にあたたかい社会システムを求めて


道路課金シンポジウム


道路課金シンポジウム>基調講演 森川氏


 

基調講演

森川高行氏

森川 高行 氏
名古屋大学大学院 環境学研究科

「 道路利用料金制度に向けて 」

 

はじめに

道路利用料金制度にむけて

 ただ今、ご紹介いただきました、名古屋大学の森川でございます。基調講演ということですがそんなたいした物でなく、今どんな問題があるのだとか、システムを変える時にはどんなことが起こるのかという問題提起をしたいと思います。3月に東京で開催されました道路課金シンポジウムで根本先生が講演をされ、これから道路のメンテナンスはどうなるのか、それに対して財源はどうなるのか、といったことが全て網羅されていますので、そういうことをお知りなられたい方は3月の根本先生の基調講演のプレゼン資料を手に入れてご覧になっていただければ、と思います。私は、今日は問題提起という形でお話したいと思います。

道路無料開放の原則

道路になぜ無料開放の原則があるのか_1

 まず、道路になぜ無料開放の原則があるのか、ということですが、どうして無料開放しなければならないのか。これから道路の公共財としての性格・性質をお話したいと思いますが、「道路は公共財ではない」ということを私は言いたいわけでして、公共財の性格が少し薄れつつある、ということをまずお話したいと思います。

 公共財のどんな性格かといいますと、まず1つが「非競合性」。追加の利用者に対して費用がかからない、ということです。少しわかりにくいですが、普通の私的財でしたら例えば私がハンバーガーを食べていて、他の人もハンバーガーを食べたいと言ったらその人のためにハンバーガーを買わないといけない。私が食べているハンバーガーをその人が同時に食べるわけにはいかない、ということです。つまり道路が提供されたら、そこに1台の車が通ろうが、2台の車が通ろうが費用は変わらない、というような性質だということです。ただし完全に非競合性があるかどうかと言うと当然自動車利用によって道路が損傷します。今後のメンテナンスの部分も莫大になる、ということを考えると道路の利用者が増えることによる道路損傷の追加コストが問題になります。

 もう1つは道路を提供して、1台、2台、3台というレベルだといいですが混雑状態が始まると、お互い車が干渉し合って速度が落ちていき所要時間が増す。完全にフリーフローで走っている以外では全員に対して追加の費用がかかる。かといって道路を新しく作るまでの費用を考えて、総費用が完全に交通量に比例するかと考えるとそうではない。追加利用者にコストはかかるけれども新設の費用まで入れるとかなり比例するというところまでいかない。いずれにしても完全に非競合性があるとは言えない、ということが一つあると思います。

道路になぜ無料開放の原則があるのか_2

 もう1つ、公共財としての性格として「非排除性」というものがあります。

 これは対価を払わない利用者を排除出来ない、または排除するには膨大な費用がかかってしまう、ということです。普通の私的財はお金を払わないと消費できない、ハンバーガーが食べたかったらハンバーガーを買わなければならない、ということなのですが、公共財の場合はいったん供給されると、使ってはダメとすると排除するのにもっと費用がかかってしまう。使いたいという人を排除するには全ての家の前に、全ての交差点にゲートをつけて人を立てて、通過料金を取らなければならないというような考え方で、そうなると莫大なコストがかかってしまいます。現実的ではない。

 ところが今や、ICTの技術で使った分だけ支払うということが出来るようになった、ということで非排除性というのも怪しくなった。もちろん高速道路は昔からゲートを作って高速道路料金を払わない人は使えないのですが、一般の街路においても排除システムが出来るようになりました。ということで非競合性、非排除性という2つの公共財の性質がかなり弱まりました。つまり道路の公共財としての性格は薄れていますが、公共財ではないと言っているわけではありません。

「間接的利用者負担+無料開放」の崩壊

「間接的利用者負担+無料開放」の崩壊

 これまでの道路の新設や維持管理に対して資金はどうしたか。間接的な利用者負担、かつ無料開放というような原則。つまり間接的利用者負担というのは道路を使う者、この場合歩行者も自転車も道路を使う人なのですが、さすがに歩行者や自転車利用者から対価はとりにくい。でも、自動車を利用する人はみんな化石燃料を使って走っている。化石燃料に税金をかけておけばこれが間接的な利用者負担の原則となるので、ガソリンや軽油に税金をかけてそれを財源とするということです。

 ほとんどの車が化石燃料を使って運転しているのであればよかったのですが、近年になってガソリンや軽油を使わない、いわゆる次世代自動車が増えてきています。むしろ政府は次世代自動車を普及促進しえいる。ということは化石燃料に課された道路の財源を払わないまま、そのような車を使いなさいと政府が促進していることになるのです。これはその他の経済的な意味があって促進しているのですが、道路の財源的には政府は自分の首を絞めていることになります。こういう次世代自動車、例えば電気自動車のように価格が高いうちは購入時に入る消費税が一般財源となりで何とかつじつまがあいますが、次第に次世代自動車も安くなるということは、どんどん財源はなくなっていくことになります。ちなみに次世代自動車はどのくらいになるかと申しますと、環境省の目標として2050年で過半数にしたいとのことで、ただし、この次世代自動車の中にハイブリッド車も入っていて全てが化石燃料を使わないというわけではありません。

 もう一方で道路特定財源制度だとか、数年前に廃止されたのですがそれにもかかわらずガソリン税、揮発油税に暫定税率として約二倍の税率を課した。何故そんな税を課すのかとたずねるとそれはなかなか政府も答えられないのが現実です。

自動車利用による環境・エネルギー問題

自動車利用による環境・エネルギー問題

 もう一つは環境エネルギー問題です。CO2で見ますと、運輸部門で2割、そのうちの9割が自動車ですので、約2割は車が排出していることになります。貴重な石油の4割が自動車に使われていて、我々が直面している地球温暖化や石油枯渇という問題の大きな原因に自動車がなっているということです。

 人類の共通の問題に対して自動車の利用を適正化していかなければならない。今のレベルの自動車利用と公共交通や自転車の利用比率は、燃料の高い暫定税率によって現在のレベルなので、これは当然、暫定税率を本来の税率に戻すともっと自動車が増えるだろうと。

 地球環境問題や石油枯渇問題にきちんと対応していくためには当然ながら炭素税、貴重な資源に対する使用を抑制するための石油税というものを現在の税率に匹敵するぐらいの税率をかけて抑止力をかけないと取り組めないだろう、と思います。今までの間接的な利用者負担と無料開放という原則が、かなりの矛盾とほころびを出してくると思われます。

利用料金による需要マネジメントの必要性

利用料金による需要マネジメントの必要性

 今まで道路の財源の話でしたが、もう一つの観点は車の需要マネジメントについてです。これはもちろん混雑という外部不経済の話もありますし、車対公共交通機関、車対自転車といった需要マネジメントを、料金によって行っていく必要があるだろうということです。

 まず「混雑」というのは明らかな外部不経済であって、自分が混雑に加担することによって全員に迷惑をかける。これらが顕著なのは都心部、観光地、特定時期の高速道路で激しい渋滞が起こるわけで、これは皆、何とかしてほしいと思っているわけです。

 もう一つは有料道路制度ですが、各種有料道路の料金制度が非常に複雑でわからない。NEXCO系、都市高速系、道路公社系それぞれ料金体系が違っていて、大きく分けて距離比例制と定額制とがあります。大都市、都市高は定額制、ちょっと外側に行って公社になると距離比例制になる。それから、ETCの割引ですがこれはわかりづらくNEXCOの方に聞いてもわからない、というくらいわかりにくい。我々もETCゲートを出るときに料金が安くなっているなと思う程度で、それでは需要マネジメントになっていない。深夜割引、平日割引、特定時間帯だけの割引などあるが、それは需要マネジメントしようと思って割引しているのに、乗る前はほぼ分からなくて降りる時に割引を知る、という状況で、あまりマネジメントに貢献していないと言えます。

 環状道路の整備ですが、もしネットワークが不完全なうえに距離比例料金にすると、環状で外を回れば回るほど割高になって損をする、という矛盾がある。各種道路の料金設定がわかりにくいだけではなく矛盾もしている。

道路利用料金制度により矛盾と複雑性の解消

道路利用料金制度による矛盾と複雑性の解消

 ということで、これらの不合理と矛盾を解消するための制度として道路利用料金制度というものが有効で、大きく2つの役割があると思われます。1つはインフラ料金徴収。これは道路の新設、維持管理、更新にかかる費用を車種・道路種・利用距離によって負担する。

 もう1つは渋滞という外部不経済、または公共交通との適正なシェアを持たせるために料金によって車の利用をマネジメントしていく役割。それには大きく2つあって、外部不経済を緩和する混雑課金、もう1つは高速道路という非常にサービスレベルの高い道路に、特急料金のような高速サーチャージをかけるという高速道路料金。途中で申し上げました、地球温暖化とか石油の枯渇という問題に対しては、道路の利用料金というよりは別途に炭素税、石油税を課して化石燃料の利用自体を減らすことが考えられます。

インフラ料金の考え方

インフラ料金の考え方

 今、インフラ料金とマネジメント料金の大きく2つをあげましたが、インフラ料金の考え方についてお話します。

 インフラ料金の単価、台キロあたりは、大きく、新規の道路を作るための料金と維持管理をする料金という2つにわけて考えられます。あまり正確ではないのですが概念的な式を書いてみました。ここでは車種を普通車と大型車にしてあります。何が違うかと言うと道路を傷める、維持管理に対する費用負担が違うということで、この式で表しています。1年間の必要な新規建設費用を1年間の乗用車の台キロと大型車の台キロで割ったものが新規建設費用の単価でこれは1台当たりです。

 もう一つは1年間にかかる維持管理費用、これを乗用車の台キロとトラックの台キロに乗用車換算係数をかけたもので割ったものが維持管理費の単価です。

マネジメント料金の考え方

マネジメント料金の考え方

 マネジメント料金単価の考え方です。前半は混雑に対する料金、もう一つが高速道路、サービスレベルの高い道路に対するサーチャージです。

 前半の混雑に対する料金は混雑税ですが、環境税的な考え方を入れた特定混雑区間通行料金となります。もう一つは高速道路に対するサーチャージ。高速道路の今の料金の決め方は償還主義ですが、これも以前の道路公団が全国のプール化で批判されましたが、どこのネットワーク整備まで償還するのかということです。償還主義ではなくて便益主義、つまり並行路線との所要時間差を考えて、所要時間差以外にも走りやすさや利用しやすさといった様々な便益を料金に換算していわゆるサーチャージのようなもの出し、それを先の混雑料金と足し合わせたものがマネジメント料金単価、という式になります。

道路利用料金制度による便益

道路利用料金制度による便益_1

 このような道路利用料金制度をもし導入した場合にどんな便益があるか。現状の問題提起の裏返しです。まず、今、分かりにくくなっている料金制度が理解しやすく、より合理的になるということです。道路利用にかかわる費用を燃料税から取るのではなく、利用そのものから徴収するという合理性。ガソリン、軽油、天然ガス、電気などエネルギー源に関わらず、道路利用の費用を利用者から徴収する。

 それから高速道路、有料道路の料金を償還主義によって決めるのではなく、並行路線と比較した便益主義によって決めるとわかりやすい。道路管理者ごとに異なる現在の料金制度を一本化する。

道路利用料金制度による便益_2

 次世代自動車の普及にも対応できる。次世代自動車を普及させるために、主に購入時に補助や減税を行っていますが、次世代自動車に対して利用料金の単価を下げるなどして利用時の普及促進策も提供できます。また、マネジメント料金の「特定混雑区間通行料金」により、現在もずっと議論されている都心部ロードプライシングや観光地乗り入れ課金がついに実施できるようになる。

 それから「高速道路サーチャージ」。北海道や九州の一般道の空いているところでも同じ距離単価だったり、それでは利用が少なすぎるので無料化の実験を行ったりしていますが、これも便益主義で料金を決めますと、例えば北海道で平行の道路とあまり変わりがない、というのであればサーチャージはあまりないということです。というように地方毎に高速料金を変えることも可能になります。 

道路利用料金制度による便益_3

 それから、道路を作る財源ですが有料道路はNEXCO、道路公社、都市高速の償還主義や料金収入に基づいて計画を立てているのですが、道路の管理主体にかかわらず広域圏で道路のネットワークを考えて、どういう料金収入が入るかということできちんとした道路ネットワークの計画が広域的にできる。新規計画だけでなく維持管理の計画もできる。

新しいマネジメント料金施策の例:PDS

新しいマネジメント料金施策の例:PDS_1

 

新しいマネジメント料金施策の例:PDS_2

 1つの新しいマネジメント料金の考え方として、PDS=パーキング・デポジット・システムのことを提案しておきます。

 今日は詳しくはお話できませんが、都心部乗り入れ課金の一種です。シンガポールなどで行われているように課金エリアに入ってくる時に課金するのですが、それはデポジット金つまり一時預かり金と考えて、エリア内で駐車場に停めた時に全額または一部返金される。またはエリア内で買い物など経済活動が行われたら全額または一部返金されるというシステムです。つまり、エリアへのお客さんからはあまりお金を取らずに、エリアを通過する交通からはお金をとるということで社会的受容性が高いだろうというシステムです。実験では、通過交通を大きく排除できる上、都心来訪者の減少は殆どなく公共交通利用者の増加もありました。社会的な受容性が高く、市民や都心事業者へのアンケートでは、ロードプライシングには反対だけれどもPDSは賛成という方が多いです。

 ロードプライシングや消費税というのは所得配分の公平性に問題があると言われていますが、PDSは所得逆進性の影響が小さく公平なシステムです。社会実験やシミュレーションをやって提案してきていますが、料金を取る制度が壁でした。これも道路利用料金制度が確立しますとその中のマネジメント料金の一つとして考えられると思います。

課題(料金単価の設定、料金算定・徴収方法)

課題1:料金単価の設定

 もちろん課題は道路利用料金制度にもありますが、おそらくこの後の話題提供、パネルディスカッションで議論するお話だと思いますので簡単にご紹介しておきます。

 道路の種類と場所によって単価をどうするか、高速道路はサーチャージという考え方ですが、高規格幹線道、補助幹線道路、細かい道路をまったく同じ単価で課すのか、という検討。車種ごとの単価の検討。

 道路の維持管理で考えると乗用車と大型車では全然に痛み方が違いますので大型車に傾斜をかける一方で、経済政策的に考えるとトラックに非常に大きな料金をかけるとモノづくり経済に影響が出てしまう。

 次世代自動車ですが道路利用料金制度の中での単価を下げるかどうかという問題がある。燃料税を高く出来るのであれば炭素税石油税などで差別化出来るが、実質的な炭素税がまだ議論中であれば道路利用料金制度の中で次世代自動車を暫定的に低くする、または購入する時の補助金や税金の減免など。

 マネジメント料金においては場所と時間帯と課金額の検討が最も大きな課題です。

課題2:料金算定・徴収方法

 料金の徴収方法は一つにはDSRCが考えられます。全車に搭載義務化が必要になりますが、どうやって全車に搭載するか。全車搭載を目指すだけならば、ナンバープレート、いわゆるスマートプレートを活用するもあります。車検ごとにこのプレートに交換すれば数年で全車交換が可能で義務化は容易です。ロンドンでやっている光学的ナンバープレート読み取りは車載器が不要で便利ですが、認識率が低いので1割くらいは人が映像をみて判断しています。衛星測位はインフラが不要です。現在はGPSを利用していますが都心の高層建築物による測位誤差が生じることや非搭載車両の識別が課題です。

課題3:制度の変更

 それから、制度の変更、現在の道路法の変更。車載器の義務化、不正車両のとりしまりなどが必要となります。

おわりに

研究調査の必要性

 最後ですが、課題はまだまだでありますので、まずは理論的な背景を明確にして国民にきちんとした説明が必要かと思います。交通計画、交通工学の分野では、代替的な料金制度によってどれくらい交通量が変わり、社会的な便益が生まれるかなどの分析が必要となります。

 やはりベースとなるのは国の組織、例えば国総研に包括的な分析をすすめていただくことかと思います。私からは問題提起ということでしたが、後半のテーマに期待して私はこれで終わりたいと思います。ご静聴ありがとうございました。

 

ページの先頭へ